海外ミステリ通信

『海外ミステリ通信』2017年5月号


カテゴリー: 2017年05月15日
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              月刊 海外ミステリ通信
          第122号 2017年5月号(隔月15日配信)
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★今月号の内容★

〈特集〉       MWA賞処女長篇部門レビュー
〈邦訳新刊レビュー〉 『お嬢さま学校にはふさわしくない死体』『完璧な家』 
           『地下道の鳩 ジョン・ル・カレ回想録』
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 ■特集 ―― MWA賞処女長篇部門レビュー
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『海外ミステリ通信』恒例の、MWA(アメリカ探偵作家クラブ)処女長篇部門の受
賞作品と、ノミネート作品のうちの3作のレビューをお届けする。
 今年は、登場人物たちが運命に翻弄される作品が多い。どれも映像として見たい作
品で、実際、映像化予定のものもある。デビュー作がいきなり映像化されるのだから、
その実力がうかがい知れる。

★受賞作品

"UNDER THE HARROW" by Flynn Berry
 Weidenfeld & Nicolson/2016/ISBN: 9781474605106

《過去の事件の犯人を捜し続けた姉と、姉の殺人犯と思う男を執拗につけまわす妹》

 ノラは造園家の助手として働きながらロンドンで暮らしている。ある金曜日の午後、
郊外のウィンショーに住む姉のレイチェルのところに泊まりに行こうとしていた。だ
が、列車で最寄りの駅に着いても迎えに来ているはずのレイチェルの姿はなかった。
それでも、レイチェルは看護師という職業柄、帰りが不規則になることが多かったの
で、ノラは気にせずに料理好きの姉が今夜は何を作ってくれるのかと考えたり、コー
ンウォールで一緒に過ごす予定のクリスマスを楽しく想像したりしながら姉の家に向
かって歩いていった。だが、レイチェルの家に着き、ドアを開けると、ノラを待って
いたのは無残な状態で殺害されたレイチェルとジャーマン・シェパードの姿だった。
警察の捜査が始まり、しばらく近くにとどまるようにと言われたノラは、ウインショ
ーに一軒しかないホテルに泊まることになる。
 レイチェルは17歳の時に見知らぬ男に殴る蹴るの暴行を受けたことがあった。しば
らくの間はその犯人を捜し続けていたが、だいぶ前にノラにもうそれはやめると言っ
ていた。けれども、事件後15年たった今もレイチェルはその犯人を捜し続けていたこ
とが警察の捜査からわかる。そのことと、今回の殺人事件は関係があるのだろうか?
さらに警察の捜査からは、レイチェルが飼っていたジャーマン・シェパードは人を守
るための訓練を受けた犬だったということや、レイチェルが最近引っ越しを考えてい
たようすがあったことなどもわかり、そうしたことなどから警察はレイチェルが誰か
から脅迫を受けていたのではないかと考えるようになる。
 捜査は進められるが、なかなか犯人にたどり着かない。ノラはホテルでじっとして
いることはできず、過去にレイチェルから聞いた話を思い出しながら、自分なりに犯
人捜しを始める。そしてある人物を疑うようになり、その人物にあえて自分から近づ
いていったり、執拗とも思えるほどのストーカー的行動を取ったりするようになる。
15年前の事件の犯人をいまだに捜し続けていたレイチェルと、姉の殺人犯かもしれな
いと考えた人物を執拗につけまわしたりするノラ。この姉妹のようすが時として物語
に不気味さを添えて、一種独特の雰囲気を醸し出している。
                                (石田浩子)
◇アマゾン・ジャパンへ
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/1474605095/whodunithonny-22/ref=nosim
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"THE LOST GIRLS" by Heather Young
 William Morrow/2016.7.26/ISBN:9780062456601

