歌舞伎素人講釈

メルマガ「歌舞伎素人講釈」第461号


カテゴリー: 2017年11月05日
*******************平成29年11月5日発行****
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    メルマガ「歌舞伎素人講釈」  第461号
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こんにちは、吉之助です。

東京は長雨が続いていましたが、ここ数日のところは穏やかですね。

さて、本号でお届けするのは、先月(10月)歌舞伎座での、玉三郎初役
の淀君による「沓手鳥孤城落月」の観劇随想です。



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○玉三郎初役の淀君

平成29年10月歌舞伎座:「沓手鳥孤城落月」

坂東玉三郎(淀の方)、中村七之助(豊臣秀頼)他

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○平成29年10月歌舞伎座:「沓手鳥孤城落月」・その1

坪内逍遥の「沓手鳥孤城落月」が雑誌「新小説」に発表されたのは明治30年
(1897)9月のことですが、初演されたのはもう少し遅くて、明治38年
(1905)5月大阪角座のことでした。この時は淀君と片桐勝元の二役を
十一代目仁左衛門が演じてかなりの好評を得たようですが、糧庫の場で竹本を
使うなどの改変があったそうです。作者の意図に近い上演は、その翌年の明治
39年3月東京座での上演で、この時の配役は五代目歌右衛門の淀君、勝元の
十一代目仁左衛門で、以降、五代目歌右衛門は淀君を最高の当たり役としたこ
とは周知のとおりです。ちなみに明治37年~39年というのは歌舞伎史的に
重要な時期で、同じく逍遥の「桐一葉」初演が明治37年3月東京座、「牧の
方」初演が明治38年5月東京座です。つまり新歌舞伎という新しいジャンル
の誕生を告げるものでした。

「桐一葉」が初演された(執筆はそのずっと前で明治27年)のが、これが歌
舞伎が座付き狂言作者ではない外部作家の作品を上演した最初のことでした。
顔合わせの時に役者たちは「どこの誰だか知らぬ外部の作家に歌舞伎が分かる
のか」という雰囲気であったそうです。ところが並み居る役者たちが逍遥の本
読みを聞いて吃驚してしまったのです。なにしろ逍遥は九代目団十郎の大ファ
ンで、団十郎に片桐勝元を演じてもらいたくて、この芝居を書いたのです。し
かし、団十郎は明治36年に亡くなりましたから、その夢は叶いませんでした
が、逍遥は団十郎の息で本読みをしたからです。役者たちは「芝居をよく知っ
ている偉い先生だなあ」と感心して、神妙に役を勤める気になったそうです。
もし逍遥の本読みが下手だったならば、その後の新歌舞伎の道程は10年かそ
こら遅れたかも知れません。

逍遥の本読みの録音は、結構残っています。早稲田の演劇博物館に行けば「沓
手鳥孤城落月」の音源(昭和6年10月ポリドール録音)など聴くことができ
ます。間合いを取らずにサッサと読んでいるので芝居っ気というものをあまり
感じませんが、勘所でのリズムの力強さ・抑揚の巧さは、逍遥の本読みの確か
さを示すものです。一方、五代目歌右衛門(淀君)・十五代目羽左衛門(秀頼)
・七代目中車(氏家内膳)の豪華顔合わせの「沓手鳥孤城落月」の音源(昭和
6年ポリドール録音)も残っています。しかし、これを聴くと歌右衛門の台詞
はさすがに当たり役だけになかなかのものですが、羽左衛門も中車も様式を理
解せず自分勝手にしゃべっていてひどい出来です。特に中車はこれでいいのか
と思うような、旧態依然のだるい七五の台詞回しなのでがっかりします。この
録音については逍遥が日記(昭和6年6月21日の項)に「試聴してその拙き
とイキの合わぬに呆れる」と書いているので、笑えます。

逍遥は新しい史劇の確立を目指し、シェークスピアの作劇術と歌舞伎の演出技
法を合体させたような感じでこれらの作品を書いたのですが、その逍遥が「九
代目団十郎の息で本読みをした」ことは、とても大事なことです。肚芸と得意
とした団十郎は「余韻を重んじ・言葉が少ない」のを良しとしました。逍遥
は明治45年(1912)に次のように書いています。

