九雀通信

永遠なる落語台本


カテゴリー: 2017年10月03日
 去年の10月4日に「弟子、親元へ帰る」を書いてから、丸々1年が経ちました。なかなか書けないものです。時間が全くないわけではないのですが、このメルマガよりも優先して書かないといけないものが多すぎて、手が回りませんでした。
 「売れっ子作家でもあるまいに、いったい何を書いてたんや?」とご不審の向きもございましょうが、これがまぁ、次から次へと書かなあかんのです。
 落語台本。これをひたすら書いております。と言うても、新作落語を量産しているわけではなく、既成の落語を、ワープロ打ちして、字にする作業をしております。それらを分類しますと以下のようになります。

<1> 新しく自分が手掛けるネタ
 落語のネタは多すぎて、まだまだやってないネタがあります。それらをネタ下ろしする時に、先人がやったものを「丸呑み、丸覚え」は、しないことにしています。真似になってしまったり、既成概念に囚われて、新しい発想が出にくくなりますので。
 粗筋はわかっていますから、そこから登場人物達に勝手に喋らせて、台本を書いていきます。その段階で、構成や言葉も精査します。自分で声に出しながら書いてきますと、自分にとって一番覚えやすい台本が出来上がりますし、書き上がった時には、おおよそ覚えてしまっています。
(例)金明竹、風呂敷、蛸芝居、質屋芝居、帯久、辻占茶屋、土橋万歳・・・

<2> すでに持ちネタではあるが、まだ台本になっていないネタ
 後輩の落語家に稽古を頼まれた時に、一から口移しというのは、時間と体力が追いつきません。
 台本を渡して、それを教科書にして稽古をしていきます。よって、その台本が必要になってきます。ところが、よくやっているネタほど、頭に入っている理屈で、わざわざ字にする必要がありませんので、台本がないんです。ところが、そういうネタに限って、稽古の要請が多い。そりゃそうですわね。私が得意にしてるネタを習いに来るんやから。だから、その時点で書くことになります。大阪の落語家、上方落語をやっている東京の落語家(これがけっこう居ます)、そして、指導しているアマチュアの方々など、色々な稽古に必要になります。
(例)青菜、植木屋娘、親子酒、くしゃみ講釈、鷺捕り、狸の賽子、天狗裁き・・・

<3> 九雀はやらないけれど、アマチュアの方が希望するネタ
 アマチュアに落語指導を始めて10年になります。奈良県王寺町の小学生たちに始まり、翌年からNHKカルチャー西宮教室。それからあちこちの教室やサークル、うちの家まで来られる方もあり、今、40人くらい指導しております。ご自分のお稽古するネタは、基本的にご自分で選んで頂きます。「九雀さんにお任せします」は、一番困る。40人分のネタを選ぶ作業は、考えただけで、気が遠くなりますから。
 「ご自分で選んで下さい」と言った手前、やりたいと言われたネタは、私が台本を作るしかありません。
よその教室では、「市販の本で覚えて下さい」とか「インターネットから拾って下さい」ということもあるかも知れませんが、私はそれはお勧めしません。市販の落語本は、江戸落語が大半です。上方落語は米朝全集に頼ることになります。が、しかし、米朝台本のまま出来るくらいなら、すでにアマチュアじゃないわけで、要約して短くしないと使えません。またネット上にある台本は、テレビやラジオで放送された物の書き起こしで、演者の個性がきつすぎて、とてもアマチュアの人がやれるものではありません。
 そんなわけで、私がやったこともない、場合によっては、題名すら聞いたことのないネタを、私が書くことになります。これは、なかなか時間がかかります。あるだけの資料を集めて、読み比べ、聞き競べ、ネタの本質を自分なりに解釈してから、書き上げます。
 そしてアマチュアの方々がそのネタを発表会でやっているのを見ると必ずこう思います。「これ、自分にも出来るかも?」と。そこから、持ちネタになった物が、多数あります。
(例)短命、長短、蕎麦の殿様、竜田川(=千早振る)、夢の酒、口合小町、豆屋、六文銭(=真田小僧)・・・

<4> 噺劇で上演したあと、落語に書き替えるネタ
 12年前に始めた噺劇。自分の持ちネタでないもの、演劇にしやすいもの、人情が勝ちすぎたもの、このあたりを基準に、演目選定をしております。しかし、実際にやってみると、そのネタの別の面白さに気付いて、「ひょっとしたら、落語でもやれるかも」と思うことが多々あります・・・て、元々が落語ネタなんですから、当たり前なんですが。
 そうなるとやってみないと気が済まない。というわけで、噺劇から落語化したものが出来上がります。噺劇で使ったお囃子が、そのままハメモノとして残りますので、他の落語家が聞いたら、「おいおい、そんなとこで音を入れるのか?」みたいな、不思議な物が出来上がります。
(例)御神酒徳利、文七元結、三味線栗毛、ねずみ。