《湖の別荘から消えた6歳の少女。彼女の失踪の陰にある真実とは》

 大叔母のルーシー・エヴァンスが亡くなり、ジャスティーンは彼女が住んでいたミ
ネソタの別荘を相続することになった。ルーシーが子どものころに毎年の夏を過ごし、
おとなになってからはずっと住んでいた別荘だ。ジャスティーンはいま、ふたりの娘
とサンディエゴに住んでいる。夫が家を出ていってからは、新たに出会った恋人のパ
トリックもいっしょだ。彼は娘たちをかわいがり、ジャスティーンのこともよく気遣
ってくれる。しかし、何ともいえない息苦しさを感じているのも事実だった。ある日、
ジャスティーンは娘たちだけを連れ、パトリックから逃れるようにして衝動的にミネ
ソタに向かう。
 かつてのエヴァンス家は町の有力者だった。ルーシーは3姉妹の真ん中で、父親の
トーマスは薬局を経営し、信心深く、娘たちにも厳格に接していた。長女のリリスが、
ジャスティーンの祖母に当たる。歳の離れた末っ子のエミリーのことは、ルーシーも
リリスもすこしだけわずらわしく思っていた。母親のエレノアはエミリーをつねに視
界に入るところにいさせていたが、彼女は6歳の夏に失踪し、行方はわからずじまい
で捜索も打ち切られた。やがて家業の薬局の経営が傾くと、父親は自殺した。ルーシ
ーは生涯、独身を通し、ミネソタの別荘に住みつづけた。
 死を前に、ルーシーは過去の出来事をジャスティーンに向けてノートに綴っていた。
エミリーが失踪するまでの出来事を。それを読んだジャスティーンは、当時のエヴァ
ンス家に何があったのかを知り、さらにはごく身近な危機をも知ることになる。
 タイトルは“THE LOST GIRLS”で、その意は“失われた/道に迷った少女たち”だ。
複数形になっているのは、失踪したエミリーだけでなく、本書に登場する女性たちみ
んながそれぞれ失われ、道に迷っているからだろう。なぜ、彼女たちは道に迷ってし
まったのか。なぜ、ルーシーは別荘に住みつづけたのか。ルーシーの手記であきらか
になる真相は、あまりにもショッキングだ。しかしそれによってジャスティーンは救
われることにもなり、その結末には救われる。
 著者は元弁護士で、長年の思いをかなえて作家として本作でデビューした。現在、
2作目を執筆中だという。
                               (吉野山早苗)
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"DANCING WITH THE TIGER" by Lili Wright
 Marian Wood Books/Putnam/2016.07.12/ISBN: 9780698197015

