西行辞典

西行辞典 第294号(140308)


カテゴリー: 2014年03月08日
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      ◆◆◆◆  西行辞典  ◆◆◆◆
                        
                  vol・294(不定期発行)
                   2014年03月08日号

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         今号のことば    

        1 福原
        2 ふくる・更くる
        3 ふくろふ
        4 ふけゐ  

    ふさねたる→第214号「たな心」参照
     ふしみ→第75号「をかのや」参照
    ふし柴→第168号「しば・柴 (1)」参照
  藤袴→第159号「しか・鹿・かせぎ・すがる(2)」参照

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       ◆ 福原 ◆

【福原】

摂津の国、現在の兵庫県神戸市兵庫区の東部にある地名。
1180年6月2日、平清盛は強引に京都から福原に遷都しましたが、
福原京は急ごしらえのために都として機能しなくて同年11月26日
には再び京都に都を戻しています。
この遷都の様子は平家物語に詳しく書かれています。

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      福原へ都うつりありときこえし頃、伊勢にて
      月の歌よみ侍りしに

01 雲の上やふるき都になりにけりすむらむ月の影はかはらで
     (岩波文庫山家集185P雑歌・新潮欠番・西行上人集)

○都うつり

1180年6月2日の京から福原に遷都のこと。

○伊勢にて

西行は長く高野山に住んでいましたが、この歌にある遷都をした
1180年頃にはすでに伊勢に移住していたものと推定できます。
この年から源平の争乱は激しくなります。

○雲の上

文字通り「雲の上」のことで空、天上、天界などを意味します。
合わせて宮廷及び宮中に住む人達をも言います。

(01番歌の解釈) 

「九重の京の都は旧都となってしまったのだろうか。月の光は昔と
変らず澄んで(住んで)いるのだろうか。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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       ◆ ふくる・更くる ◆

【ふくる・更くる】

(深く・更く)は古語で「ふく」と読み、自動詞下二段活用です。

未然形は「更け(ず)」
連用形は「更け(けり)」
終止形は「更く」
連体形は「更くる(とき)」
已然形は「更くれ(ども)」
命令形は「更けよ」

この用法は現在では自動詞下一段活用として「更ける」の基本形に

未然形は「更け」
連用形は「更け」
終止形は「更ける」
連体形は「更ける」
仮定形は「更けれ」
命令形は「更けよ」と活用し、「く」は用いられません。

02番歌の(ふくる)の場合は「吹く」と「更く」の掛詞として使われて
いますから、ひらがな表記にするしかなく、それが意味の分かりにくい
原因となっています。

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01 月すみてふくる千鳥のこゑすなりこころくだくや須磨の関守
           (岩波文庫山家集276P補遺・宮河歌合)

02 雲もみゆ風もふくればあらくなるのどかなりつる月の光を
           (岩波文庫山家集81P秋歌・新潮368番)

03 まぎれつる窓の嵐の聲とめてふくると告ぐる水の音かな
     (岩波文庫山家集137P羈旅歌・新潮1049番・夫木抄)

     六波羅太政入道、持経者千人あつめて、津の国わたと
     申す所にて供養侍りける、やがてそのついでに万燈会
     しけり。夜更くるままに灯の消えけるを、おのおの
     ともしつきけるを見て、

04 消えぬべき法の光のともし火をかかぐるわたのみさきなりけり
          (岩波文庫山家集108P羈旅歌・新潮862番) 

○ふくる千鳥

「ふくる千鳥」は、ちょっと分からない表現です。
中央大学図書館蔵本では「深くる千鳥」となっています。
「ふくる千鳥」は実際にはありませんから、ここでは千鳥が「更ける」
事ではなくて更けいく光景の中を飛ぶ千鳥を言います。
こういう表現を倒置法と言います。

月光が照り映えて一日が終わろうとする頃に、あくまでも静謐な
情景の中で飛び行く千鳥の声がかすかに聞こえるということであり、
「ふくる千鳥」は余情を感じさせる表現なのかもしれません。

○須磨の関守

須磨は摂津の国の歌枕。現在の神戸市の西部にある地名。
神戸市須磨区。
古くは須磨までは摂津の国、須磨以西は播磨の国でした。瀬戸内海
に面していて、淡路島とは近い距離にあります。

