人事のブレーン社会保険労務士レポート

人事のブレーン社会保険労務士レポート第160号 健康保険及び厚生年金保険の短時間労働者への適用拡大について


カテゴリー: 2017年01月15日
平成29年1月15日 第160号
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人事のブレーン社会保険労務士レポート
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健康保険及び厚生年金保険の短時間労働者への適用拡大について

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1.はじめに
 平成28年10月1日に改正施行された厚生年金法及び厚生年金法改正にお
いて短時間労働者の社会保険適用が週20時間以上となり拡大されました。
ただし、500人未満の企業には適用除外規定があります。
 以前このメルマガでも取り上げましたが、国会での議論を通じて厚生労働省
の原案を本にお話しした以前の内容と若干違いますので最終版として今回取り
上げたいと思います。

 今回の改正に当たり、大きなポイントは2つあります。

第1は、法律で短時間労働者の社会保険の加入基準が明記された点。
今までは、法律ではなく厚生労働省が地方自治体に出した内簡において、同じ
事業場で働くフルタイムの労働者と比較して概ね4分の3以上の労働者につい
ては社会保険に加入しなければならないとされていました。ですから年金事務
所長の名前で、法律上の根拠条文を示しての指導は出来ず、短時間労働者の社
会保険の加入についてはグレーな取扱になっていました。
しかし今回の改正により、短時間労働者の社会保険の加入について法律に明記
されたので、これによる影響は非常に大きいです。
その理由としては内簡という行政機関内の内々の文書が根拠となって所謂4分
の3ルールが定められました。ですから今まで年金事務所は短時間労働者につ
いて、加入をさせなければならないというお願いはできましたが、根拠条文を
示しての行政指導はできませんでした。
今後は行政指導ができますので、4分の3に該当するかどうかについては行政
不服審査法で争うというケースが増えてくると思います。
第二は、適用が拡大されたことです。週20時間以上の労働者について社会保
険の加入が義務づけられました。500人未満の企業には除外規定があります。
今回の改正の背景は年金財政を支えるために保険料を払う対象者を増やさなけ
ればならないからです。
非正規労働者の待遇改善をスローガンに適用拡大をしていますが、これでは待
遇改善につながりません。本来やらなければならないことは国民年金の第三号
被保険者から保険料を徴収することです。厚生年金に加入している配偶者の扶
養になっている方が第三号被保険者です。保険料は支払っていませんが、その
期間の国民年金はもらえます。
 厚生年金に加入している配偶者の保険料で、その被扶養配偶者である本人の
国民年金保険料を賄っているのですが、保険料は第三号被保険者がいることで
変動しません。
 保険料を支払わないで国民年金がもらえる非常にお得な制度であり、同時に
この制度から抜け出したくないがために「扶養の範囲」で働きたいという動機
付けの制度でもあります。
本質的な対策はこの第三号被保険者から保険料を徴収することでありますが、
世論の大きな反発が予想されます。
 ですから、耳あたりのいいスローガンを掲げて進めやすい「厚生年金の適用
拡大」になってしまうのです。
 この保険料は労使折半ですから適用拡大は企業の負担増につながります。
総人件費は12%から15%程度増えます。

2.適用拡大が企業に及ぼす影響
今後の企業行動として、週20時間未満の労働者を増やしていくこととなるで
しょう。
既にその様な制度を導入している企業がたくさんあります。
この影響は2つです。

第一は、人手不足の企業にとって拍車を掛ける事になります。小売りや外食と
いった拘束時間が長く、利益率の低い業種は労働環境も悪く人手不足が恒常化
しています。適用拡大に対応するための保険料増額に耐えられず、週20時間
未満に抑制すれば当然、人が足りなくなります。正社員や社会保険に加入して
いるパートタイマーの残業が増えてしまうのです。
第二は、格差の助長です。属人的なノウハウを持っていない労働者については、
まず週20時間の職を探し、そこで評価を受けて労働時間を増やしてもらい社
会保険に加入をしていくというキャリアプランになってくるでしょう。
この改正法により、フルタイム労働者を減らしていきますから、正社員への道
が険しくなっていくのです。
 結果として貴重な時間を週20時間未満の比較的単純な労働に費やしてしま
い、経験の格差が収入の格差に結びついてしまう、その格差は開いていくので
す。
 法改正の影響については以上でありますが、制度の説明を以下でしたいと思
います。