《メキシコの伝説の仮面をめぐり、ヒロインたちの人生が複雑に交錯するサスペンス》

 本書のヒロインはアンナ・ラムジー、30歳。文献の内容が事実に即しているかを確
認するファクトチェッカーだ。メトロポリタン美術館に勤めるデヴィッドとニューヨ
ークで暮らし始めて3年になる。2人は結婚を控えていたが、デヴィッドの浮気を知
ったアンナは、怒りのあまりコネティカットの実家に戻る。実家で暮らしているのは
父のダニエルだけだ。ダニエルは長年メキシコの仮面を収集してきた。その集大成と
して、ダニエルはアンナの助けを借り、仮面に関する研究書を刊行していた。収集し
た仮面をメトロポリタン美術館で展示する予定も立っていた。ところが、その本の内
容が不正確で、提出した仮面の中に制作年代が違っているものがあったために、美術
館から展示を断られたという。がっかりするアンナに、ダニエルはよい知らせもある
と話す。16世紀アステカ帝国の王、モンテスマ2世のデスマスクが発掘されたという
連絡を、メキシコの著名な美術商で知人のゴンザレスから受けたというのだ。存在自
体は伝えられていても、実際に見た者はいないとされるその仮面には、計りしれない
価値がある。それほど素晴らしい仮面を手に入れれば、メトロポリタン美術館から展
示を断られた屈辱を晴らすことができると勢い込んだダニエルは、すでに手数料をゴ
ンザレスに送金していた。実物を見てもいないうちから支払をするような拙速な父に
呆れつつ、アンナはゴンザレスに会うため、父に無断でメキシコへと旅立つ。
 アンナはメキシコで、いったん手にしたデスマスクを奪われたのち、あるところか
ら偶然その仮面を買って安心するが、再び何者かに仮面を奪われてしまう。奪った相
手と思われる人物から仮面を取り戻そうとして、アンナはとても危険な目に遭う。そ
の後ようやく仮面を手に入れ、危険な状態も脱したアンナが取る行動は突飛だ。そん
なヒロインに共感できるのは、彼女が仮面をめぐる冒険ともいえる経験を通じて、一
度は失いかけた自尊心や他者を愛する心を取り戻すからだろう。
 この物語はプロローグの後、第1部から第3部まで細かく89章に分かれている。ア
ンナ、ダニエル、デスマスクを発掘したクリストファー、彼と夫婦になるチェロ、制
作年代が怪しいと指摘された仮面の仲介に関わったエミリオ、エミリオの甥でアンナ
とひかれあうサルヴァドール、デスマスクの盗難にからむ麻薬王レイエス、レイエス
に雇われるペドロとウーゴ、ウーゴの妻と愛人。主な登場人物である彼らの名前が各
章の題名になっていて、それぞれの行動や感情がきめ細かく描かれるため、長めの連
作短篇集のような趣がある。
 また、メキシコ国内でもとりわけ先住民族の比率が高く風光明媚なオアハカ、大都
会メキシコシティ市内でも特に治安が悪いとされるテピートといった主な舞台となる
場所の情景が鮮やかで、旅行をしているような気分になる。
 さらに、カトリック教会の行事である灰の水曜日に起こる殺人、民間信仰の対象で
ある死の聖母とマフィアの関わりなど、メキシコの宗教や歴史に触れている点も多い
ので、ミステリにあまりなじみのない読者も最後まで飽きずに読めるのではないか。
 本書には映画化の話があるとのこと。実現すれば華麗な映像が満載のサスペンス大
作になるだろう。それはそれで非常に楽しみである。だが、映画化されるか否かにか
かわらず、この小説そのものを日本語で深く味わいたい。古代アステカの神話が随所
で紹介され、アンナと亡き母ローズを結ぶ物語として、メキシコを代表する作家フア
ン・ルルフォの小説『ペドロ・パラモ』が取り上げられているところに、著者が読書
の楽しさを伝えたいと願っているように思えるからだ。ぜひ翻訳書を刊行してほしい。
                               (杉山まどか)
◇アマゾン・ジャパンへ
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0399175172/whodunithonny-22/ref=nos
◇著者のサイト
http://www.liliwright.com/
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"DODGERS" by Bill Beverly
 No Exit Press/2015/ISBN: 9781842437801

《ハチャメチャな行動の先にたどり着く結末は?》

 イーストは15歳の黒人の少年で、おじのフィンが支配するロサンゼルスの麻薬密売
組織で見張り番のリーダーをしていた。イーストは父を知らず、幼かったころには、
父の兄弟であるフィンが母とイーストと弟の生活を助けてくれていた。そして、10歳
になったころから、イーストはフィンの組織で働くようになった。それはイーストが
望むと望まずに関わらず与えられた仕事だった。イーストは無口で、記憶力が良く、
手下たちからは気難しくておもしろみがないと思われていたが、若いにもかかわらず
子どもっぽさがないため一目置かれていた。
 ある日、イーストたちが見張りをしていた麻薬密売用の家に警察の手入れが入り、
イーストは見張りをする家を失ってしまう。その後、イーストはフィンに呼び出され、
車でウィスコンシン州に行き、以前に手下の裁判で証言をした判事を殺害してほしい
と頼まれる。イーストと一緒に行くのは、初めて顔を見るウォルターとマイケル、そ
して、イーストの弟のタイだ。4人は何かあった際に身元が割れないようにと自分の
携帯電話や銃や運転免許証を持っていくことを禁じられ、偽の運転免許証と現金を渡
された。そして、途中で指示されたところに電話をかけて殺害に使用する銃を受け取
るようにと命じられて出発する。だが、リーダーに指名された最年長のマイケルは20
歳で、最年少のタイにいたっては13歳という若さだった。途中、人の記憶に残らない
ようにするために余計な場所には寄るなと言われていたにもかかわらず、誘惑に負け
てラスベガスでカジノに寄って問題を起こし、果てはマイケルが女性を車に同乗させ
たことからけんかになり、3人はマイケルを車から降ろしてしまう。そのため、銃を
受け取る場所では訪ねていった人数が前もって聞かされていた人数より足りないと言
われて銃を受け取ることができなくなる。
 マイケルを車から追い出してしまった3人には、その後もさまざまな困難が立ちは
だかる。そのうえ、イーストにとって何を考えているかわからないタイは道中ずっと
後部座席にすわって携帯のゲームをしているありさまだ。なんともハチャメチャな彼
らの行動に加えてそんな状態で、果たして使命を果たせるのか? だが、使命を果た
したとして、すでに問題を起こしてしまった彼らのこの先はどんなふうになっていく
のだろう? そう思いながら読み進めていくと、あるときから状況が変わっていき、
物語は緊張感を漂わせながら別の展開を見せていくようになる。そして迎えるラスト
は予想もしなかったものとも思えるが、読み終えて振り返ってみると、物語の最初か
らそういう結末にたどり着く流れが底辺を漂っていたようにも思える、そんな物語で
ある。
                                (石田浩子)
◇アマゾン・ジャパンへ
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 ■ 邦訳新刊レビュー
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『お嬢さま学校にはふさわしくない死体』 "MURDER MOST UNLADYLIKE"
 ロビン・スティーヴンス/吉野山早苗訳
 コージーブックス/2017.04.20発行 900円(税別)
 ISBN: 9784562060658

