黒田裕樹の歴史講座・メルマガ編

黒田裕樹の歴史講座・メルマガ編 Vol.063 軍縮と統帥権干犯問題


カテゴリー: 2017年06月21日
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    黒田裕樹の歴史講座・メルマガ編
      Vol.063  H29.06.21

        http://rocky96.blog10.fc2.com/

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こんにちは!黒田裕樹です。
通史でたどる歴史講座の「昭和・戦前編」、今回は「軍縮と統帥権干犯
問題」です。はじめのうちは軍部による反撃材料の一つでしかなかった
統帥権干犯問題でしたが、「政争の具」にされたことで、我が国に致命
的な打撃を与えることになってしまいました。

(※文章中の「◎」は、教科書において太字などで強調された重要語句
です。文末にもまとめて掲載しています)

「軍縮と統帥権干犯問題」
http://rocky96.blog10.fc2.com/blog-category-534.html

大正11(1922)年に結ばれたワシントン海軍軍縮条約によって、
主力艦の保有総トン数をイギリスやアメリカよりも低く制限された我が
国でしたが、巡洋艦・駆逐艦(くちくかん)・潜水艦といった補助艦は
制限されていなかったため、各国による補助艦を中心とする軍拡競争が
続いていました。

このため、補助艦についても主力艦同様に制限をかけるため、昭和2(
1927)年にスイスのジュネーヴで、アメリカ・イギリス・日本の3
ヵ国間で討議されましたが、アメリカとイギリスとの意見の衝突によっ
て物別れに終わりました。これをジュネーヴ軍縮会議といいます。

その後、昭和3(1928)年には、アメリカやフランスの提案によっ
て各国の代表がパリに集まり、国際紛争の解決や国家の手段としての戦
争を放棄することを規定した、パリ不戦条約が結ばれました。

もっとも、不戦条約によって一切の戦争を放棄したわけではなく、自衛
のための戦争は認められるという見解を、我が国を含む各国が持ってい
ました。ただし、自衛戦争の範囲がどこまで認められるかについての明
確な規定がなかったために、後に中国大陸などでの我が国による政策や
軍事的行動が、「不戦条約違反」として各国から非難されるようになっ
たのです。

なお、パリ不戦条約には、違反した場合の制裁の規定はありませんでし
た。

昭和5(1930)年、イギリスの仲介により、補助艦の制限を主な目
的として、アメリカ・イギリス・日本・フランス・イタリアの5ヵ国で
ロンドン軍縮会議が行われ、我が国は若槻礼次郎元首相を全権大使とし
て派遣しました。

会議では各国の意見が対立して難航しましたが、主力艦の建造禁止を昭
和6(1931)年末から昭和11(1936)年末までさらに5年延
長することや、補助艦の総トン数をアメリカ10・イギリス10.29
・日本6.97の比率にまとめることになりました。

しかし、かねてよりアメリカを仮想敵国として、政府から軍事予算を引
き出させるとともに、対米戦に備えて補助艦たる潜水艦の建造を増やし
ていた日本海軍の軍令部は、補助艦の建造が不可能となる軍縮条約の締
結に猛反対しました。

これに対して、当時の浜口雄幸内閣は、幣原喜重郎(しではらきじゅう
ろう)外務大臣による協調外交を展開しており、また金解禁の実施のた
めに徹底した財政緊縮の必要があったことから、◎ロンドン海軍軍縮条
約の締結を決断しましたが、このことが日本国内に大きな波紋を呼ぶこ
とになるのです。

ロンドン海軍軍縮条約の締結後、軍部を中心に「海軍軍令部長の同意を
得ないで政府が勝手に軍縮条約を調印した行為は、憲法に定められた◎
統帥権(とうすいけん、軍隊を指揮する権利のこと)の干犯(かんぱん
、干渉して他者の権利を侵すこと)である」として、政府を攻撃する声
が高まりました。

なるほど、確かに大日本帝国憲法(=明治憲法)の第11条には「天皇
ハ陸海軍ヲ統帥ス」とあり、条文を素直に読めば、統帥権は天皇のみが
有するという規定となりますが、実際にはもちろん天皇ご自身が指揮を
取られることはなく、陸軍や海軍の責任者が握っていました。

また、そもそも国の軍備について決定を下すことは統治権の一部であり
、統治権は天皇の名の下に内閣が行うものです。従って、軍部による主
張は統帥権の拡大解釈に過ぎず、統帥権干犯問題は軍部による反撃材料
の一つでしかありませんでした。

ところが、時の野党である立憲政友会が、「与党の攻撃材料になるので
あれば何でもよい」とばかりに、統帥権干犯問題を政争の具として、軍
部と一緒になって政府を攻撃したことで、話が一気に拡大してしまった
のです。

