━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 平成28年5月4日 知的財産と調査 第30号 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 本メールマガジンでは、 弁理士である著者が、知財に関するニュース、セミナーの情報、書籍の 紹介の他、特許調査等で役立つ実務上のテクニックをお伝えします。 ---------------------------------------------------------------------- ■弁理士の角田 朗です。本号もよろしくお願いします。 第30号のメニューは以下になります。 ■特許庁審査に人工知能を導入 ■知財のセミナー紹介 ■知財の新刊紹介 ■知財に関するQ&A ■編集後記 ___________________________________ ■特許庁審査に人工知能を導入 ___________________________________ 先週、特許庁が審査に人工知能を導入する方針を固めたという、NHKの報道が ありました。 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160430/k10010504711000.html 特許庁には、年間50万件を超える特許や商標、それに意匠などが出願されます。 担当者は過去に同じ発明がないかどうか膨大な文献にあたって手作業で調査を 行っていて労力がかかっています。このため特許庁は、人の手による作業の 一部をAI=人工知能に任せ、作業を効率化するシステムを導入する方針を 固めました。 新しいシステムではAIが出願内容をジャンルごとに分類したり、書類の不備を 発見します。また、世界中で発行されている特許の文献を検索して似たような 出願がないかどうかチェックし、審査官による特許の判断作業を支援すること にしています。国の事務作業にAIを導入するのはこれが初めてのケースと なります。 便利なツールがあれば審査でも使う、当然のことと思います。一方、人工知能が 発達すると、人間の仕事がなくなるのではと心配される方もいます。 昨年、UBIC社が人工知能を応用した特許検索システムを発表し、特許情報フェア でも話題になりました。 http://www.ubicliv.com/products/patent-explorer/ このシステムでは、見つけたい文書(発明提案書、無効化したい特許資料等)の 内容を教師データとしてUBICの人工知能に学ばせ、人工知能は対象のファイルを 解析し、スコアリング(点数付け)して文書を仕分けします。仕分けの結果、 教師データとの関連性が高い文書がスコア順に並び、調査の着手に優先順位が つけられることで、特許関連文書のレビュー効率が格段に向上するとのことです。 仕組みを聞けばわかるように、人が必要な文献と不要な文献を教師データとして 学習させることで、検索の精度が上がって行くシステムです。 人工知能は文献の絞り込みを手伝ってくれますが、必要な文献か否かは、人間が 判断します。 新規性や進歩性など特許要件を満たしているかは、結局のところ、人工知能では なく、人間が判断します。侵害か否かを最終的に判断するのも人です。 どのような特許戦略を取るべきかというコンサルティングも、人間が行う仕事 でしょう。 要は、人間にしかできない仕事を人がして、コンピュータやロボットにできる 仕事は、任せれば良いということだと思います。 すなわち、付加価値のある仕事をしていれば、人工知能が普及しても、自分の 仕事がなくなることはないでしょう。 ___________________________________ ■知財のセミナー紹介 ___________________________________ 1.北大サマーセミナー2016 http://www.juris.hokudai.ac.jp/riilp/event/summer-seminer2016/ 2016年8月18日(木)~8月21日(日)開催です。申込受付が始まりました。 大合議制度、侵害論、知財戦略、プロダクト・バイ・プロセス最高裁判例など、 特許の最新テーマが講義されます。 2.RCLIP 平成27年職務発明制度改正を考える http://www.rclip.jp/reservation/0511reservation.html 2016年5月11日(水) 18時30分-20時30分開催です。 立法事実の評価を通じて27年改正の意義を検証するとともに、27年改正にも 引き継がれた不合理性判断と実体面の関係について、平成16年改正下の野村 證券事件判決も踏まえつつ、検討するとのことです。 3.IPrism 5月IPセッション(全3回) http://www.iprism.osaka-u.ac.jp/sympo/H28-IPsession.pdf 今月は大阪大学で3つのシンポジウムが開催されます。 5月18日 竹中 俊子教授講演会 アメリカ・ドイツ特許訴訟の比較及び トランスナショナル特許権行使戦略 5月24日 Heinz Goddar 先生講演会 Global Litigation/Defence as an Instrument for Handling NPEs 5月31日 IPrism国際知的財産シンポジウム コンピュータ関連発明のクレーム・明細書作成戦略: 日欧米の審査実務に 即した機能的クレームの活用 4.