《東洋と西洋のお嬢さまコンビが寄宿学校で謎を解く。大人気シリーズの第1作!》

 1930年代。英国のディープディーン女子寄宿学校は6年制で、淑女になるための教
育を良家の子女に施している。このお嬢さま学校の3年生ヘイゼル・ウォンは、同級
生のデイジー・ウェルズが会長を務める〈ウェルズ&ウォン探偵倶楽部〉の秘書だ。
倶楽部といっても、会員は名探偵ホームズよろしく振る舞うデイジーと、彼女からワ
トソンと呼ばれるヘイゼルだけ。2人は同級生の秘密の日記を読むなど、スリリング
な任務を行っていたが、ある日ヘイゼルが室内運動場で、女性教師の死体を見つけて
しまう。驚いたヘイゼルは、デイジーと監督生のヴァージニアを連れて室内運動場に
戻るものの、そこにあったはずの死体は消えていた。一体どういうわけなのか?
 死んでいたはずの教師は、いなくなったという扱いになる。生徒たちに不安が広が
るなか、殺人事件だと判断したヘイゼルとデイジーは、こっそりと調査を開始する。
ところが、真犯人だろうと推測していた教師も命を落とす。いよいよ警察が介入する
事態となるが、2人は無事に真犯人を探し出せるのか?
 香港の銀行家の令嬢で、憧れの英国にやって来たヘイゼルと、英国の貴族の令嬢で、
生徒たちから慕われているデイジー。世間から見れば、何不自由なく育っている少女
探偵たちだが、香港出身というだけで偏見にさらされがちなヘイゼルも、頭が切れる
ことを隠しているほうが得策と思っているらしいデイジーも、周囲に配慮しつつ、自
分らしさを失わないように努めている。礼節も勇気も知性もある2人が、事件を解明
しようとしながら友情を深めていくさまに胸が熱くなる。
 英国では6作目が刊行されているシリーズの第1作である本書は、1934年の設定だ。
1934年といえばドイツでヒトラーが最高指導者となった年。その5年前には世界恐慌
が、5年後には第2次世界大戦が起こった。世界が徐々に閉塞していく時代に、2人
はどうなるのだろうか……と年表式に時代背景を思い浮かべながら読み始めたところ、
物語の序盤で、デイジーのお気に入りの推理小説として、1920年代から30年代に刊行
された4作品の題名が挙がっていた。いずれも、当時活躍していた英国の女流推理作
家4人の傑作で、今も輝きを失わない古典であり、作者からミステリ史年表を贈られ
たように感じた。誰が書いたどの物語なのか、ぜひ、本書で確かめていただきたい。
 読んでいるうちに、暑い香港でヘイゼルの好物の月餅を食べたい、寒い英国でデイ
ジーの好物の牛タンを食べたいと思うのも、本書の魅力のひとつである。2作目以降、
シリーズ全作の翻訳を待ち望む。
                               (杉山まどか)
◇アマゾン・ジャパンへ
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4562060654/whodunithonny-22/ref=nosim
◇著者のサイト
https://robin-stevens.co.uk/
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『完璧な家』 "BEHIND CLOSED DOORS"
 B・A・パリス/富永和子訳
 ハーパーBOOKS/2017.03.25発行 889円(税別)
  ISBN: 9784596550521