須磨には古代山陽道の関が設置されていました。海陸両方の関の
役割を担っていたようです。しかしこの関も他のいくつかの関と
同様に789年に廃止されています。
関があった関係で「須磨の関守」の歌も多く詠まれています。

須磨は万葉集にも詠われていますが、源氏物語の「須磨」「明石」
の影響も大きく、塩焼、千鳥、月などの言葉を詠みこんだ歌が多く
詠われました。

○風もふくれば

(ふくれば)は「吹く」と「更く」の掛詞。無理に掛詞にしている
ために不自然で、少し分かりにくい表現です。
空も晴れていて月の輝きも素晴らしかったのに、時間とともに雲も
かかり風も吹いてきたということ。

○ふくると告ぐる水の音

水の音が一日の更けていることを知らせてくるという意味。

○六波羅太政入道

平清盛のこと。入道は出家者を指します。清盛出家は1168年、
51歳の年です。大病を契機としての出家で法名は「浄海」。

○持経者

法華経を専門的に読誦する僧侶のこと。

○千人あつめて

千人の僧が合同で行う供養の儀式であり、千僧供養といいます。
清盛は福原でも厳島でも千僧供養を執り行っています。大きな
功徳があると信じられていました。

○津の国わた

(津の国)は「摂津の国」のこと。(わた=輪田)は神戸市兵庫区に
あり、現在の神戸港の一部分を指します。
1180年、清盛が遷都した福原は、輪田のすぐ北です。

○萬燈会

法会の形式の一つ。懺悔や贖罪を願って、一万の燈明を灯して供養
することを目的とした法会です。
この法会は1172年3月に行われました。

○ともしつきける

(灯し継ぎける)です。火が消えそうになっても次々と灯し続ける
ことです。

(01番歌の解釈)

「月が澄みわたり夜が更けて千鳥の声がしているよ(しているらしい)
その声にめざめて、いろいろ心をくだき、千々に物思いする須磨の
関守りよ。」
          (渡部保氏著「山家集全注解」から抜粋)

(02番歌の解釈) 

「宵のうちはあんなにのどかであった月の光なのに、夜が更ける
につれ、雲もあらわれ、風も荒く吹くことである。」
           (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

(03番歌の解釈) 

「窓に吹きつける嵐の音にまぎれつつ聞こえていた水の音が、
嵐が止むと共に、夜の更けたのを告げるかのように静寂の
中から聞こえてくることだよ。」
            (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

(04番歌の解釈) 

「末法の世なので消えてしまいそうになる法灯の光を、ここ大輪田泊
では盛大な法会によって見事に灯し継ぎ、勢いを盛り返しているよ。」
                (和歌文学大系21から抜粋) 

詞書に明示されていませんが、この法会には西行自身も臨席して
いたものと思います。清盛に招かれて参加した可能性もあります。
確証は一切ないのですが、西行は単なる招待客ではなくて、企画や
運営・進行に携わっていたのかもしれません。

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       ◆ ふくろふ ◆

【ふくろふ】

フクロウ科の鳥。全長は約50センチほどになります。頭部は大きく
顔はほぼ円形。夜行性で野生のネズミやウサギなどを捕食している
ようです。
頭上に耳状羽のあるものをミミズク、ないものがフクロウです。

この歌は高野山に住んでいた西行から大原に住んでいた寂然に宛てた
10首の贈答歌の中の1首です。初句はすべて「山深み」となっています。
寂然からは結句が「大原の里」で終わる10首が返されています。

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01 山ふかみけぢかき鳥のおとはせでもの恐しきふくろふの聲
     (岩波文庫山家集138P羈旅歌・新潮1203番・夫木抄)

○山ふかみ

高野山の山が深いということ。西行は30年間ほどを高野山で過ごし
ました。もちろん高野山を生活の拠点としていたということであり、
その間京都だけでなく、たくさんの地に赴いています。

○けぢかき鳥

身近な鳥のこと。ホトトギスの代名詞です。

(01番歌の解釈) 

「山が深いので、親しみのある鳥の声は少しも聞えず、もの
恐ろしい感じの梟の声のみがします。」
            (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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       ◆ ふけゐ ◆