特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)講習会 http://comm.stage.ac/j-platpat28/ 5月27日(金)を皮切りに、全国の主要都市で開催されます。1人1台パソコンを 操作しての受講できるとのことです。 5.営業秘密・知財戦略セミナー http://www.inpit.go.jp/katsuyo/tradesecret/28fyseminar.html 営業秘密の管理・活用方法及び知財戦略の他、海外知的財産活用講座も開催され ます。4月28日(木)東京1は開催済みですが、引き続き、5月20日(金)大阪1、 6月10日(金)名古屋1、6月24日(金)東京2が開催されます。 ___________________________________ ■知財の新刊紹介 ___________________________________ 1.「日米欧 重要特許裁判例 第2版 -明細書の記載要件から侵害論・損害論まで」 http://www.zoomin.co.jp/patbank/books/annai.html 初版発行後の重要19判例を追加し、日本:54判例・米国:35判例・欧州:5判例、計94 判例をコンパクトに解説したとのことです。 2.「知的財産法II 著作権法 (有斐閣ストゥディア)」 http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641150218 著作権法の諸問題を初学者でも自ら考えられるよう、やさしい事例から説き起こし、 先端的な問題にも触れることで、初学者が無理なく著作権法の全体像を学ぶことが できるテキストとのことです。 3.「これからの知財入門―変革の時代の普遍的知識」 http://ec.nikkeibp.co.jp/item/books/253010.html 山口大学 大学研究推進機構 知的財産センターが実際に教材として活用している 書籍で、著作権法や特許法、意匠法、商標法など知的財産に関わる法律について、 具体的な事例、判例を基に、実践的な知識を体系的に学べるとのことです。 4.「不正競争の法律相談I・II」 http://www.seirin.co.jp/book/01682.html http://www.seirin.co.jp/book/01683.html 「表示」「形態」の模倣、「営業秘密」の漏えいなど、現実の「不正競争」を 読み解くため、70名を超える専門家が100問の重要問題に答えたとのことです。 5.「企業秘密事件判決の総括」 http://books.chosakai.or.jp/books/catalog/29750.html 営業秘密・企業秘密への適正な対応の重要性にかんがみ、これまでの営業秘密、 企業秘密関連判決(民事・刑事)を取り纏めた書籍です。 ___________________________________ ■知財に関するQ&A ___________________________________ Q:特許の請求項(特許請求の範囲)に自社と関係する技術が書かれていれば、 特許権の侵害となりますか? A:請求項に自社と関係する技術が記載されていても、請求項に書かれた 構成要件(発明特定事項)を全て充足しなければ、原則として特許権侵害には 該当しません。 例えば、請求項が「ボルトを回転させて磁石盤を固定し、かつ解除させるように したマグネットフック」である場合に、 自社製品が「ボルトを回転させて磁石盤を解除させるようにしたマグネット フック」は、構成要件の「磁石盤を固定し」を充足しないため、原則として侵害 ではありません。 上記を記号化して考えると、特許の請求項が「A+B+C+D」で、自社製品が 「A+C+D」の場合、自社製品は構成要件Bを充足しないため、権利範囲には 含まれないことになります。 ただし、最近は日本でも均等侵害が認められるケースが増えつつあります。 自社製品が請求項の構成を全て備えていなくても、技術的思想が似ていれば、 調査結果には含めて報告したほうが良いでしょう。 侵害調査に関しては、先行技術調査と考え方が全く違うため、苦手意識を持た れている方も少なくないようですが、正しい知識を身に付けておくことは非常に 重要と思います。 ___________________________________ ■編集後記 ___________________________________ 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 メルマガも今回で30号になりました。今年のGWは帰省されたり旅行される方も おられる一方で、暦通り仕事の方も少なくないようです。 GW明けが、実質的な新年度始まりという職場もあるかもしれません。 自分は連休中も、こうやってメルマガを書いていますが、連休明けにすぐに 仕事を開始できるよう、リフレッシュしておくことも大切かもしれませんね。 ご感想・ご意見等、ありましたら、いつでもご連絡下さい。 (角田) ___________________________________ メールマガジン「知的財産と調査」 ☆発行責任者:角田特許事務所 ☆公式サイト:http://www.tsunoda-patent.com/ ☆問い合わせ:info@tsunoda-patent.com/ ☆登録・解除:http://www.mag2.com/m/0001621127.html