キャリアデザインマガジン

日本キャリアデザイン学会 キャリアデザインマガジン第91号


カテゴリー: 2010年02月03日
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□    キャリアデザインマガジン 第91号 平成22年2月1日発行
     日本キャリアデザイン学会 http://www.career-design.org/

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 「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
 ※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。

□ 目 次 □-----------------------------------------------------------

1 私が読んだキャリアの1冊(1)
     大久保幸夫『日本の雇用-ほんとうは何が問題なのか』
2 私が読んだキャリアの1冊(2)
     海老原嗣生『雇用の常識「本当に見えるウソ」』
3 キャリアイベント情報

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【学会からのおしらせ】

◆キャリアデザイン学会第7回研究大会・総会の日程が決定しました。
 日 程 2010年10月23日(土)・24日(日)
 会 場 神戸学院大学
     〒650-8586 神戸市中央区港島1-1-3

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1 私が読んだキャリアの1冊(1)

  『日本の雇用-ほんとうは何が問題なのか』
               大久保幸夫著 講談社現代新書 2009.6.20

 リーマン・ショック後の急速な景況悪化は、あらためて雇用問題をクローズ
アップした。「派遣切り」が社会問題となり、2009年末には日比谷公園で「派
遣村」が開催された。雇用失業情勢が2010年の総選挙による政権交代の一因で
あったことも間違いあるまい。

 もっとも、その際の新政権与党の政権公約における労働政策は、製造派遣や
登録型派遣の原則禁止や最低賃金の引き上げなど、総じて問題視されている事
項に対して個別に、直接的・短絡的な規制を行うものが目立ち、それによる労
働市場や人事労務管理への影響が考慮されていないかのように見える。世間で
の議論も同様で、いまだに諸説が乱立してかなりの混乱がみられるのが実情だ
ろう。これは、わが国の労働市場や労使関係、人事労務管理の現状が歴史的に
どのように形成され、現状どのようになっていて、相互にどのように結びつい
ており、さらにはそれが社会保障や福祉、教育などの分野とどのように連関し
ているのか…といった、雇用とそれを取り巻くしくみの全体像に対する理解が
欠如していることに大きな原因があるものと思われる。

 もちろん、こうした全体像に対する的確な理解のもとに雇用政策を論じた業
績もある。その代表例としては濱口桂一郎(2010)『新しい労働社会-雇用シス
テムの再構築へ』岩波新書や、八代尚宏(2010)『労働市場改革の経済学-正社
員保護主義の終わり』東洋経済新報社があげられよう。この2冊の拠って立つ
理念は前者が社民主義、後者が自由主義であって、全く異なるにもかかわらず、
現状に対する理解についてはほとんど同様の認識を示しており、具体的な政策
においてもかなりの共通点を有していることは、一見驚くべきことのように見
えるが、両者がともにわが国の雇用システムに対する深い理解に立っているこ
とを考えれば、むしろ必然といえる。

 この本もまた、今日的な雇用問題の背景にある全体像を示した上で、具体的
な政策を提言している。「はじめに」では、日本社会を覆う雇用不安を強く意
識して議論を進めるとの姿勢が示される。第1章はおもに歴史的経緯の解説に
あてられ、まずはこの10年間で起こったことが整理され、続いてさらに長期的
な歴史が概観され、そのうえで現状を正規-常用非正規-臨時非正規という構
造で整理している。第2章は、主として前回の雇用調整期に採用され、あまり
効果を生まなかった雇用対策をレビューし、その問題点を指摘している。中で
も、批判的に論じられることの多い新卒一括採用について積極的に再評価した
部分は興味深い。

 第3章からは提言に入るが、この章ではやはり前回の雇用調整期における経
験、特に失敗経験をふまえて、今回の不況における企業と働く人の留意点を解
説している。不況期のアイドルを教育研修にあてる、中間管理職の役割の再評
価、正社員就職の重要性など、現に企業が取り組んでいる内容も多く、実務実
感によく一致している。第4章は政府による主な雇用対策、雇用保険、教育訓
練、雇用調整助成金のそれぞれについて、失業者を孤立させない、労働需要の
あるサービス業を重点に教育訓練を行う、非正規に過度に雇調金を拡大しない
などの提言がなされる。

