西行辞典

西行辞典 第355号(171009)


カテゴリー: 2017年10月09日
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      ◆◆◆◆  西行辞典  ◆◆◆◆
                        
                  vol・355(不定期発行)
                   2017年10月09日号

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          今号のことば    

         1 御影 02
         2 三笠
         3 みかさ
         4 みかさねの瀧

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       ◆ 御影 02 ◆

【御影】

人に対しての場合は「面影」を敬って言う言葉です。
神などに対しての場合は、その成り立ちや、神徳や神意というものに
ついて言っています。

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04 世の中をあめのみかげのうちになせあらしほあみて八百合の神
         (岩波文庫山家集261P聞書集262番・夫木抄)

○あめのみかげ

「あめ」は天(あま)の転化した読み方。
「天のみかげ」は、下に紹介する「日のみかげ」とともに、対を
なしていて大祓えの祝詞の中にもある用語です。
「御蔭」の漢字をあてています。
歌では伊勢神宮内宮に祀られている「天照大神」を指して「天の御陰」
というものなのでしようが、伊勢神宮は天皇家のものでもあり、
同時に天皇家をも指して「天のみかげ」と言っているはずです。

○天のみかげ

天皇のいます宮殿をさす。
        (渡部保氏著「西行山家集全注解」から抜粋)

○あらしほあみて

大祓えの祝詞からそのまま引用した言葉です。
「荒塩の塩の八百道の、八塩道の八百会に坐す速開つひめといふ
神」とあります。「荒塩浴みて」は潮流の荒さ、ひいては当時の
世の中の乱れをも指しているはずですが、それが「天のみかげ」
によって平穏になるようにという祈りにも似た期待があって、
こういう歌を詠んだものでしよう。
 
○八百合の神(やおあいのかみ)

八百の潮流の集まる所に坐す神ということであり、これは世の中
を平穏にするために、罪をはらい流すための中立ちをする神と
いうことのようです。

(04番歌の解釈)

「罪をはらい流し、世の中を、天下をおおう神宮のご威光の内に
変えよ、荒々しい潮の流れを浴びて潮路の集まりにいます神よ。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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05 神人が燎火すすむるみかげにはまさきのかづらくりかへせとや
             (岩波文庫山家集279P補遺・夫木抄) 

○神人

神に仕える人。神社の神官。祭主、禰宜、神主などのことです。
この歌の場合は、神楽を奏する人も言うようです。神官が神楽舞を
演じていたとも解釈できます。

○燎火(にわび)

神楽を奏する場所を浄化し、明かるくするための焚き火のこと。

○みかげ

「御影」という言葉は天皇を敬って言う場合もあります。
この歌にある「みかげ」は単純な「光と影」の「影」ではなくて、
もっと別の深遠な意味が込められているような感じがします。

○まさきのかづら

どの植物なのか特定されていません。いずれにしても蔓性植物ですが、
そのうちの「テイカカズラ」や「マサキツル」などが可能性のある
植物として考えられています。
個々の植物名ではなくて蔓性植物の総称とも考えられます。

尚、テイカカズラは藤原定家と式子内親王の絡みで名付けられた
植物名であり、西行の在世時代にはこの植物名は当然にありません。

○くりかへせとや

「深山には霰降るらし外山なる正木の葛色づきにけり色づきにけり」
という神楽歌の最後の部分「色づきにけり」の繰り返しを言っている
ものでしょう。

(05番歌の解釈)

「神主が庭火を盛んに焚いている神のみかげは、まさきのかづら
をくるようにくりかえせというのであろうか。」
          (渡部保氏著「山家集全注解」から抜粋)

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06 筆の山にかきのぼりても見つるかな苔の下なる岩のけしきを

     善通寺の大師の御影には、そばにさしあげて、大師の御師
     かき具せられたりき。大師の御手などもおはしましき。
     四の門の額少々われて、大方はたがはずして侍りき。
     すゑにこそ、いかゞなりけんずらんと、おぼつかなく
     おぼえ侍りしか
          (岩波文庫山家集114P羈旅歌・新潮1371番)
 
