名言名句マガジン[言の葉庵]

仇をば恩で報うなり。【言の葉庵】No.104


カテゴリー: 2018年05月03日
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┣┫OW┃O           無念の貴公子が遺した恩とは 2018/5/3
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名言名句は、悲劇の貴公子、平敦盛の「仇をば恩で報うなり」。
わずか十六歳の少年が、悲運の最期に願ったまことの思いを伝えます。
5月より始まる、日本文化シリーズ研修「禅と日本文化 アドバンス」。1月度の「禅と日本文化」研修の学習成果を一段階深め、「日本と日本人とは何か」に迫っていきます。

…<今週のCONTENTS>…………………………………………………………………

【1】名言名句第六十一回       源平盛衰記 仇をば恩で報うなり。
【2】カルチャー情報           禅と中世日本文化 アドバンス

編集後記…
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【1】名言名句第六十一回       源平盛衰記 仇をば恩で報うなり。
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仇をば恩で報うなり。
~敦盛『源平盛衰記』巻第三十八「平家公達最後並頸掛共一谷事」


源平盛衰記に留める、敦盛最期の思いを伝えた言葉です。

「仇を恩で報う」

今日、対義的な「恩をあだで返す」が一般によく知られていますが、「自分がこうむった恨みを、恩として返す」ことに、わりなさを感じられる方も多いのではないでしょうか。
そもそも仏教の報恩とは、仏や父母など自分が恩を受けた相手に対し、感謝して恩を返していくこと。

孔子も論語で、
「直きを以て怨みに報い、徳を以て徳に報ゆ」(憲問第十四、三十六)
と述べ、怨みには正しく対応(返報)しなければならない、としています。
「仇に恩で報いる」思想は、仏教でも儒教でもなく、実は老子です。

「怨みに報ゆるに、徳を以てす」(『老子』六三)

孔子の考える君子とは、義と礼に従い、社会秩序を守るため、仇に対して正当に処置していくことを求めます。
かたや老子が考える徳をもつ人とは、
「上徳は無為にして、而して以て為にする無し」(同三八)。
すなわち何事にもとらわれず、執着しない人は、そもそも怨みを感じることはなく、自分に敵対する人へも平等に徳をもって接していける、とするのです。

「隣人を愛し、敵を憎めと命じられている。しかし、わたしはいう。敵を愛し、自分を迫害する人のために祈りなさい」(マタイによる福音書5章44節)

仇に対し恩で報う思想は、神の下、平等と友愛を説くキリスト教の教えに、むしろ近いのかもしれません。
「目には目を」と、仇に報復することで、それは無限に繰り返されてしまいます。まず敵をつくった遠因は自分自身にあり、とし、この悪しき連鎖を断ち切ろうとする「仇をば恩で報うなり」は、宗教や人種を超えた人類の叡智ではないでしょうか。

悲劇の主人公敦盛と、坂東武者熊谷次郎直実の邂逅と、心理的な葛藤がいきいきと伝えられる、『源平盛衰記』の一段を以下現代語訳にてご紹介します。


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■平家の公達が首を討たれ、最期を遂げた一の谷

修理の大夫経盛の子、若狭守経俊は、兵庫の浦まで落ち延びたが、源氏方邦和太郎に討ち取られてしまう。

同じく経盛の末子が、無官の大夫と呼ばれる敦盛であった。
紺の錦の直垂に、萌黄おどしの鎧をつけ、白星を打った甲の軍装である。背には滋籐弓と、護田鳥尾の矢を十八差して、鵇毛の馬に乗る。そしてただ一騎、沖の大将船を目指して、一町ほど浮きつ沈みつ漂っていたのだ。

さて、武蔵の国の住人、熊谷次郎直実は、この時よき敵を探しつつ、須磨の浦に立って東西を伺っていた。敦盛の姿を見かけるや、馬をざんぶと海へ打ちいらせる。大将軍と見当をつけ、体面もなく海に飛び込んだのであった。

「戻せや、戻せ。かくいうは、日本一のつわもの、熊谷次郎直実である」
と呼びかけたところ、敦盛は何を思ったものか、馬の面を引き返し、渚に向かって泳がせてくる。馬の脚が立ったあたりで、弓矢を投げ捨て、刀を抜き、額に当てて声を上げ向かってきたのだ。
熊谷これを待ち受けて、浜に上がる暇も与えず、波を蹴立てて馬同士を駆け並ばせる。