『初期の明治は、截然(せつぜん)たる移り変り時であって、すべて物事が判
然している。勝つも敗るるも、空竹を割ったように始末がついていた。このき
びきびした時代精神を表すには、団十郎の芸風が最もふさわしいものであった。
しかし今はもうそういう時勢ではない。移り変り時代たるの機運はなお続いて
いるが、いかにも曖昧で、無解決で、あやふやで、成敗去就ともにほとんど誰
にも解りかねて、昨日の楽観者が悲観者になるまいものとも知れず、大抵の人
の心が、ともすれば不安の状態にある。ひと言を以って言えば、無解決の時代、
不安の時代、煩悶の時代、神気疲労の時代である。それゆえ同じく煩悶を表す
にしても、今日の人物を表そうとするには団十郎のそれとは全く様式を別にし
なければならぬ。深刻な、もっと細緻な、もっと痛切な、一家、一城、一国限
りの浮沈栄衰に関するにとどまらぬーひとりの上にして、その実は人間全体、
世界全部の上に関係するのであるというようなー苦痛や憂愁が具体的にされね
ば慊(あきた)らぬという注文が、作者にもあれば見物人の心にもある。時代
精神が変わったと共に、作意も作風も変わりまた変わりしつつあるのである。
したがって芸風も根底から一新されねばならぬのである。』(坪内逍遥:
「九世団十郎」・明治45年9月)

『ひとりの上にして、その実は人間全体、世界全部の上に関係するのであると
いうような』という逍遥の文章に、滅びゆく豊臣家の運命に翻弄される淀君と
いう一個人を重ねて読んで良いと考えますが、このことは後で述べることにし
ます。逍遥が「余韻を重んじ・言葉が少ない」を良しとした団十郎の簡潔で力
強い芸風を理想としつつ、これを新たな二十世紀、無解決の時代、不安の時代、
煩悶の時代、神気疲労の時代にどのような形で変えて行こうとしたか、ここが
大事だと思うのです。結論を先に言えば、逍遥はこのようなアジタートな(気
ぜわしい・急きたてられた)気分を、タンタンタン・・・・という速い畳み掛
ける基本リズムに託したのです。これが逍遥のシェークスピア研究の成果でも
あったことは、別稿「アジタートなリズム・新歌舞伎のリズム」のなかで触れ
ました。



○平成29年10月歌舞伎座:「沓手鳥孤城落月」・その2

玉三郎の淀君は初役ですが、本人に拠れば「以前から手掛けてみたいと思って
いた役」であったそうです。淀君は五代目・六代目歌右衛門という歴代俳優協
会会長の当たり役で、何となく功成り名遂げた立女形の行き着くところという
感じです。芸の格ということだけでなく、いわゆる世俗的な権威の重さにおい
てもです。そのせいか吉之助は根拠もなく玉三郎は淀君に興味ないのだろうと
思っていたので、玉三郎が淀君を演じると聞いてちょっと驚いたのですが、や
っぱり淀君という役が背負う大きさ・重さと云うものは、それだけで役者の意
欲を掻き立てるものなのでしょうねえ。しかし、玉三郎の透明な芸風は、吉之
助の記憶のなかに今も強烈に残る六代目歌右衛門の濃厚な芸風とはまた異なる
ものであるので、ちょっと淡い淀君になるかなという気もしました。