<5> パソコン導入以前の、小佐田定雄氏の原稿
 小佐田先生は、私にとりまして、全くもって有り難いお方です。若い頃から、新作、古典の改作などを多数頂いております。表看板にさせて頂いているネタのおおかたが、先生の影響を受けていると言っても過言ではないでしょう。齢60を過ぎた、芸歴40年の先生は、時代に取り残されることなく、最近はパソコンデータという形で、作品を送って下さいます。
 ところが、世にパソコンが出回る前の先生の原稿は、初期は手書き(なかなか味のある字です)、その後が、パソコンで動作するタイプではない「ほんまのワープロ」原稿でした。この二つは、紙の資料としてのみ、我が家に存在しますので、これらをデジタル化していっております。
(例)A型盗人、どろぶん、ヴィオロンの嘆き、次の節季、弱気の医者など多数

 ざっと、こんな感じです。これらを書く作業が全く終わりません。まだまだ字になってない持ちネタが、アホほどありますが、それらを書く前に、上記1~5の作業が割り込んで来ますので、遅々として進みません。一生終わらないですね。おそらく。
 まさに「永遠なる落語台本」です。

 しかし、一度、字になってしまえば、こっちのものです。忘れたネタを久し振りにやる時も、その台本を見て丸一日、根を詰めて稽古すれば復元できます。また、稽古人に台本を請求されたら「喜んで!」と渡せます。
 以前は、パソコンから印刷をして、パンチで穴を開けて、麻紐で綴じるという、小学生の文集製作みたいな作業をしておりました。
これは、これで楽しいのですが、3~4日のツアーでネタを決めてない落語会へ向かう時など、「ひょっとしたら、やるかも」みたいなネタの台本を全て携行していますと、20冊くらいになってしもて、重たい、重たい。

 「落語家さんてすごいなぁ、ネタが全部、頭に入ってはる」という、謂われなき尊敬をする人がいますが、それは大変な誤解です。そりゃ、しょっちゅうやるネタは頭に入ってまっせ。そうでないネタでも粗筋くらいは知ってます。でも落語家はIQ200人間の集団と違いますねん。時に台本を見直して、口に出して稽古するという、ごく当たり前の作業をしないと、高座にはかけられません(それでも間違う。そこは誤魔化す。しかしバレる)。だから、旅先へも台本を携行します。
 
 そんな、ある日、内儀さんが、DropBoxなるものの存在を教えてくれました。誰がどこに保管してくれているのか、今だにわかりませんが、とにかく、善意の市民が、私の台本を預かってくれていて、auの電波を通じてASUSのタブレットに送ってくれるとみえて、台本が出てきますねん。いやはや便利。「いやぁ良え物を教えてくれた」と、内儀さんに感謝するとともに、仄かに湧き起こった「何故もっと早く教えてくれないんだ!」という怒りは、発展途上人の僻みだと、自分に言い聞かせて、体内に収めました。
 このDropBoxさんの素晴らしいのは、私が許可さえすれば、他の人とも内容を共有できるというところです。よくお願いするお囃子さん達は、いつでも台本を閲覧できるようになっていますので、ハメモノきっかけを一々伝えなくても、事前に確認して頂けるわけです。

 落語を字にすることにより、もう一つ便利なことがあります。
 facebook。この人もDropBoxさん同様に有り難い人です。先ほど申し上げたアマチュアの生徒さん達も、大半はfacebookをやってはります。そして、その方々が全員参加するグループを拵えて、共有のメッセージが送れます、とこんなことは、メルマガを読むような皆さんは、当然、ご存じなわけで。
 そのメッセージ欄へ、仕上がった落語台本をドンドンとアップしていきます。前は、このネタをやりたい、とリクエストした人に、個別にメールで送っていましたが、そんなことをしなくても、全員が読めるところへアップすれば、いいと気付きました。生徒さんの落語知識向上やら、次に取り組みたいネタの参考にもなりますし。
 もちろん、稽古を受けずに勝手にやってもらっては困りますが、幸いそういう不心得な人は、我がグループにはおられません。(偏屈な私は、難儀な人には、すぐにやめてもらいますんで。)

