少林窟法語

坐禅の心得 316


カテゴリー: 2018年05月23日
                                                   坐禅の心得 316
                                                   釈尊編 その81
                                    井 上 希 道

                          日天の古仏
 
 法の華は愈々美しく四海に浸透した。東天の世は鎌倉時代。道元なる俊才が世に出現した。幼小にして四書五経を能くし、九才までに

春秋左氏伝及び倶舎論等を読破。十三歳にして叡山に上り剃髮得度す。猛修行のかたわら叡山の蔵書ことごとく二度読破し、畢竟疑義し

て曰く、

「本来本法性(ほんらいほんぽっしょう)、天然自性身(てんねんじしょうしん)。何のために三世の諸仏、発心して道を成ぜんや」

 この大疑団を発し、高僧に詰問すれども当を得ず。叡山尊ぶべきも既に学ぶものなしと、遂に山を去る。歳十五才なり。何としたこと

ぞ、この歳で。驚きのほかない。

 京洛に下るや、碩徳の門を叩けども響き耳に到らず。時に栄西禅師、支那より禅を伝統すと聞くや、急に入室して禅理を聞く。我が意

を得たりと参ずれども、一年を経ずして師の滅に遇う。

 継いで其の高弟に師事すること六年。足らずとして供に支那に赴き、正師を探尋すること三年。遂に釈尊直系第五十代の祖、[如淨(に

ょじょう)古仏]に遇えり。如淨大師、大いに他国の大器を愛す。或る日、炎天下に椎茸を干す一老僧を見る。哀惜の情より曰く、

「是の事、若い僧に託しては。」

「老僧曰く、他は是れ我れに非ず。」

「師(道元禅師)曰く、されば、やや日差しが傾いてからでは。」

「老僧曰く、又、何れの時をか待たん。」

 師、忽ち去る。

 椎茸老に煮え湯をかまされた彼は、初めて仏法の大事「今」に気付き、たまらず禅堂に飛び込む。往く所は他に無い。慚愧に絶えざる

時、いよいよ菩提心切なり。火を発っせんとする時、まず煙出ず。

 日夜打坐に没頭す。たまたま隣単の僧居眠る。如淨祖、痛棒を振るう。慈悲徹困なり。警策の音声、師(道元禅師)、忽然として我に

返る。打坐三昧、自己を忘じ切っていたのだ。釈尊の明星一見と同事なり。[解脱の法門]を体得し、遂に釈尊の心印を獲得された。十

日を出でずして大悟。

 歓喜の余り叫んで曰く、

「身心脱落、々々々々!」

 祖、賞賛して曰く、

「脱落身心。脱落、脱落。」と。ここに印可証明、面授面稟して第五十一祖となる。

 道元禅師曰く、「我れ、参学の大事、ここに畢んぬ。」是の如く堂々と獅子吼して天地を驚かす。歳二十八才なり。出家後、十五年の

霜辛雪苦の暁なり。誰かこの大恩に泣かざらんや。感涙置く能わず。合掌。

 今まで即今底の大事に気付かず、知解に落ちていたのだ。道元禅師にして是の如し。知識抜群にして如何に博覧強記の大学者と雖も、

凡情は須く凡夫であり迷苦の人である。

 師曰く、「万が一にも今を失脚すること莫れ。」又、「頭燃を救うが如くせよ。」又、「薄氷を踏むが如くせよ。」と熱誠の句々あ

り。徹して自己を忘ずるの端的は、身命を賭して「今」に徹せよとなり。
 
 この年の前後、支那に於いては、無門慧開禅師「無門関」を、萬松老人「從容録」を現わす。禅界の黄金時代であった。

 道元禅師は釈尊の大法を保任して帰朝。仏法は三国伝統し、此処に於いて初めて我が朝に正法東漸したのである。後堀川天皇の御代に

して一二二七年であった。目出度き限りなり。

 師、天下に吐露して曰く、

「空手(くうしゅ)にして郷(きょう)に帰る。一毫(いちごう)の仏法無し。唯眼横鼻直(ただがんのうびじょく)なることを認得す。朝々日

東(ちょうちょうひひんがし)に出(い)で夜々(やや)月西に沈む。鶏(とり)は五更(ごこう)に向かって啼(な)き、三年一閏(じゅん)に逢

(お)う。」この名句、道元禅師独自の風光である。

 釈尊とピタリ符合す。以後脈々として迷苦を救う。

 釈尊の消息は、日本に於いて遍く布衍し、曹洞宗・臨済宗・黄檗宗合わせて二十四流となった。鎌倉五山(円覚・建長・寿福・浄智・

浄妙寺)、京都五山(南禅寺を頂点として天龍・相国・建仁・東福・万寿寺)を中心に全国に広まり、渡来の祖師も多くいた。これは日

本の仏徳である。円覚寺開山・無学祖元(むがくそげん)禅師、建長寺開山・蘭渓道隆(らんけいどうりゅう)禅師はその代表である。

 又、続々と支那に渉り、明眼の大宗師となり各流れとなり、多くの大善知識を育んだのである。

 特に恐れ多いことは、多くの天皇が参禅弁道され、明歴々たる境界を得られたことである。後醍醐天皇は大燈国師の印可取りである。

大悟されて曰く、

