会社にケンカを売った社員たち

★ 『会社にケンカを売った社員たち』 ★ No.441 (2017/07/19発行)


カテゴリー: 2017年07月19日
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■ 今週の事件【中央労働基準監督署長事件】
▽ <主な争点>
海外現地法人の総経理であった者の死亡に対する労災不支給決定の取消など

1.事件の概要は?
2.前提事実および事件の経過は?
3.Xの妻Yの主な言い分は?
4.判決の要旨は?

■ 編集後記



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■ 今週の事件

【中央労働基準監督署長(以下、C労基署長)事件・東京地裁判決】
(平成27年8月28日)

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 1.  事件の概要は?
━━━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…‥

本件は、甲社の上海現地法人の総経理であったXが急性心筋梗塞を発症して死亡し
たことについて、Xの妻であるYが、Xの死亡は業務上の死亡に当たるとして労働
者災害補償保険法(労災保険法)に基づき遺族補償給付および葬祭料の支給請求を
したところ、C労基署長が「Xの死亡は出張業務中の災害とは認められず、海外派
遣者として特別加入の承認も受けていなかったので、労災保険法36条に基づく補償
の対象にならない」として、いずれの請求に対しても不支給決定をしたことから、
Yがこれらの不支給決定の取消しの訴えを提起したもの。



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 2.  前提事実および事件の経過は?
━━━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…‥

<XおよびYについて>

★ Xは、平成元年4月、甲社に入社し、同社が中国・上海に丙社を立ち上げたこと
に伴い、18年8月、首席代表として赴任した者である。

★ Yは、Xの妻であり、Xとの間には3人の子がいる。


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<Xの死亡、労災保険法の加入関係等について>

▼ 甲社は21年12月、上海に100パーセント出資の現地法人である乙社(有限公司)
を設立し、22年4月から営業を開始した。Xは乙社の総経理に就任して、丙社の首
席代表との兼務となった。

▼ Xは22年7月、上海において、急性心筋梗塞(以下「本件疾病」という)を発症
して死亡した。

★ 甲社はXが上海で勤務するにあたり、海外派遣者としての特別加入の申請手続を
とらず、承認を受けていなかった。


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<本件不支給決定、本件訴えの提起に至った経緯等について>

▼ Yは24年5月、C労基署長に対し、Xの死亡が業務上の死亡に当たるとして、
遺族補償年金および葬祭料の支給請求をした。

▼ C労基署長は同年10月、Xの死亡は出張業務中に被った災害とは認められず、
海外派遣者としての特別加入の承認も受けていなかったことから、労災保険法36条
に基づく補償の対象にならないとしてYの上記各請求についていずれも不支給とす
る旨の決定(以下「本件不支給決定」という)をした。

▼ Yは本件不支給決定を不服として、同月、東京労働者災害補償保険審査官に対す
る審査請求を行ったところ、受理後3ヵ月を経過しても審査請求についての決定が
なかったことから、25年2月、労災保険法38条2項に基づき、労働保険審査会に対
して再審査請求を行った。

▼ 労働保険審査会は26年1月、上記再審査請求を棄却する旨の裁決をした。

▼ Yは同年7月、東京地方裁判所に対し、本件不支給決定の取消しを求める訴えを
提起した。



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 3.  Xの妻Yの主な言い分は?
━━━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…‥

1)Xは海外出張者に当たり、特別加入の手続を要しない!

▼ 海外派遣とは海外の事業場に所属して当該事業場の使用者の指揮に従い勤務す
る場合をいい、海外派遣者と海外出張者のいずれに当たるかはその勤務の実態を総
合的に勘案して判断すべきであり、単に滞在期間の長短や所属事業場における海外
勤務の取扱いのみを基準として区別されるものではなく、個々の事案について海外
勤務の実態を具体的に検討して判断されなければならない。

▼ 本件のように海外で勤務する労働者が海外派遣者または海外出張者のいずれか
に当たるかは、当該労働者の勤務実態に基づき労働者に対する指揮命令権が国内と
海外いずれかにあるかによって判断され、海外派遣者に当たるためには海外に従事
する事業が存在することが前提となるというべきである。


▼ Xは上海で勤務するようになってからも甲社海運部東京営業所国際輸送課に所
属し、その労務管理の下で同社から日々の業務の指示を受けながら課員としての職
務権限の範囲内で業務に従事していたのであり、このような実態の下では、Xが勤
務する丙社ないし乙社は海外の事業所に当たらないから、Xは国内事業所の指揮命
令下で労務を提供する海外出張者に当たる。よって、海外派遣者が労災保険法上の
保険給付を受けるに当たり必要な特別加入の手続を要しないといえる。


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2)Xの本件疾病の発症およびこれによる死亡には業務起因性が認められる!