○筆の山

香川県善通寺市には「五岳山」と言われている山があります。
我拝師山(481M)、中山(440M)、火上山(409M)、筆山(296M)、香色山
(153M)の五山を指します。
現在では我拝師山と筆山は別の山としてありますが、西行時代は
筆山は我拝師山や中山と一続きの山として見られていたものでしょう。

○かきつき登り

「掻き付き登り」。しがみつくように、よろぼうように登ると
いう様を言います。筆の山の(筆)と(かき)は縁語です。

○善通寺

香川県善通寺市にある善通寺のことです。弘法大師空海は
善通寺市の出生です。
善通寺は空海が出生地に建立したお寺で、父親の法名をつけて
「善通寺」としたものです。
高野山、京都の東寺と並んで真言宗の三大聖地です。

○大師の御師

弘法大師空海の師、仏教創始者のシャカ(仏陀)のことです。

○四の門の額

東西南北の四方に山門があったということです。大師自筆の
「善通之寺」という額があったようです。
この額は現存していません。

○長き眠り

俗界の塵にまみれたまま仏教的に少しの悟りも得ない状態で無明の
闇の中に住み続けていること。俗界の迷い多い世界から仏教的に
覚醒しないこと。
俗世にいることを自省的に、あるいは批判的にいう言葉。

(06番歌の解釈)

「我拝師山に登る。筆の山というだけあって、かきつくように
して登ってみると、そこには大塔の礎石が苔の下に埋まっていた。
その大きさは大師の慈悲の大きさを語るようだった。」
              (和歌文学大系21から抜粋)
      
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       ◆ 三笠 ◆

【三笠】

大和国の歌枕の一つで三笠山のこと。奈良市東方にある山の名称。
「山」を省略した言い方。

三笠山の歌は西行に4首あります。

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01 三笠山月さしのぼるかげさえて鹿なきそむる春日野のはら
         (岩波文庫山家集275P補遺・西行上人集)

○春日野の原

大和国の歌枕。
奈良市市街地の東方の春日山及びその麓一帯の呼称です。
春日山の北前方に「若草山」があります。若草山はかつては
「三笠山」と呼ばれていました。春日山も「御蓋山=みかさやま」
という別称がありますから、混乱します。
阿倍仲麻呂の古今集406番歌(百人一首第七番歌)

「あまの原ふりさけみれば 春日なるみかさの山にいでし月かも」

の「みかさの山」は、春日山のことです。
西行歌の「三笠山」も春日山のことと解釈できます。
なお、有名な春日大社は春日野にあり、藤原氏の氏社です。

(01番歌の解釈)

「三笠山にさし昇る月の光が冴えて、鹿が鳴き始めた
春日野の原よ。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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02 光さす三笠の山の朝日こそげに萬代のためしなりけれ
         (岩波文庫山家集142P賀歌・新潮1178番・
            西行上人集・山家心中集・夫木抄) 

○げに

(げに=実に)のことで、前の言葉である「朝日」を肯定します。
「本当に・まことに・なるほど・実に」の意味を持ちます。

○ためし

先例・前例という意味のほかに「手本」という意味もあります。

(02番歌の解釈)

「三笠山から光の射し込む神々しい朝日こそが、なるほど
太陽神の子孫にふさわしく、今上天皇の御代が永遠に続く
ことの先例でありましょう。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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      春日にまゐりたりけるに、常よりも
      月あかくあはれなりければ

03 ふりさけし人の心ぞ知られける今宵三笠の山をながめて
          (岩波文庫山家集76P秋歌・新潮407番・
          西行上人集・山家心中集・御裳濯河歌合)
 
○春日

「春日野」と同義。前述の「春日野の原」参照。

○ふりさけし人の心

(ふりさけし)は(振り放けし)という字を当て、(遠く大空を
見ている)(顔を上げて遠い彼方を仰ぎ見る)というほどの意味
となります。(ふり)は接頭語。(さけ)は、対象を遠く放すと
いう意味を持つ(放け=さけ)の連用形。
(人の心)とあることによって、阿倍仲麻呂を偲んでの歌である
ことがわかります。

