古代史探求レポート

日本という名の技術と文化


カテゴリー: 2017年12月05日
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古代史探求レポート 2017年12月6日号
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中国は、英語でChinaです。これを小文字でchinaと書くと、陶磁器という意味になります。世界中に陶磁器の素晴らしさを見せつけたのは中国であったからなのです。では、日本は、英語でJapanです。これを小文字でjapanと書くと、どのような意味になるかご存知でしょうか?答えは、「漆器(しっき)」です。欧米でこれぞ日本と呼ばれたのは漆塗りなのです。もしかすると、1800年代の万国博覧会の出展物が欧米人に大きな衝撃を与えたのかもしれません。
漆(うるし)の木は東アジアから東南アジアにかけて生育します。欧米には、この漆の木が存在しないのです。だからこそ、この漆を塗料や接着剤として使う国々は限られており、また、欧米では類似の技術は全く存在していなのです。漆の文化を持つ国も非常に限られた国々なのです。そして、光沢を伴った赤漆や黒漆の輝きは、日本の色なのです。
自分自身の生活を考えてみても、最近はあまり漆塗りのものは利用しないようになりました。それでも、毎日使っている箸は漆塗りの箸です。お正月になると、やはり漆塗りのものが多くなります。お雑煮のお椀は漆塗りですし、おせち料理の入った重箱はやはり漆塗りです。みかんも、塗り物に入っていたりしてコタツの上に置かれています。お屠蘇も、一献は漆塗りの盃でいただいたりもします。ただし、箸は祝い箸になりますから、塗りのものは使いません。
そう考えてみると、漆器は今でも私達の生活の中に入り込んでいます。今回は、この日本を代表する文化「漆」を探求してみたいと思います。
漆というのは漆の木の樹液のことです。この樹液を塗料として使って、塗ったものが漆器と呼ばれるものになります。漆の樹液は酸化すると固まります。漆の工房では、漆で塗ったものを適当な湿度のある部屋に入れて乾燥させます。この部屋を湿し風呂(しめしぶろ)と呼ぶのだそうです。すると、1時間を過ぎる頃には固まってしまいます。この化学反応を酸化重合と呼んでいます。
このことからもわかるように、漆の大きな特徴の一つは、熱や湿気に驚くほど強いということです。湿気で化学反応を起こしてしまうので、湿気を吸って腐食するようなことが起こり得ないのです。それだけでなく、酸やアルカリにも非常に強いのが漆の塗料としての特徴です。だから洗剤にも負けません。こうして、日本では長く生活の中で使う道具には、漆が塗られるようになったのです。
また、この酸化重合により固まってしまう性質を利用して、昔は接着剤として活躍しました。小麦粉や膠(にかわ)などを混ぜて、陶器やガラスの修理に使われているのです。
その上言うまでもなく、漆の魅力というのは、その美しさにあります。漆で塗ると表面には非常に美しい光沢ができます。漆の樹液に含まれるウルシオールと呼ばれる高分子化合物が酸化して粘度を持つわけですが、この漆液は粒子が凸凹しており光を乱反射するのです。だからこそ、そこに他では作れない光沢を生み出すことができるのです。
では、日本ではいつ頃から漆が活用されているのでしょうか。
北海道の南、函館の東側に突き出る亀田半島の太平洋側に南茅部町という町がありました。今は函館市に編入されています。この南茅部町には、縄文時代早期の大規模な集落跡の遺跡である垣ノ島遺跡があります。2000年頃から発掘が続けられていましたが、土拡墓の一つから大量の漆製品が出土しました。櫛、腕輪、朱色の玉、それに漆の糸で編んだものなどです。これらの出土品に放射性炭素14を利用した年代測定を行うと、驚くなかれ約9000年前の物ということが判明しました。
それまでの世界最古の漆器の出土は、中国の殷の時代の遺跡であった中国淅江省の河姆渡(かぼと)遺跡から出土した8000年前のものでしたので、北海道の垣ノ島遺跡(正確には垣ノ島B遺跡)出土の漆器が世界最古のものとなったのです。漆器であるからこそ、その耐久性から残ったのですが、縄文時代の文化の高さと日本の縄文文化の広がりの理解に非常に大きな一石を投じました。