ちなみに、この時に政府を激しく非難した政友会の議員の一人である鳩
山一郎(はとやまいちろう)は、鳩山由紀夫(はとやまゆきお)元首相
の祖父です。

軍部や立憲政友会の攻撃に対して、浜口雄幸首相は「大日本帝国憲法の
第11条や第12条には、確かに天皇の統帥権の独立が定められている
が、同時に第13条において、天皇の外交大権が規定されている。しか
し、実際には立憲制度の下の責任内閣を通じて外交を行っており、統帥
権についても同じではないのか」と反論しました。

ところが、軍部が火をつけ、政友会が油を注いだ統帥権干犯問題はもは
や止めることができず、ロンドン海軍軍縮条約そのものは何とか批准(
ひじゅん、国家が条約の内容に同意すること)に成功したものの、浜口
首相が昭和5(1930)年11月に東京駅で狙撃されて重傷を負い、
翌昭和6(1931)年4月に内閣総辞職をした後、同年8月に死亡し
ました。

統帥権干犯問題は、確かに大日本帝国憲法における欠陥ともいえました
が、憲法制定当初は全く問題視されていませんでした。それがなぜ、制
定から40年以上も経ってから、我が国に深刻な影響を与えるようにな
ったのでしょうか。

その背景には、例えば伊藤博文のような明治維新の元勲(げんくん、国
家に尽くした大きな功績のある人のこと)たる元老(げんろう)の存在
があったのです。


元老は憲法のどこにも規定がなかったのですが、そもそもは明治維新に
功績のあった人々の話し合いの場であり、伊藤博文(いとうひろぶみ)
や山県有朋(やまがたありとも)、井上馨(いのうえかおる)、松方正
義(まつかたまさよし)、黒田清隆(くろだきよたか)など錚々(そう
そう)たるメンバーが揃(そろ)っていました。

そもそも明治維新や明治新政府は、元老たちが明治天皇の下で起こした
のですから、元老の意見は天皇の意見と同じだけの重みをもっていまし
たし、その元老たちの推薦(すいせん)によって内閣総理大臣が選ばれ
たことから、首相や内閣も天皇や元老と一体のものと考えられていたの
です。

これだけの重みがある以上、たとえ大日本帝国憲法に規定のなかった内
閣であっても、その指導力はいかんなく発揮(はっき)され、日清戦争
や日露戦争の際にも、その絶妙な政治的判断によって、我が国は国難を
何度も乗り越えてきました。

しかし時が流れ、昭和を迎える頃には、元老のほとんどが死に絶えてし
まい、大正期に元老となった西園寺公望(さいおんじきんもち)のみと
なってしまいました。こうなると、元老の意見が天皇の意見と同じであ
ると誰も思わなくなり、同時に内閣の権威も低下してしまったことで、
統帥権干犯問題が表面化してしまったのです。

そして、そんな統帥権干犯問題をさらに拡大してしまったのが、本来は
軍部をコントロールする立場であるはずの政党であったことが、何とも
言えない皮肉でもありました。

はじめは軍部が持ち出した統帥権干犯問題は、現実に浜口首相が先述の
答弁で述べているように、議会の場において否定することは決して不可
能ではありませんでした。

しかし、当時の野党であった立憲政友会が、「政争の具」として軍部と
一緒になって浜口内閣を攻撃したことが、憲政を擁護(ようご)する立
場であるはずの政党政治に、致命的な打撃を与えてしまったのです。

なぜなら、政党政治を行う立場である政党人自らが、「軍部は政府の言
うことを聞く必要がない=内閣は軍に干渉できない」ことを認めてしま
ったからです。事実、この問題をきっかけとして、我が国では軍部の独
走を事実上誰も止められなくなってしまうようになりました。

さらには、政府のいうことを聞く必要がなくなった軍部自体も、似たよ
うな悩みを抱えることになりました。なぜなら、軍のトップが憲法を盾
(たて)に政府の言うことを聞く必要がないということが、自身の部下
に対して「政府の言うことはもちろん、陸海軍の中央の意向も確認する
必要がない」という風潮を同時に生み出してしまったからです。

やがて我が国では、青年将校を中心に軍部による「血の粛清(しゅくせ
い)」が当たり前になったほか、陸軍首脳が全くあずかり知らないとこ
ろで、現地の軍隊が勝手に軍事行動を起こすようになりますが、これら
は元はといえば、国家全体の指揮系統を弱めた政治家や軍部の責任でも
あるのです。

なお、統帥権干犯問題は、最後には国家の統治機関の中心部にまでその
影響が及び、我が国は果てしない戦争への道を歩むことになります(詳
しくはいずれ機会を見て紹介します)。

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  今回の重要語句(教科書において太字などで強調されたもの)

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◎ロンドン海軍軍縮条約
◎統帥権の干犯(統帥権干犯問題)

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  最後までお読みいただき、有難うございました。
  次回(Vol.064)は6月28日に発行します。
  「満州事変」

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◎発行責任者:黒田裕樹(大阪府内の公立高校非常勤講師)

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