○三笠山

ここでは春日山のことですが、それほど厳密に考えなくても
よいと思います。

○世をのがれて

出家したということ。西行出家は1140年10月15日とみられています。

(03番歌の解釈)

「遠く中国から三笠山に出る都の月を思いやった仲麻呂の心が
よくわかる。今夜の三笠山の月をずっと見ていると。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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    奈良の法雲院のこうよ法眼の許にて、立春をよみける

04 三笠山春をおとにて知らせけりこほりをたたくうぐひすの瀧
      (岩波文庫山家集262P残集01番、15P春歌・夫木抄) 

○法雲院

平安時代にあった興福寺の僧坊の一つです。現在の奈良国立博物館
の西側に位置していたようです。1469年からの文明年間に記された
書物にも法雲院の名があるとのことです。

○こうよ法眼

公誉法眼。1125年生、没年不詳。
藤原公実の子で藤原実能や待賢門院璋子の兄に当たる藤原通季の
子とありますが確認が取れません。通季が1128年に39歳で没して
いますから、わずか3歳で父の通季と死別していることになります。
公誉法眼が1125年生だとしたら、西行のほうが年上です。

○三笠山

奈良県奈良市の東方にある山。高円山と若草山の間にある春日山
を指します。古名は「御蓋山」です。春日大社の後方にあります。
ただし、若草山も通称として「三笠山」と言います。
安倍仲麿の歌にある「三笠山」は本来の「御蓋山」のことで、
「若草山」のことではないようです。

 天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも
         (安倍仲麿 百人一首第7番・古今集406番)

○うぐひすの瀧

奈良県奈良市の春日山「御蓋山」山中にある小さな滝の名称です。
私は先月にも行ってきました。平日のためか一人も見かけません
でした。

(04番歌の解釈)

「三笠山では春の訪れを音で知らせたよ。それは今まで張りつめ
ていた氷を叩く、(鶯の声を思わせる)鶯の滝の水の音。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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       ◆ みかさ ◆

【みかさ】

(み)は(み吉野)(み山)などのように接頭語かとも思わせ
ます。しかし「嵩」に(み)の使用はないでしょう。
ここでは、水嵩のことを(みかさ)と読みます。水量のこと。
(みかさ)の用例は以下の二首のみです。

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01 ひろせ河わたりの沖のみをつくしみかさそふらし五月雨のころ
          (岩波文庫山家集49P夏歌・新潮217番・
              西行上人集追而加書・夫木抄) 

新潮版では「みをつくし」は「みをじるし」となっています。

 広瀬河 渡りの沖の みをじるし 水嵩ぞ深き 五月雨のころ
              (新潮日本古典集成山家集217番)

○ひろせ河

川幅の広い川です。瀬も比較的浅くて水はゆったりと流れている
光景が想像できます。
「ひろせ河」は普通名詞のはずですが、固有名詞とするなら奈良県
北葛城郡河合町の各河川の合流するあたりを指すようです。
宮城県にも広瀬川があります。

○わたりの沖

「わたり」は「行くこと・来ること」の渡ることですが、往来する
こと以外に、渡し場・船着き場・海峡などの意味も持ちます。

○みをつくし

水路の串である「澪の串」が原意。
難波の港などでは浅瀬が多くて船の航行にも難渋するので、安全な
航路を示すために海中に串を立て、それを目印としました。
それが「みをつくし」です。
歌では「みをつくし」に「身を尽くす」という意味を載せて詠ま
れている歌が多くあります。

 わびぬれば今はた同じ難波なるみをつくしても逢はむとぞ思う
               (元良親王 百人一首20番)

○みかさそふらし

浅瀬である広瀬川にも五月雨のために水量が増して、澪標にも
水嵩が高くなっていることが分かるということ。
「そふらし」の「そふ」は増えるという意味があります。

(01番歌の解釈)

「五月雨の頃の広瀬川では、渡し場から遠い川の真中にある澪標を
見ると、いよいよ水かさのましたことが知られるよ。」
             (新潮日本古典集成山家集より抜粋)