馬上で取り組むや、二人は波打ち際にどうと落ちた。上になり、下になり、二度三度と転がるうちに、敦盛は若輩、熊谷は熟練のつわものであったゆえ、ついに上になり、左右の膝で敦盛のかぶとの袖をむずと押さえつけた。敦盛は身動きもならず。
熊谷、腰の刀を抜き、まさに首をかかんと甲のうちを見てみれば、十五、六の貴公子である。
薄化粧にお歯黒をつけ、にこりと笑った。
熊谷は、なんと無残な、これも弓矢取る身の運命か。かほどに若く、上品な貴人のいったいどこに刀を突き立てられよう、と心をくじかれるのである。

「はて、あなたはどなたの御子であろうか」
と聞くと、
「さあ、早く斬れ」
という。
「あなたを斬って雑兵の中に捨て置くこともできませぬ。素性も知れぬ東国の野蛮な者とて、名乗ろうとされぬか。それも由あることなれど、われにも一存あっておたずね申すのです」
といった。
敦盛は思う。名乗ろうが、名乗るまいが、ここは逃れられまい。しかるに、この者の一存とは、恩賞のためわれの名を知りたいのであろう。組むも、切るも前世の縁。仇を恩で報うもの。されば名乗らん、と、
「なんじに一存があるならば、いって聞かせよう。これは、故太政入道の弟、修理大夫経盛の末子、いまだ無官ゆえ、無官の大夫と呼ばれる平敦盛、生年十六である」
と告げたのだ。

これを聞き、熊谷ははらはらと落涙した。なんと悲しきことであろうか。わが息、小次郎と同年とは。なるほど、その年頃に違いあるまい。
たとえ無情な者であろうとも、わが子への愛は格別なもの。もしてやこれほどたとえようもなく貴い子を失っては、父母も悶え焦がれんことの哀れさよ。
とりわけ小次郎と同年と聞けば、なんともいとおしく助けてさしあげたい。
その上、御心も勇敢な方。日本一のつわもの、と名乗っても、落ち武者の身にして、しかも幼若にもかかわらず取って返した。これは大将軍の器である。しかしこれは義経公の戦。なんとも惜しい命、いかにせん、と思いわずらいためらうところへ、前にも後ろにも武者どもは組んでは落ち、次々と敵を捕らえている。
その中で、熊谷は一の谷でまさに組み押さえた敵を逃がし、人に獲られたと噂がたてば、子孫にとって弓矢の名折れとなろう、と思い返した。

「どうにかお助けしたいと思うのだが、源氏の兵はもはやこの地に満ち溢れております。とても逃れられる身にあらず。
あなたのご菩提はこの直実がよくよくお弔い申そう。草葉の陰でご覧じられよ。ゆめゆめ粗略にはいたしますまい」
と、目をつむり、歯を食いしばり、涙を流してその首を掻き落としたのだ。

無残というも愚かなり。敦盛は死を恐れず、あきらめず、幼少の身ながらまったく凡庸の器ではなかった。平家の人々は討たれるその時までも風流な心を失わなかったのだ。
敦盛はこの殿軍の陣中でも合間に吹かんと思ったのであろう、古色もうるわしい漢竹の笛を、香を留めた錦の袋に入れ、鎧の引き合いに差して携えていた。

熊谷はこれを見つけると、ああ、惜しいこと、このたびも城中で今朝がたも楽の音が聞こえていたのは、この人であったのか。源氏の軍兵は東国より数万騎上ってきたが、笛を吹く者は一人もいない。なぜ平家の公達は、かくも優雅なのであろうか、と涙を流して去っていった。

そもそもかの笛は、笛の上手であった父経盛が作らせたもの。砂金百両を宋に送り、上等な漢竹を一枝取り寄せ、節と節との間の最上質な部分を切り取らせた。
天台座主、前の明雲僧正に命じ、秘密瑜伽壇にこれを立てて、七日間の加持祈祷を行い、秘蔵して彫らせた逸物である。子どもたちの中では、敦盛が器量の者である、と七歳にして授けられたという。夜が更ければ更けるほど音色が冴えたゆえ、さえだ(小枝)と名付けられたのだ。

熊谷は、この笛と敦盛の首を手に捧げ持ち、子息小次郎を訪ねていった。
「これを見よ。修理大夫の御子で、無官大夫敦盛というお方だ。
生年十六と名乗られたゆえ、お助けしたいと思ったものの、なんじらの弓矢の末を案じ、かくも憂き目を見ることとなってしまった。もしもこの直実が亡き者となろうとも、誓って後世を弔わねばならぬぞ」

このようにいい含めた後、熊谷は発心し、以降弓矢を捨ててしまうのである。


(現代語訳 水野聡 2018年5月)