《完璧な家に住む完璧な夫婦は、ほんとうに完璧なのか?》

 グレース・エンジェルは、著名な弁護士である完璧な夫と完璧な家に住み、完璧な
人生を手に入れている。そのグレースもやはり、料理上手の完璧な妻。周囲からはそ
う思われている。じっさいグレース自身も、ジャックとの結婚を承知したとき、これ
で自分の人生は完璧になったと思っていた。
 ふたりの出会いは1年半ほど前、グレースが歳の離れた妹のミリーと公園の野外ス
テージでバンドの演奏を見ていたときだった。ミリーは覚えたばかりのワルツのステ
ップを試してみたくなったのか、ステージまで進み出ると、音楽に合わせて踊りはじ
めた。そんな彼女に眉をひそめる人々もいるなか、とつぜんジャックが現れ、ミリー
をエスコートしていっしょに踊ってみせたのだ。ハンサムなジャックの登場でその場
はおおいになごみ、グレースは彼に恋をした。
 その後は3人でお茶のテーブルを囲み、グレースは彼に身の上を語る。ミリーはダ
ウン症で、いまは寄宿学校にいるが間もなく卒業する予定だということ。卒業後はグ
レースが妹を引き取り、いっしょに住むつもりだということ。両親はニュージーラン
ドに引っ越す予定だということ。それからすぐ、ぜひにとせがまれたグレースはジャ
ックを両親に紹介した。すると彼はグレースの家族のことを「完璧だ」と言い、学校
を卒業したらミリーもいっしょに住もうと提案した上で、グレースにプロポーズをす
る。彼女はよろこんでそのプロポーズを受け入れた。これから過酷な運命が待ち受け
ているとも知らずに。
 じつはジャックは「完璧」な夫でないことは、冒頭ですぐにわかる。ところがそれ
はネタばらしなどではなく、その先には、ページをめくる手を止めさせない怒涛の展
開が待っている。彼が何をもってグレースの家族のことを「完璧」だと言ったのか、
どうしてグレースは彼から逃れられないのか。徐々に明らかになる真実には、心底、
ぞっとさせられる。とはいえ伏線の張り方が見事で、それがきれいに回収されていく
ようすは、読んでいてすがすがしい。
 著者のB・A・パリスは本書がデビュー作。この物語ができたのは、ある友人の結
婚生活に関して想像力をたくましくした結果だと語っている。
                               (吉野山早苗)
◇アマゾン・ジャパンへ
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4596550522/whodunithonny-22/ref=nosim 
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『地下道の鳩 ジョン・ル・カレ回想録』 "THE PIGEON TUNNEL: STORIES FROM MY 
LIFE"
 ジョン・ル・カレ/加賀山卓朗訳
 早川書房/2017.03.15発行 2500円(税別)
 ISBN: 9784152096746