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02 空晴れて沼のみかさをおとさずばあやめもふかぬ五月なるべし
             (岩波文庫山家集48P夏歌・夫木抄)

○みかさをおとさずば

水量を減らすこと。人為的にではなく自然に減ることを言います。

○あやめもふかぬ

五月五日の菖蒲の節句の時に、軒を菖蒲で飾る風習があります。
その時に五月雨のために水嵩が増えて菖蒲を採集できないために
菖蒲が手に入らず軒に吹くこともできないという意味。
五月五日といえばそろそろ五月雨(梅雨)の季節です。
軒に葺いた菖蒲は五日が過ぎれば取り外したものではなくて、ある
程度長く葺いたままにしていたものでしょう。

(02番歌の解釈)

「梅雨空が晴れて沼の水位を下げないと、菖蒲を沼の中に眺める
だけで、軒には葺かない五月を送ることになりそうだ。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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       ◆ みかさねの瀧 ◆

【みかさねの瀧】

奈良県の大峰山の75靡きのうちの第28番靡きにある瀧です。
奈良県吉野郡下北山村前鬼にあります。
この靡きの番号は熊野本宮大社から始まり、75番の吉野川の「柳の
渡し」で終わります。
このルートでたどる奥駆けを「順峯」、吉野から熊野本宮大社に
向けてたどる奥駆けを「逆峯」と言います。順峯は聖護院(本山派)、
逆峯は醍醐寺三宝院(当山派)が主導するルートです。

靡(なび)きとは大峰奥駆道修行者の修行所を指しています。現在は
熊野側から数えて終点の吉野までに75か所の靡きがありますが、
西行の時代は何か所の靡きがあったのか判然としないようです。
      (山と渓谷社刊「吉野・大峰の古道を歩く」を参考)

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     三重の瀧をがみけるに、ことに尊く覚えて、
     三業の罪もすすがるる心地してければ

01 身につもることばの罪もあらはれて心すみぬるみかさねの瀧
        (岩波文庫山家集123P羇旅歌・新潮1118番・
         西行上人集追而加書・夫木抄・西行物語)

○三業の罪

「身業、口業、意業の総称。種々の善悪果報のもとになる、
からだ、ことば、心の行為」
             (大修館書店「古語林」から抜粋)
○瀧をがみけるに

「瀧、拝みけるに」のこと。

○ことばの罪

口から際限もなく発せられる言葉自体の持つ罪のこと。
ことに、言葉をたくみに飾り立てて和歌を詠む行為を指していると
解釈できます。

(01番歌の解釈)

「身に積もった罪も、和歌を詠む罪も滝行によって顕現し、洗い
流された。三重の滝を拝むと心の罪までも濯がれるようだ。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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  (後記)

10月の初旬も過ぎようとしています。旧暦では八月の半ばを過ぎて
います。中秋も残りわずか。すぐに晩秋です。

私もあと一か月ほどで古稀。はるばると来たものです。
世情は首相の必然のない恣意的な解散で、もうすぐ選挙。新聞紙上
でもかまびすしいほどに話題となってはいます。
ところが私に限れば以前ほどに関心を持たなくなってしまいました。
広く関心を持ち続けることが若さを保つ秘訣の一つなのだろうとは
思いつつも、どうしたことか政治に限らず関心の持ちようが異質の
ものにと変化しているようにも思います。
これは私がたどり、そしてたどりつつあるガン手術とその後遺症が
無関係ではないようにも思います。ともあれ変化は変化として受け
入れつつ、思惟的な時間は持ち続けたいものです。

明日は3か月ぶりに比叡山に登ってきます。過ぎ行く今年の秋を私
なりに楽しめればと思います。まだ行ってはいない西行史跡にも
できればこの秋に行きたいものだと思案しています。

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  ◎ 「西行辞典」第355号 2017年10月09日発行 

  ◎ 発行責任者 阿部 和雄
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  ◎ 発行システム インターネットの本屋さん「まぐまぐ」を
     利用させていただいています。
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