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【2】カルチャー情報          禅と中世日本文化 アドバンス
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5月19日(土)より、日本文化体験交流塾にてシリーズ研修「禅と中世日本文化」全6回がはじまります。

●禅と中世日本文化  アドバンス
講師 水野聡(能文社代表)
https://www.ijcee.jp/culture/mizuno-lectureadvance/

・日時と講座テーマ

第1回:5月19日(土)13時30分~15時30分 【募集中】
禅と日本文化 総論
 ~ZENが海外に広く伝えたNIPPONの姿 
  
第2回:5月29日(火)10時~12時 【募集中】
禅と武士道
 ~BUSHIDOの背景、禅・仏教、儒教、神道 
  
第3回:6月13日(水)10時~12時
千利休の「侘び」と「数奇」
 ~茶道精神史入門 
  
第4回:6月30日(土)13時30分~15時30分
世阿弥の「花」と「幽玄」
 ~世界無形文化遺産、能狂言誕生秘話 
  
第5回:7月21日(土)13時30分~15時30分
樂茶碗と国宝茶室待庵の中の宇宙
 ~陶磁器・骨董、和室建築 
  
第6回:7月31日(火)10時~12時
能面と能装束に宿る日本美
 ~室町の彫刻芸術と和の装い


当交流塾の新人研修では、禅・茶道・武士道・俳諧などについて、体系的な記述が行われています。これは、水野先生の講義から、抜粋したものです。これら、日本文化の骨格となる部分について、分かりやすい解説をお願いしました。 

 日本が外来文化からの影響を脱し、独自の価値観・精神性・美意識を確立したのが、平安~戦国期までの「中世」とよばれる時代。この時代に成立、発展した文化は、現代も日本人の物の考え方、感じ方の根本となっています。名を惜しみ、己れを捨てる“武士道”、 人と人との清らかな交わりを大切にする“茶道”、幽玄美を追求する“能”、侘び・寂びを尊ぶ“俳諧”。そしてとりわけ、悟りをひらき、現世の迷いから解脱する“禅”は、この時代の文化を根底から支える精神的な土台となっています。 
  これら中世の文化は、さまざまに形を変え、枝分かれをし、近世江戸文化を経て、現代日本へと継承。さらに〈ZEN〉や〈BUSHIDO〉〈CHANOYU〉として、世界中でも広く関心を集めるようになりました。 

 今期(2018年5月~7月)は、1月実施の「禅と中世日本文化」の基本的な理解を踏まえ、日本文化に対する、より広範、かつ実践的な知見を養う集中研修講座とします。 

 日本へのビジターに対し、単なる知識や事象説明にとどまらず、日本文化の本質的な理解に基づく“ガイド力”を身につけることを目的としました。 

 まずは、禅と日本文化総論を第一回に置き、歴史的・体系的な視野を獲得します。日程の都合上、前回研修で割愛した「禅と武士道」では、武士道が禅の精神と深く結びつき、成立・発展していった背景を詳説していきましょう。 

 第三回目からは、実践講座として「能」「茶道」の両分野をフォーカス。陶磁器・骨董・茶室建築・能面・能装束など、具体的な日本の芸術と技術に触れていきます。豊富な画像と動画を使用し、視覚からの理解も助けていくカリキュラムです。 
 室町時代に能を大成した世阿弥、安土桃山時代に茶道を作り上げた千利休。
これら「日本の美の巨人」の足跡をたどり、日本人の心の奥深くにある独自の
精神性にアプローチし、「日本人とは何か」を知るきっかけを提供します。
(同塾公式HP紹介ページより)

※同講座は一般の方(非会員)もご参加いただけます。くわしくは日本文化体験交流塾HPをご参照ください。


……………《編集後記》………………………………………………………………

お台場沖、湾内に突き出た小島が、砲台跡地の台場公園だ。知る人ぞ知る東京の穴場の名所。明治維新の15年前、幕府が迫りくる黒船に備えるため、砲台を設置した要塞跡地といわれる。
お台場の渚沿いに徒歩で渡れる。ただ、砲台設置の遺構と陣屋跡の疎石があるだけで、公園とはいいながら自販機もトイレもない。連休中も訪れる人は少ない。しかし湾内を360度見渡せるロケーションと海上を渡る静かな涼風がなによりの癒しを与える。この小さな砲台二基で、世界の艦隊を迎え撃たんとした古人の思いをたどるべし。

笑ふべし泣くべしわが朝顔の凋む時
松尾芭蕉(真蹟懐紙)天和年間
                              (言)
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