《80代半ばにして意気軒高な稀代のストーリーテラーが語る自作と人生をめぐる物語》

 芸術家の自伝や回想録を読むのが好きだ。芸術家はその作品や活動がすべてだとは
思うものの、具体的な作品が生まれる背景にはどのような「こぼれ話」があるのか知
りたいとも思うからだ。
 今年に入ってから、米国の作家ポール・オースターの自伝『冬の日誌』と『内面か
らの報告書』が刊行された。オースターは、かつて米国で自伝や回顧録がもてはやさ
れた時期、そうした書籍は事実の回想といいながら、自分に都合よくかなり脚色して
いるところもあるのではないかと感じていたという。そんな「胡散臭さ」を極力排し
て、客観的な事実にできるだけ即して書いたと伝えられる2冊は、ここまで赤裸々に
書くのかと感じる点もあるものの、その分だけ読み応えのある回想録になっている。
 そして、オースターの自伝とほぼ同じ時期に、ジョン・ル・カレの回想録『地下道
の鳩』が刊行された。翻訳された小説は20作を超え、その半数は映画やテレビドラマ
の原作になっている、スパイ小説の巨匠、ジョン・ル・カレ。1960年代はじめに専業
の作家になる前は英国の秘密情報部に所属し、半世紀以上にわたって創作活動を続け
てきたル・カレには、興味深い「こぼれ話」が山ほどあるに違いないと想像していた
が、本書は想像以上に面白い。
 ル・カレは小説を執筆する際、世界各地で関係者に取材を行うという。本書には多
くの取材を通じて出会った人々との交流も書かれている。そうした箇所では、政治的、
人道的な配慮から、書けなかった、あるいは書かなかった事実もあるようだ。また、
かつての諜報活動で知り合った人物に関する記述では、その人物の名前など一切の個
人情報を秘しているところもある。その意味では、オースター流の「赤裸々な事実」
とは異なるかもしれないが、自分に都合よく脚色した「胡散臭さ」は感じられない。
 ル・カレと同様に秘密情報部出身の作家であるサマセット・モーム、コンプトン・
マッケンジー、グレアム・グリーンに言及する第1章「秘密情報部を厭うなかれ」か
ら、秘密情報部の本部の移転に伴うエピソードをつづる最終章(第38章)「最後の公
務上の機密」まで、語られている時代や場所、登場する人々の状況は異なるものの、
ひょうひょうとしたユーモアも交えながら、悲しい話も心温まる話も非常に乾いた筆
致で書かれており、最後まで一気に読ませる。
 本書を読むと、ル・カレのファンである読者は小説を読み返したくなるだろう。ま
た、本書で初めてル・カレの文章に触れる読者は書名が挙がっている小説から読み始
めたくなるのではないだろうか。
 ル・カレの初めての回想録だが、満85歳という年齢からすると、これが著者からの
最後の贈り物になってしまったら……とつらつらと考えていたら、なんと来る9月7
日には新刊の刊行と、ロンドンでのイベントが予定されているという。
 著者の健康を祈り、本書やこれまでの小説を読みながら、次作とその翻訳書の刊行
を楽しみに待ちたい。
                               (杉山まどか)
◇アマゾン・ジャパンへ
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4152096748/whodunithonny-22/ref=nosim
◇著者のサイト
https://www.johnlecarre.com/

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            ☆★「月刊児童文学翻訳」☆★
 インタビュー、最新情報、レビューなど、児童文学翻訳に関する記事が満載の情報
誌。詳細&購読申し込みはこちらから(↓)。
                  http://www.yamaneko.org/mgzn/index.htm
毎月15日配信(1月と8月は休刊)。申し込み手続きは前日までにおすませください。
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=- PR -=
=- PR -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
      ◇◆翻訳ミステリー大賞シンジケート後援の読書会◆◇
 翻訳ミステリー大賞シンジケート後援による翻訳ミステリーの読書会が、日本各地
で行われております。
 開催地、開催日等は下記(↓)でお確かめ下さい。
 http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/archive?word=%2A%5B%A1%DA%BF%EF%BB%FE%B9%B9%BF%B7%A1%DB%C6%C9%BD%F1%B2%F1%A5%CB%A5%E5%A1%BC%A5%B9%5D
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=- PR -=

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■編集後記■
 最近、ご飯を白米から玄米に変えました。               (清) 
****************************************************************************
 海外ミステリ通信 第122号 2017年5月号
 発 行:フーダニット翻訳倶楽部
 発行人:うさぎ堂(フーダニット翻訳倶楽部 会長)
 編集人:清野 泉
 企 画:石田浩子、板村英樹、かげやまみほ、佐藤枝美子、杉山まどか、中島由美、
     矢野真弓、山田亜樹子、吉野山早苗
 協 力:出版翻訳ネットワーク 小野仙内
     西洋冒険譚翻訳倶楽部
 本メルマガへのご意見・ご感想、及びフーダニット翻訳倶楽部の連絡先
  e-mail:trans_mys@yahoo.co.jp
 配信申し込み・解除/バックナンバー:
   http://honyakuwhod.blog.shinobi.jp/

 ■無断複製・転載を固く禁じます。(C) 2017 Whodunit Honyaku Club
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仏教メルマガ読者数日本一。今この瞬間に幸せを感じ、後悔のない人生にする方法とは?なぜどんなにお金があっても幸せになれないのか。むなしい人生になってしまう原因とは?あなたの人生を背後で支配する運命の法則と99%の人が自覚なく不幸を引き寄せている6つの行いとは…?仏教史上初のウェブ通信講座を開設、仏教の歴史を変え続ける中村僚が、葬式法事仏教となった現代日本の仏教界では失われた本当の仏教の秘密を公開。発行者サイトでも隠された仏教の秘密を無料プレゼント中。
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