ただ、日本の縄文時代の漆器の発掘はここだけではありません。新潟県長岡市にある大武遺跡(だいぶいせき)の谷底から、約7000年前の縄文時代前期の土器や石器が大量に発掘されました。その中に、植物繊維で縒(よ)った太さ2ミリの紐の外側に赤色の漆を塗った漆紐がありました。また、出土した土器の中には漆を焼き付けた漆塗土器が出土しました。
山形県高畠町にある押出(おんだし)遺跡も、縄文のタイムカプセルとして騒がれた遺跡です。5800年前に低湿地に縄文の村ができたのですが、100年後には水没してしまったことがわかっています。そのため、縄文の村がそのままの形で残ることになったのです。押出(おんだし)遺跡を有名にしたのは、栗や、胡桃の粉を練って作るクッキーが見つかったことでした。縄文クッキーとして名付けられ一躍有名になりました。
そして、ここでも、土器や木製品や編み物などに漆を塗ったものが数多く見つかったのです。中でも、芸術品の域まで達しているのが彩漆土器です。土器の表面に地を赤漆で塗り、その上に黒漆で文様を描いているのです。
この彩漆土器の口の周りには、紐を通すためのような小さな穴が等間隔に開けられています。動物の皮か何かで蓋をしていたのかもしれませんが、もしかすると太鼓のようなものであったのかもしれないと想像を駆り立ててくれます。
美術的な美しさを持つものであり、そこから音楽が生み出されていたとするなら、山形県高畠町にいた縄文人達はなんて素晴らしい文化的な生活を営んでいたのだろうと本当に驚かされるのです。この異質感は、もしかするとタイムスリップした人間が生み出したのではないかと思わせるほどのものが存在するのです。
漆の文化は中国から伝わったものではなく、日本に多生していた漆の木を使って、その樹液が粘性をもち光沢があることに気付き、それを使った非常に文化豊かな生活を誰が教えるわけではなく自然と身につけていったと考えるのが適当かと思われます。祖先の偉大さに脱帽です。
縄文時代、漆の文化は既に人々の中で、当然のように普及し使われていたことがわかるのですが、日本におけるこの何千年にもわたる漆器の文化は非常に早い時期に、驚くべきまでの芸術品を生み出していきます。
皆さんは、東大寺の正倉院に保管されている、金銀鈿荘唐大刀 (きんぎんでんかざりのからたち)という刀剣を見られたことがおありでしょうか。正倉院展などの機会を通して是非とも見ていただければと思います。もちろん、これは奈良時代の作品です。唐大刀と記載されていますが、純国産であろうと言われています。
鞘は木製ですが、その上に動物の薄い皮を張り、漆を塗って金の蒔絵(まきえ)が施されています。蒔絵、正式には研出蒔絵と言いますが、どのようにして作るのかと言いますと、まずは、透明な透漆(すきうるし)で、文様を描きます。その文様の上に金粉を蒔き付けます。漆の粘着性を利用しているので剥がれません。その上からまた、全体を漆で塗り込みます。
固まったら、漆表面を炭で研ぎ出して、磨き上げます。すると、金粉の上にできた漆の膜が剥がれ非常に美しい模様が出来上がります。こうやって、上塗りをして削り取りますから、模様に凸凹がなくなります。そして、金粉が点描したかのような線を描くのです。
そして、この金銀鈿荘唐大刀の漆塗りを分析した方によると、なんと、蒔絵の上に、再び蒔絵を施すとう技法を使い、5回も漆を塗り重ねられているのだそうです。なぜ、そのように何度も重ねたかというと、蒔絵の模様に奥行きを作り出したかったからではないかということのようです。
蒔絵の金粉には、わざと少量の銀を混ぜ込んでいるのだそうです。そうすることで、金粉が均一の粉ではなく、不均一な粉になるのだそうです。そうすると、小さな粉は漆の中に埋没してしまいます。埋没してしまった粉は、金色ではなく漆を通して赤く見えるのです。こうして金の模様にほのかな赤の影を入れているのです。
この美への追求心には、尊敬以外何物も存在しません。そして、これが奈良時代のことであるのですから、日本の芸術の奥深さにはただただ驚愕するばかりです。この作品がどこで作られたかはわかりませんが、正倉院のある奈良では、今でも漆器の産地の一つとして名をあげています。
現在、日本には、四大漆器の産地と呼ばれる場所が存在します。和歌山県の根来塗りでおなじみの紀州漆器、福島県の会津漆器、石川県の山中漆器、そして、福井県の越前漆器です。