【ふけゐ】

現在の大阪府泉南郡岬町深日(ふけ)辺りだと比定されています。
和泉の国の歌枕で難波津や住吉の少し南の方角にあたります。

「吹飯」の漢字を当て、「ふけゐ・ふけひ」と読んでいます。
大学堂書店の「平安和歌歌枕地名索引」では「ふけひ」が1首、
「ふけひのうら」が35首あります。
この「ふけひのうら」は、「和歌初学抄」では和泉の国の歌枕とし、
「八雲御抄」では伊勢の国の歌枕としており、異同が見られます。
「八雲御抄」がなぜ伊勢の歌枕としているのか、その典拠は不明です。
これとは別に紀伊の国の「吹上の浜」との混同が見られます。

「西行とその周辺」という書物から「いほぬし」という歌文集に
触れた条項を書き記します。

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(詞書)
「紀の国の吹上の浜にとまれる。月いとおもしろし。この浜は天人
常に下りて遊ぶといひ伝へたる所なり。げに、そもいと面白し。
今宵の空も心細うあはれなり。夜のふけ行くままに、鴨の上毛の
霜うち払ふ風も空さびしうて、田鶴はるかにて友を呼ぶ声もさらに
いふべき方もなう、あはれなり。それならぬさまざまの鳥どもあまた、
洲崎にも群がれて鳴くも、心なき身にもあはれなること限りなし。」

(歌)
 乙女子が天の羽衣ひきつれてむべもふけゐの浦に降るらむ

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引用した詞書からは、「ふけゐの浦」は明らかに紀伊の国の吹上の
浜であるといえます。
他にも「吹上の浜」=「吹飯の浦」の歌があります。

「吹飯の浦」が和泉の国の歌枕とするのは、下の歌からも理解でき
ます。ただし「絵島が磯」の地理関係が少し疑問ですが、淡路島の
北辺の「絵島が磯」あたりに月がかかっている光景ですし、絵島の
磯が見えなくても想像できるわけですから不自然ではありません。

 「小夜千鳥ふけひの浦におとづれて絵島が磯に月かたぶきぬ」 
               (藤原家基 千載和歌集990番)

紀伊の国と和泉の国に「ふけひ」があるという混同はどうして起き
たのでしょうか?。当時の歌人たちが実際に歌枕の地に赴いて歌を
詠むのではなくて、京の地にあって言葉遊び的に歌を詠んだという
ことも原因の一つでしょう。
先行歌人のミスによる歌なり記述なりを信じきって、信じたままに
歌枕の地を確認しないで安易に歌を詠んだことが、連鎖的なミスに
繋がったものでしょう。
現在であれば、この混同は考えられない大きなミスとも言えます。

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01 千鳥なくふけゐのかたを見わたせば月かげさびし難波津のうら
  (岩波文庫山家集243P聞書集126番・西行上人集・夫木抄)

○難波津のうら

現在の大阪湾の入り江のことです。
「平安和歌地名索引」では「難波津の浦」歌も多く19首あります。
「難波江の浦」が100首ほどありますから、普通は「津」ではなくて
「江」が使われていると言えます。意味は同じです。
01番歌は西行上人集及び夫木抄でも「難波江の浦」となっています。

(01番歌の解釈)

「千鳥が鳴く吹飯(ふけい)の浦の方角を見渡すと、月影がさびしい、
難波の船着場の入江よ。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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  (後記)

6日に啓蟄になりながら、寒の戻りとでもいうのか強烈な寒波の襲来
です。長野県では-20度以上を記録したそうで驚きました。
まだまだ寒さは強いのですが、それでも行きつ戻りつしながらも
季節は緩慢に移り、暖かくなるのももうすぐです。
京都の多くの所で、すでに梅は見頃を迎えています。桜ももうすぐ
開花します。待望の花(桜)のことを思うと、気持ちはそぞろとなり
ます。今はまさに、なんとなく落ち着かない日常。

魁のように咲くJR桃山駅のほぼ満開の桜は昨日見に行きました。
次は淀緑地の河津桜。そして桂川沿いの陽光桜、それ以後はもう
あちこちで一斉に開花します。毎年見ぬ所がないほどに京都の
桜の追っかけをしていますが、今年もまたたくさんの花を見たい
ものです。

今号は異例の短さですが、これで発行します。

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