2.平成28年10月改正法の概要

(1)施行日
 施行日は平成28年10月1日です。

(2)人数のカウント
人数のカウントは法人番号が同一の事業所です。
例えば本社と工場で別々の社会保険番号で適用されていても法人番号が同一で
あれば合算してカウントします。

(3)4分の3の判断について
 4分の3の判断については従来通り就業規則や雇用契約書等により判断します。
「日又は週」としている考え方を「週」のみとしました。
 その事業所のフルタイム労働者の所定労働時間が40時間の場合、30時間
以上の労働者が社会保険の加入すべき労働者となります。
 「30時間」が基準ではなく、その事業所のフルタイム労働者の所定労働時
間の4分の3が基準であるということに注意が必要です。(6)でお話しする
短時間労働者に該当しない場合にはその時点で加入手続きが必要ですが、月に
より労働時間が変動する場合にはどの様に考えるのでしょうか。
 「実際の労働時間及び労働日数が連続する2月において4分の3基準を満た
した場合で、引き続き同様の状態が続いている又は続くことが見込まれるとき
は、4分の3基準を満たした月の3月目の初日に被保険者資格を取得する」と
なっています。

(4)週の所定労働時間が定まっていない短時間労働者に対する4分の3の計算方法

週の所定労働時間が定まっていない場合は下記の計算によって算定します。
1年間の月数を「12」、週数を「52」として週単位の労働時間に換算します。
 a1か月単位で定められている場合
   1か月の所定労働時間×12か月÷52週
 b1年単位で定められている場合
   1年間の所定労働時間÷52週
 c1週間の所定労働時間が短期的かつ周期的に変動する場合は平均


(5)500人の判断について
 被保険者の総数が500人を超える場合に特定事業所に該当しますが、この
500人を超えるとは以下のように判断します。
 a法人事業所の場合は、同一の法人番号を有するすべての適用事業所に使用
  される厚生年金の被保険者総数が12カ月のうち6カ月以上500人を超える
  事が見込まれる場合
 b個人事業所の場合は、適用事業所ごとに使用される厚生年金保険の被保険
  者の総数が12カ月のうち6カ月以上500人を超える事が見込まれる場合
  法人は全体で、個人事業主は適用事業所ごとに判断するということです。
  該当した場合には年金機構に「特定適用事業所該当届」を出す必要がありま
  す。
 
(6)短時間労働者とは
 まず、条文の書き方ですが、4分の3ルールの検討をして、そのルールでは
加入をできない労働者を短時間労働者と定義しています。
 その短時間労働者の中で以下の要件いずれかの要件に該当する場合には適用
除外と判断されます。
 イ 一週間の所定労働時間が20時間未満であるもの
 ロ 当該事業場に継続して一年以上使用されることが見込まれないもの
 ハ 資格取得時の標準報酬月額が88,000円未満であること
 二 学校教育法50条に規定する高校生、同83条に規定する大学の学生そ
   の他厚生省令で定める者であること
 短時間労働者以外の労働者は「2ヶ月以内の期間を定めて使用される者」を
適用除外としています。しかし、短時間労働者については、その労働実態を鑑
みこの規定を緩和し「一年」としたわけです。
 ですから、短時間労働者以外の者、所謂4分の3ルール以上に働く労働者に
ついては従前通り「2ヶ月以内の期間を定めて雇用される者」が適用除外とな
るわけであり、「短時間労働者の雇用見込み」と「日雇い労働者及び短期間契
約の労働者」の取扱を混同しないように注意が必要です。

3.まとめ
 冒頭で書いたように国民年金の第三号被保険者から保険料を取りたいけれど、
それはやりにくいということで今回の改正につながったわけです。
 企業としては短時間労働者の総人件費の12%から15%が増える対策をし
なければなりません。
 該当しないように週の労働時間を抑えるということは企業にとっては「求人」
が大変になり恒常的に人手不足に陥るでしょう。
 労働者にしてみれば「属人的なノウハウ」をあまり持っていない労働者はフ
ルタイムで働く機会が少なくなるでしょう。労使双方にとって不幸な今回の改
正法。
 利益率の低い業種にとっては非常に辛い法改正となりました。


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