紀州漆器は室町時代が起源とされており、会津漆器は豊臣秀吉の命により蒲生氏郷が起こしたものですから安土桃山時代が始まりです。山中漆器も同じく安土桃山時代から始まったものです。
これらの場所では、漆器の作成方法も近代的な分業体制となり、素地、下地、塗り、加飾などの工程に分割されて、それぞれの専門職人が集まることで産地を形作っていきました。縄文からの流れをくむと言うのとは、少し異なります。
これに対し、越前漆器は少し異なります。若狭町にある鳥浜貝塚は、縄文時代前期である今から6000年程前の遺跡になりますが、ここからは、赤漆塗りの櫛が発掘されました。それ以外にも1万2600年前という漆の木の枝が発掘されて話題にもなりました。勿論、世界最古の漆です。この伝統が福井県一帯に広がって行ったのかはわかりませんが、6世紀の頃の継体天皇の話が伝わります。
継体天皇が即位する前にまだ越前で暮らしていた頃、こわれた冠の修理を片山村の塗師に依頼しました。片山村は、現在の福井県鯖江市の一部です。この時漆師は、冠を漆で修理するだけでなく、漆で塗った黒塗りの椀を献上したところ、継体天皇はそのできばえにいたく感動し、片山村で漆器作りを行うよう奨励したことで漆器の製造が盛んになったのだそうです。これが、今日まで続く越前漆器なのです。
大量生産はできないことから、四大漆器には入りませんが、全国的に名前の知れた輪島塗もまた、縄文からの歴史をつないでいます。七尾市の三引遺跡からは6800年前の漆製品が出土し、輪島市の屋谷B遺跡からは平安時代の漆塗り製品が出土しました。ただ、現在の輪島塗と言われる技術は、江戸時代以降に出来上がったもののようです。長い年月をかけて培われた技術に、近代的な工芸手法を取り入れた本物の伝統工芸です。
現在、漆器の産地として名乗りを上げている箇所は、全国に約30〜40箇所。伝統の技のみに固執するのではなく、独自の技術を付加して新たなる漆器を作り出しているところもあります。japanとして世界に浸透する日本ならではの文化、先祖が繋ぎ続けた数千年の技術を、私は心から誇りたいと思っているのです。
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<<編集後記>>
子供の頃は山に入ると、よくウルシにかぶれてしまいました。簡単な塗り薬で治ったような記憶があるのですが、重症になる方もおられるようですね。漆は幹に傷をつけて樹液を集めるのですが、漆の木は傷つけられた傷を塞ぐために樹液を出すのだそうです。
今、日本では漆の樹木を丸ごと伐採して、全ての樹液を絞り出すということをやっているようです。中国をはじめ、ベトナムやミャンマーは、生きた木に傷をつけ、また、何年かしたら再度そこから採取するのだそうです。原木がなくなってしまうようなことがないように、くれぐれも気をつけてもらいたいものです。一万年の伝統を、現代で終止符を打つことのないように願うばかりです。

<発行者> 株式会社歴史探求社
<公式サイト> www.rekitan.co.jp
<問い合わせ> web@rekitan.co.jp
<登録・解除> http://www.mag2.com/m/0001587982.html  

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僕は『絶対倒産する』と言われたOWNDAYSの社長になった。
売上20億,負債14億,赤字2億『絶対倒産する』と言われ、メガネ業界内ではただの質の悪い安売りチェーンと馬鹿にされ続けていたOWNDAYS(オンデーズ)を30歳の時に買収し社長に就任。その後、10年間で奇跡のV字回復を遂げて、売上150億,世界10カ国に進出するまで・・、みたいな巷によくある再生物語。半分ノンフィクション。半分はフィクション。いつまで、どこまで書き続けるかはまだ未定です。 https://www.owndays.com Twitter:https://twitter.com/shuji7771 blog:https://ameblo.jp/shuji7777/
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