 てなことを、書いているところで、後輩に頼まれた、急ぎの台本があるのを思い出しました。
江東区亀戸のインターネットカフェから、中継でお届けしました。

九雀通信

RSSを登録する
発行周期 月に2回程度発行します。
最新号 2017/11/01
部数 514部

このメルマガを購読する

ついでに読みたい

九雀通信

RSSを登録する
発行周期 月に2回程度発行します。
最新号 2017/11/01
部数 514部

このメルマガを購読する

今週のおすすめ!メルマガ3選

オンラインカジノ情報ドットコム
カジノって楽しいですよね。ラスベガス、マカオ、韓国などのカジノへ行く前や行った後も日本でカジノを楽しみたいと思いませんか?実はそのカジノが日本でもオンラインカジノを通じて遊べるんです!そんなオンラインカジノの魅力をたくさんご紹介しちゃいますね。今話題の海外FXについても詳しく解説します。
  • メールアドレスを入力

  • 規約に同意して

サラリーマンで年収1000万円を目指せ。
高卒、派遣社員という負け組から、外資系IT企業の部長になった男の、成功法則を全て公開します。誰にでも、どんな状況、状態からでも自分の力で人生を変えるための情報と知性を発信しています。人生を意のままにするには、脳みそとこころの両方が進化しなければなりません。そんな進化とは何か?をお届けする四コママンガ付きメルマガです。2014年から3年連続でまぐまぐ大賞部門賞を受賞しました 学歴やバックグラウンドに拘わらず、人生を思いのままに生きるために必要な考え方が書かれた、「良書リスト」も希望者に差し上げています。
  • メールアドレスを入力

  • 規約に同意して

ダメおやじの全財産をかけた崖っぷちFX通信
【1日に数万人が熟読する人気FXブログのメルマガ版】 相場歴30年以上のダメおやじがFXノウハウを大公開! 毎朝配信!毎日の経済指標情報や攻略法を無料で解説しています。 ●損切りがうまくできない、利食いが浅い ●ポジポジ病(ポジションを不要に持ってしまう) ●コツコツドカーン(小さく勝っても大きく負ける) ●エントリータイミングわからない ●メンタル面が弱い このようなお悩みがあれば購読してみてください。 FX初心者から経験者まで、FXの悩みをこのメルマガで解消します。 期間限定でメルマガ内で数万円相当分のFX情報商材をプレゼント中!
  • メールアドレスを入力

  • 規約に同意して

今週のおすすめ!メルマガ3選

川島和正の日刊インターネットビジネスニュース
■読者数32万部超、日本一の個人メルマガ(まぐまぐ総合ランキング調べ) ■9年連続で年収1億円以上になり、70か国以上を旅行して、 190平方メートルの豪邸に住んで、スーパーカーに乗れるようになり、 さらに、著書は、日本を代表する超有名人2人に帯を書いてもらい、 累計50万部のベストセラーとなった、現在香港在住の川島和正が、 最新のビジネスノウハウ、自己啓発ノウハウ、健康ノウハウ、恋愛ノウハウ さらに「今チェックしておくべき情報リスト」などを配信中!
  • メールアドレスを入力

  • 規約に同意して

ダメおやじの全財産をかけた崖っぷちFX通信
【1日に数万人が熟読する人気FXブログのメルマガ版】 相場歴30年以上のダメおやじがFXノウハウを大公開! 毎朝配信!毎日の経済指標情報や攻略法を無料で解説しています。 ●損切りがうまくできない、利食いが浅い ●ポジポジ病(ポジションを不要に持ってしまう) ●コツコツドカーン(小さく勝っても大きく負ける) ●エントリータイミングわからない ●メンタル面が弱い このようなお悩みがあれば購読してみてください。 FX初心者から経験者まで、FXの悩みをこのメルマガで解消します。 期間限定でメルマガ内で数万円相当分のFX情報商材をプレゼント中!
  • メールアドレスを入力

  • 規約に同意して

僕は『絶対倒産する』と言われたOWNDAYSの社長になった。
売上20億,負債14億,赤字2億『絶対倒産する』と言われ、メガネ業界内ではただの質の悪い安売りチェーンと馬鹿にされ続けていたOWNDAYS(オンデーズ)を30歳の時に買収し社長に就任。その後、10年間で奇跡のV字回復を遂げて、売上150億,世界10カ国に進出するまで・・、みたいな巷によくある再生物語。半分ノンフィクション。半分はフィクション。いつまで、どこまで書き続けるかはまだ未定です。 https://www.owndays.com Twitter:https://twitter.com/shuji7771 blog:https://ameblo.jp/shuji7777/
  • メールアドレスを入力

  • 規約に同意して

他のメルマガを読む

ウィークリーランキング