 第5章は、将来的な課題が取り上げられる。格差問題、ミドル・シニアのキ
ャリア、派遣について、多様性を重視する観点からの提案が行われている。
「おわりに」では、政府によるセーフティネットが不十分な中、貯蓄や夫婦共
稼ぎ、人脈、労働法などの知識、そして職業能力といった「指摘セーフティネ
ット」構築の重要性を訴えている。

 この本の最大の特色は、雇用システムおよび周辺システムの全体像に対する
的確な理解のもとに書かれていることに加えて、人材ビジネスの最前線に立つ
リクルート、そのワークス研究所を中心とした多くの調査やその分析、そして
なにより多くの具体的事例を踏まえて、豊富な現場感覚をもって論じられてい
ることがあげられるだろう。上で紹介した2冊が、その理念的背景のゆえに、
現実的を意識しながらも具体論においては実務実感に適合しない部分が多々み
られたのに対し、この本においては、もちろん具体論の細部については申し上
げたいことも多々あるが、しかしかなり多くの点では実務実感とも整合的であ
る。もちろん、人材ビジネスゆえのバイアスを感じる部分もあるが多くはなく、
よく自制されていているとの印象を受ける。

 コンパクトな本であり、論点やポイントを絞り込んで書かれているため、論
じきれていない部分も残されていることに不満を感じる向きもあろう。とはい
え、それゆえに多くのビジネスパーソンには読みやすく、一読すれば一通りの
基本的知識をおおむね正しく理解することができるになっているのではないか
と思う。雇用問題は働く人たちのほとんどに大きな関係を持つ。多くの人に読
まれてほしい好著である。
                         (編集委員 荻野勝彦)

 ※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
  日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。


2 私が読んだキャリアの1冊(2)

  『雇用の常識「本当に見えるウソ」-数字で突く労働問題の核心』
               海老原嗣生著 プレジデント社 2009.5.20

 昨今の雇用問題をめぐる議論の百家争鳴ぶりは際立ったものがあるように思
われる。もちろん、経済も社会も先行きには不確実さがあるし、論者によって
それぞれ筋の通った正論があり、唯一の正解が決まるものではないから、それ
が普通の姿なのだろう。

 それにしても、理念や政策ならば格別、事実認識に至るまでそれなりに名の
通った論客がほとんど正反対に近い論陣を張っているのをみると、どちらかが
より正しくてどちらかがより誤っているのではないかと思わざるを得ない。そ
して、人事・労務の実務の観点からは、声高に言われて半ば「常識」と化して
いる説のほうが「おかしい」と思われる論点も少なくない。「小泉改革で規制
緩和を進めたせいで、非正規労働が増加して格差が拡大し、貧困が増えた」こ
うした議論はあちこちで見かけるが、しかし実際に労務管理をやっている立場
からみれば「そうは言っても小泉改革の前からパートや契約社員は増えてたし、
派遣の規制緩和がされてなかったら代わりに契約社員がもっと増えただろうし、
非正規っていうけど正社員の中でも格差は拡大しているんだけどな…」とまこ
とに釈然としない。

 この本は、こうした論点について実際にデータをみて検証し、多くの論点で
実務実感に適合した、しかし世間の「常識」とは異なる結論を引き出している。
もちろん、「常識」の側にも再反論があるだろう(実際、一部の検証には若干
の疑問もある)し、データ上の大勢は異なる結論を支持しているにしても、対
立説のとる少数の問題が無視できないという状況もあるだろう。とはいえ、政
策論にあたっては現実を反映したデータをふまえて冷静で客観的に議論すると
いう姿勢はきわめて重要であろう。