▼ 労災保険法の適用がないことを理由とする労災保険法上の保険給付の不支給決
定に対する取消訴訟において、国側が新たに業務起因性について主張することは許
されず、裁判所は労災保険法の適用が肯定される場合には業務起因性についての認
定判断を留保した上で当該不支給決定を取り消さなければならない(最高裁判所第
三小法廷平成5年2月16日判決)。

▼ 国はXが海外出張者に該当するか否かは業務起因性と同様に実体要件に関する
問題であるから、本件訴訟において業務起因性に関する主張を追加することは許さ
れると主張する。しかし、Xが海外出張者か否かは実体要件の存否に関する問題で
はなく、Xの所属する事業が施行地内にあるか否かという労災保険法の適用の有無
に関する問題であるから、これを実体要件に関する問題とする国の主張には理由が
ない。


▼ Xの時間外労働は発症前1ヵ月目が約104時間、2ヵ月目が約89時間に上り、
量的に過重な業務に従事していたことは明らかであるから、Xの本件疾病の発症お
よびこれによる死亡には業務起因性が認められ、業務上の死亡に該当する。



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 4.  判決の要旨は?
━━━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…‥

▼ 労災保険法上の保険関係は、労働者を使用する事業について成立するものであり、
その成否は当該事業ごとに判断すべきものであって、保険関係の成立する事業は主
として場所的な独立性を基準とし、当該一定の場所において一定の組織の下に相関
連して行われる作業の一体を単位として区分されるものと解される。

▼ 労災保険法は、この法律の施行地内において事業を行う事業主が、この法律の施
行地外の地域において行われる事業に従事させるために派遣する者についての特別
加入制度を設けているところ、その趣旨は労災保険法が属地主義によることから、
労災保険法3条1項にいう「適用事業」が日本国内の事業にかぎられるものである。

▼ 国外における労働災害保護制度が十分でない現状に鑑み、日本国内で事業を行う
事業主が国外で行う事業に従事させるため労働者を派遣する場合に特別加入を認め、
これを通じて国内の事業に従事する労働者と同様の労災保険の保護を与えるのが相
当である。

▼ 労災保険上の保険関係が事業ごとに成立することに照らせば、労働者等が国内の
事業に属し、その事業に従事するための労働提供の場が単に海外にあるにすぎない
海外出張者は特別加入の手続を経ることなく保険関係の成立が認められるが、海外
の事業に属し、その事業に従事する労働者等については海外派遣者であって特別加
入手続を経なければ保険関係の成立が認められないと解するのが相当である。

▼ 特別加入手続を経ずに保険関係の成立が認められる海外出張者と海外派遣との
いずれに当たるかは、期間の長短や海外での就労に当たって事業主との間で勤務関
係がどのように処理されたかによるのではなく、当該労働者の従事する労働の内容
やこれについての指揮命令関係等当該労働者の国外での勤務実態を踏まえ、いかな
る労働関係にあるかによって総合的に判断すべきである。

▼ 丙社ないし乙社は単に中国の法令上一定の組織化された独立の活動単位として
予定されているにとどまらず、甲社の上海における活動拠点としての実態を有して
おり、甲社においても独立した事業所として位置づけていたものである。

▼ 丙社および乙社におけるXの地位についてみると、Xは丙社の唯一の日本人正社
員として、中国内顧客への訪問、業者との打ち合わせ等物流業務一般ならびに社員
教育等に従事して組織図上も現地社員を統括する立場にあり、乙社においても業務
内容に変化はなかった上に総経理として実質的責任者の地位にあったのであるから、
独立した海外の事業所である丙社ないし乙社に属し、その業務に従事していたこと
は明らかである。

▼ Xは海外事業所である丙社ないし乙社の事業に属してその事業に従事していた
ことから海外派遣者に当たり、労災保険法上の保険関係の成立には特別加入の承認
を得ることを必要とするところ、特別加入の承認を得ていないことから、保険関係
の成立は認められず、Xの死亡に係る遺族補償年金および葬祭料を不支給とした本
件不支給決定に違法はない。

1)Yの請求をいずれも棄却する。
2)訴訟費用はYの負担とする。

※ 本件は、『労働経済判例速報』平成28年2月20日号(日本経済団体連合会
労政第二本部 編)を参考に編集しています。


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■ 編集後記

間もなくリオ・オリンピックから一年。メダルラッシュで盛り上がった日々が遠い
昔のように感じられます。3年後の7月24日には東京オリンピックが開幕します
が、このところの厳しい暑さを思うと、本当に大丈夫なのかと心配にもなります。
始まるとまた盛り上がるのは間違いありませんが、終わった後のことも今から考え
てしまいます。

次号では、痴漢行為を理由とする諭旨解雇処分について争われた事例を取り上げる
予定です。なお、次回配信日は8月2日(水)となります。(Y)

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しています。これは裁判の結果(勝訴・敗訴)ではなく、争点が生じた原因を探る
ことに重きを置いているためです。もちろん従業員側の主張の全てが真実というわ
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