「二十年来辛苦人。迎春不換舊風烟。着衣喫飯恁麼去。大地何曽有一塵。(二十年来辛苦の人。春を迎えて換えず舊風の烟り。着衣喫飯

いんもにし去れば。大地何んぞ曽て一塵有ん。)」お見事な境界である。

 先帝の花園天皇も大燈国師の印可底である。御日記に、「仏教の高妙、心地の極理は只禅門の一宗にあり。余の大小乗の宗義は全て及

ぶ可からざるものなり。予殊に思いを玄旨に繋ぎ、造次顚沛(あらゆること)是に於いてす。徐に発明する所あり。尤も歓喜す。衣裏の

明珠求めずして自得す。喜ぶべし喜ぶべし。」と。喜びの余り妙心寺を建て、関山国師を開山とされた。のみならず、「見性」眼をもっ

て御自ら「法華品訳」されたとある。

 特に後奈良天皇は大休国師の印可を。後村上天皇、霊元天皇も久参底である。御朝廷にしてこの御聖心あらしめらる。神国にして仏徳

を加え奉らるの御政道により、及びも付かない高さの民度を為した根本精神である。世界広しと雖も、我が日本に及ぶべくもないこと

は、源の清きを愛し、仏眼祖意を自ら求め、又広く伝えた結果である。

 菩提心の往くところ聖人あり。「活埋坑」で懼れられた通幻寂霊禅師は日僧の英傑である。その筈、道元禅師の五祖である。穴の前で

正身端坐。悟れなかったら突き落として生き埋めにする故に「活埋坑」と言う。

厳師の本には英傑が育つ。

 難波鉄眼(なんばてつげん)(鉄眼道光・法蔵国師)は大悟するや、仏恩に報いんと「一切経」刊行を決意。全国行脚して淨財を集む。

時に大飢饉あり。全額を放出して民を救済す。又苦心の末、資金を集むるに再び大飢饉に遭い、又救済に当ててゼロ。三度にして遂に日

本初の「一切経」を完成す。

 国師の滅にあたり、恩徳を偲び参集三万人。みな大慈大悲、報恩感謝の美風であり仏法の恩徳である。

 女傑あり。美人過ぎて入門を得ず。自ら焼きごてを当て面皮を焼き、醜顔にして入門す。この大菩提心のもと、真箇に徹っす。大悟し

て鎌倉禅と大いに法力を鼓舞し合う。最乘寺開山の妹、惠春尼である。

 途中衰微も甚だしく、最早の時至りて白隠(はくいん)・天桂(てんけい)・面山(めんざん)・卍山(まんざん)・盤珪(ばんけい)等歴々の

諸禅師現れて中興す。まさに日本の幸いである。

 釈尊の法門はこうして朝廷、公家、武将、商人、歌人、茶人、文人、大衆、女郎等に及び、文化・武芸・政治・教育・経済・国民性に

多大な影響を与えた。我が日本の今日あるも仏法の恩徳少なからず。

 近年の傑僧、禅三派(曹洞・臨済・黄檗)を越えたる飯田欓隠(いいだとういん)禅師その人あり。祖師にして祖師。迦葉、達磨、畢竟

三世の諸仏祖師方を凌駕するの大善知識にして、応燈関(大燈国師・大燈国師・関山国師)以後の古仏である。故に[五百年間不出世の

巨匠]と親しく仰がれている。

 時の「若槻首相」及び内閣をはじめ、みな禅師に参ず。その会を[興禪護國会(こうぜんごこくかい)]と言う。中館長風(軍医総

監)・大石正巳・岡田自適・渋沢栄一・後藤新平・高橋是清・岩崎久弥・鳩山一郎など政財界や医師・弁護士・学者等お歴々四百人が参

禅した、日本最大の権威有る大禅会であった。嗚呼、その師、既に無し。昭和十二年(1937)示寂。

 然りと雖もその児孫五名、確かに仏祖の真訣を道統す。しかし各祖師、今や亡し。幸いなるかなその弟子あり。微かに消息を保任して

在野に吠ゆ。夙に大法風前の灯なり。仏祖の悲嘆憐愍を如何せん。
                                       嗚呼。

 今は昔。今日の禅界、殆ど凋落して菩提心の声にだも聞かざるは慚愧に堪えず。殆どの寺院は私物化し、名刹は観光資源となり果つる。
 誰か身命を賭して護持せん。濁世によって倒れる者は、濁世によって立つ。「今」その時に非ずや。

                              慚愧、々々。菩提心、々々々。

 「少林窟菩提心訓」を最後として筆を投げんとす。

    「菩提心訓」

   汝等諸人この少林に来たって道のために頭を集む。

   只是れ菩提心の結晶なり。げに尊きものは菩提心なり。

   是の菩提心を以て十二中、無理会の処に向かって、究め来たり究め去るべし。

   光陰矢の如し。慎んで雑用心すること勿れ。

   看取せよ、看取せよ。
  
 是れを看て未だ奮せざれば遂に仏祖の誹りを免れず。拳を叩机てし涙を拭う。

  願わくはこの功徳をもって普く一切に及ぼし  我等と衆生と皆共に仏道を成ぜんことを。
  
                      少林窟道場五世
                                                          元光 希道 拜識

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