ひろえのキャズ便り

「ひろえのキャズ便り2018年03月09日号」


ひろえのキャズ便り2018年03月09日号です。
 
 せわしなく瞬く切れかけの蛍光灯と、光源を写すべく向けられたカメラ、そし
て耳障りなグロー球の音。肝心の像が奥へ回り込まないと見えないのが気になり
ながら(スクリーンは入り口側に背を向けて置かれている)、とりあえず手前に
ある展示台に目をやると、観光地のお土産にありがちなスノードームが二つ、な
かには広島の原爆ドームと長崎の大浦天主堂……とくれば、その作品名「Critical 
Point(臨界点)」から察するに、まずは核融合とか核分裂みたいなものを連想
するのがお約束かと思われた、小島久弥展『お化けの正体(True colors of ghost)』。
なぜ「お化け」なのか?も気になるところだが、臨界点があらわれるときの物質
の変化も、ある意味、化けることであるとまずは理解しておきたいと思う。
 臨界点といえば、身近なところではロウや水にも見られたりする、物質が三様
態の間をまたぎ越すところに現れる結節点。そして、そのあるやなしやの瞬間に
形を与えるべく、30年あまりにわたって制作を続けてきた小島さん。このたびは、
なぜかリアルな物質の変化を体感できる作品がなく、小島初体験としては心もと
ないのだが(ドライアイスを用いた作品「Critical Point」は映像記録を中心に
展示)、ともあれ、展覧会タイトルは「お化けの正体」なのだし、小島さんが追
い求めてきた「臨界点」とは、おそらく、魔が差すようにしのび込むふとした気
配、あるいはこころのざわつきみたいなものではないかとあたりをつけてみた。
たとえば、「もしかして、幽霊?!」と言いたくなるようなゾクッとする瞬間が
あって、その境目のところからしか見えない「どこからでもない眺め」みたいな
ものがあるのではないか……と一般化を試みるも、正直、他人と共有しがたい体
験ではある。そして、小島さん自身も、臨界的状況に魅力を感じるようになった
始まりを遡ると、「台風の夜の記憶に辿り着く」と語ったりしている。小島さん
曰く、「雨戸をたたく強い風、いたるところが雨漏りした我家では、コップやタ
ライも追いつかず。畳が上げられ縁の下が現れた。そしてついには停電。そんな
ときボクはいつもロウソク係だった」。暗闇のなか、ロウソクの火だけを頼りに
ロウソクを立てる……そんな、正真正銘の非常事態にあっても、久弥少年は冷静
沈着だったようだ。「裏返したビールの王冠にロウを垂らし、そっと立てる。早
すぎても遅すぎても上手くは立たない……」。自分自身の輪郭もおぼつかないな
か、息を凝らして見つめたロウソクの炎。そんな状況から察するに、ロウが形を
変えていくことはもとより、それがそのように「在ること」さえ不思議に思えて
くる瞬間があっても、それこそ不思議ではないだろう。実存的な問いの始まりと
いってしまえばそれまでなのだが、大人になる過程でだれもが乗り越えてくるな
にものかという意味で、これもまた、ひとそれぞれの記憶のなかにある臨界点で
はないかと思われる(以上、引用は作家ホームページのプロフィールより)。
 そして、この人間の成長過程にある臨界点に立ち、奇妙に安定した臨界状況的
なものを視覚化しているのが、本展のもうひとつの作品群「Thanks mom!自画自
参」。このシリーズは、小島さんのお母さんが保管していたという、彼が6、7歳
のころに描いた絵に、大人になった小島さんが描き加え、新たな作品として提示
しているもの。子どものころ目に映っていた世界が、いわば大人になった小島さ
んに見える世界に接続されているわけだが、断絶がありつつ同じ地平にあるその
絶妙な均衡は、地に足がついたままエアーポケットに放り込まれたような、奇妙
な浮遊感を体感させてくれる。見たいものが見たいように描かれた子どもの絵は、
ときに残酷だったりもするのだが(たとえば、親をなくした子ゾウの楽しげな歩
みが描かれた『ぞうのゆめ』)、逆に大人のまなざしは、その自由奔放さを手な
ずけたところにあることがよくわかる。理解の範囲内にあるものだけが存在を許
される暗黙のルールは、安心感であると同時に息苦しさでもあると思うのだが、
そうやって輪郭を与えられているのが社会だったり、ざっくり「世界」と呼ばれ
たりしているものなのかもしれない。
 最後に、冒頭で裏側だけたどった切れかけの蛍光灯の作品に戻っておきたいの
だが、まず、そこに唐突な印象で置かれていたスノードームは、1945年に米国ニュー
メキシコ州で行われた、核実験の成功を記す写真のイメージに似ていることから、
作品に登場するに至ったものだという。一方、スクリーンには、カメラが撮影し
続ける切れかけの蛍光灯の明滅が投影されており、レンズが必死で露光を合わせ
ようとするさまは、断末魔の叫びこそともなわないものの、夜空に浮かんだ巨大
なひとつ目の化け物が、断続的に強烈な光を放ち続けているようにも見える。私
自身はどうしてもミサイルとか空襲とか(スクリーンには大阪のまちに見立てた
影が映っている)を連想してしまうのだが、この光は見ようによっては美しくも
あり、直接見てはいけない(実際のところ、かなりまぶしい)ところに聖性を感
じる見方もあるように思う。そんなわけで、良きものと悪しきものの境目が、歴
史的文脈のあるなしで無効になってしまうのを目の当たりにしている気がするの
だが、この作品が「Critical Point(臨界点)」であることの意味は、このあた
りにあるのかもしれないと思ったりもする。
 思うに、それそのものを見ることはかなわない臨界点を、力業で視覚化しよう
とするところがある小島作品。大切なものは目に見えないのかもしれないけれど、
気配でしかない幽霊を色付けしてでも見たいと思うのが、人間という動物なのか
もしれない。

__展覧会のご案内________________________________________________________

-お化けの正体- 小島久弥展
キュレーション:天野一夫(美術評論家)

http://cas.or.jp/2018/KOJIMA/index.html

■会期 2018年2月17日(土)-3月10日(土) 14:00-19:00 月・木休み

アーティストトーク:3月10日(土)16:00~ (参加費¥500)
 聞き手:天野一夫(美術評論家)

__次の展覧会のご案内____________________________________________________

CAS ACTION COMMITTEE
Scores 金沢健一 (彫刻) + 浦 裕幸 (音楽)

http://cas.or.jp/2018/KANAZAWA/index.html

■会期 2018年4月7日(土)~4月21日(土) 14:00-19:00 月・木休み

    オープニングレセプション:4月7日(土)17:00~¥500(1ドリンク付き)
    パフォーマンス/トーク 金沢健一/浦裕幸:4月21日(土)16:00~(参加費¥500)

------------------------------------------------------------------------
特定非営利活動法人キャズ(CAS)
大阪市浪速区元町1丁目2番25号 
A.I.R.1963 3階
TEL/FAX 06-6647-5088
Web http://cas.or.jp/
E-mail info@cas.or.jp
________________________________________________________________________

 

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