 なぜ、識者はこうした「常識」実は非常識を語るのか。著者は「彼らはまず
最初に、自分の言いたい主義主張があり、それを言いたいがために」であると
いう。「企業が悪い」「小泉改革反対」「若者がかわいそう」といった主義主
張である。実際、そうではないかと思われる主張は世間に多々みられるので、
データによる検証はないにせよ、なかなか、説得力のある推測のように思われ
る。評者の感想としては、今回の局面では雇用問題が過剰に政治化しているよ
うな印象を受ける。本来は雇用問題はむしろ経済問題であって、政策の影響も
さることながら循環的要因が大きく影響しているはずなのに、今回はそれが過
小評価され、政治的要因ばかりがクローズアップされているのではないかと感
じるからだ。政治的な文脈においては、議論が単純化されたものに還元されや
すく、著者も指摘するように「悪者探し」(とセットになった被害者づくり)
が行われやすいのではないか。しかし、現実の事象はさまざまな要因が複合し
て起きており、特定の政策を実施すれば-たとえば派遣労働を禁止すれば-そ
れですべてが解決するなどということはありえない。

 さて、本書では最終章を「2つの暴論」として、今後の雇用政策について2
点提言している。

 1点めは「ガラパゴス」を連発して暴論を装ってはいるが、基本的には雇用
形態の多様化を主張するものであってすでに多くの識者が類似の提案を行って
おり、格別「暴論」との印象はない。「普通の国」を標榜するが、従来の日本
とそれほど違うという感じも受けない。ただ、なにもあれこれ禁止して無理矢
理に整理する必要もなく、多様な選択肢を増やしていけばいいのではないか。

 2点めは移民政策だが、永住は想定していないようので現実には外国人労働
者政策であろう。かなり徹底して日本にとって好都合な外国人労働者受け入れ
が主張されていて、これまた暴論という印象はなく、むしろこのとおり外国人
が受け入れられるならけっこうなことだという感じだ。ただ、これは相手国が
あることでもあり、なかなかこうは理想的にはいかないだろう。そういう意味
で現実的かどうかには大きな疑問符がつく。

 なお、本書には識者によるコラムが2つ掲載されているが、そのうち中村圭
介東京大学社会科学研究所教授による「企業は、「大騒ぎ」を利用してモード
チェンジしてきた」は、短いながらも非常に面白いポイントを突いている。わ
ずか2ページなので、書店でみかけたらここだけでも立ち読みしてみてほしい。

                         (編集委員 荻野勝彦)

 ※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
  日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。


3 キャリアイベント情報
  ~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~

◆京都産業大学「キャリア形成支援フォーラムシリーズvol.1」日本における
 コーオプ教育の可能性-大学教育と新卒採用の新展開- 
 平成22年2月7日(日)14:00~17:30 
 於 キャンパスプラザ京都 4階第4講義室(京都市北区) 
 詳細:http://www.kyoto-su.ac.jp/more/2010/305/pdf/20100207_forum.pdf

◆武蔵野大学「現代GPフォーラム」専任教員によるキャリア教育の実践
 平成22年2月9日(火)13:00~17:10
 於 武蔵野大学 5号館1階 多目的ホール(東京都西東京市)
 詳細:http://www.musashino-u.ac.jp/ao_student/career/musashino_career/gpforum.html

◆中央職業能力開発協会「キャリア・シート(CADS&CADI)を使った納得でき
 るキャリア形成支援法セミナー」
 平成22年2月24日(水)9:15~17:00
 於 主婦会館プラザエフ(東京都千代田区)
 詳細:http://www.javada.or.jp/(HP左側の該当セミナーをクリック)

◆中央職業能力開発協会「キャリア・シート(CADS&CADI)を使った『キャリ
 ア相談・面談』セミナー」
 平成22年2月25日(木)9:15~17:00
 於 主婦会館プラザエフ (東京都千代田区)
 詳細:http://www.javada.or.jp/(HP左側の該当セミナーをクリック)


【編集後記】

 本号ではリクルートにゆかりの深いおふたりの本を並べてみましたが、ワー
クス研究所はわが国労働研究の一大拠点となった感がありますね。労働政策に
関しては他に較べてもかなり現実的で実用的な優れた提言が目立つように思い
ます(ほめすぎ?)。人事管理になるととたんに商売っぽくなってくるのは面
白いというか当然というか…。(O)


【日本キャリアデザイン学会とは】

・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。 
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。

 学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
 ◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
   http://www.career-design.org/

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  日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
  オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
  
  このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
 配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
  無断転用はお断りいたします。

 編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部担当部長)

   日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
    e-mail cdgakkai@hosei.org
   〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1

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