今回(平成29年10月歌舞伎座)の玉三郎の淀君を見て、実は吉之助は玉三
郎がその昔に演じたマクベス夫人を思い出したのです。それは今から約40年
前の、昭和51年(1976)2月、日生劇場での「マクベス」でのマクベス
夫人(共演のマクベスは平幹二朗)のことです。吉之助の「女形の美学」にも
書いたことですが、これは吉之助にとって玉三郎発見の舞台であり、それ以後
の吉之助が歌舞伎にのめり込むきっかけにもなったものでした。吉之助を魅了
したものは、玉三郎のマクベス夫人の「軽やかさ」でした。様式的なものは確
かにしっかりあるのだけれど、アクの強さ・重ったるさ、伝統的な女形芸につ
きまとうエグい要素から解放された軽やかさなのです。吉之助のなかで、40
年前のマクベス夫人の記憶と平成の現在の淀君に繋がるものを見出して、「な
るほどこれなら確かに玉三郎の淀君だなあ」と思いました。

「沓手鳥」執筆に当たり逍遥が淀君にマクベス夫人をイメージして書いたとい
うのはあり得る話ですし、多分、そうで す。ここで前章で引用した逍遥の『ひ
とりの上にして、その実は人間全体、世界全部の上に関係するのであるという
ような ・・』という文章に注目してもらいたいのです。淀君は稀代の悪女みた
いな言われ方がよくされます。しかし、逍遥が描きたかったのはそのような淀
君ではなく、淀君もひとりのか弱い女性・か弱い母親でしかないということな
のです。権謀術数の駆け引きに疎い女が、政治の表舞台に否応なく引きずり出
されて、ただ豊臣家大事・秀頼可愛いやで取り乱しているだけのことです。そ
ういう女の愚かしい振る舞いが豊臣家を滅亡に導いていくことになる。それは
ひとつの輝かしい時代の終わりを告げるものですが、淀君の悩乱のなかに滅び
ゆく時代の嘆きの声が重なって聞こえて来るような気がします。ですから実は
これは逍遥なりの「神々の黄昏」(ワーグナーの楽劇のこと)であって、この
戯曲が書かれた明治30年(1897)という世紀末の雰囲気を濃厚に引きず
るものです。上掲の逍遥の文章をそのように読むべきなのです。

多分、歌舞伎の淀君は、「ヤイこの日本四百余州は、みづからが化粧箱も同然
じゃぞ」というような台詞を重く読み過ぎているのです。江戸時代には淀君は
豊臣家を滅ぼした悪女とされていたわけで、まあこうなるのも歌舞伎の自然の
流れではあります。これは歌舞伎での平清盛の描かれ方を見ても分かります。
淀君を当たり役にした五代目歌右衛門が、「日招きの清盛」も得意の演し物に
したことは、とても興味深い符号です。しかし、逍遥は新しい時代の歌舞伎、
新しい史劇を書くことを意図したはずです。逍遥が意図したことは、生身の一
個人としての淀君の心情を描き出し、淀君の悩乱が人間全体、世界全体の様相
と象徴的に重なって来るように仕掛けることでした。

だとすれば「ヤイこの日本四百余州は、みづからが化粧箱も同然じゃぞ」とい
う台詞も、豊臣家を滅亡に導いた大悪女の傲慢極まりない台詞として重く読む
のではなく、ひとりの女の取り乱した哀れな有り様として軽く虚ろに、或る意
味で滑稽に読むこともできるはずです。このことは逍遥が影響を受けた19世
紀末の世界的な芸術思潮から来ます。玉三郎の淀君の軽やかな台詞廻しは、吉
之助にそのようなことを考えさせるものです。



○平成29年10月歌舞伎座:「沓手鳥孤城落月」・その3

逍遥は、19世紀末と云う時代の、無解決で、不安な、煩悶の、神気疲労の気
分をアジタートな(気ぜわしい・急きたてられた)タンタンタン・・・・とい
う畳み掛ける基本リズムに託しました。心持ち早めの二拍子が、逍遥の戯曲の
リズムです。玉三郎の淀君の台詞は軽やかですが、早めの二拍子を押さえた台
詞廻しで、確かにそこに様式感覚が感じられます。リズムの刻みをあまり前面
に出さず、前に押す感覚が少ないので、もしかしたら様式的なものを感じ取り
にくくて、玉三郎が淡々としゃべっているように思う方がいるかも知れません。
これは淀君が女形の役であり、虚ろな気分の役であるからそうなるのです。
(一方、立役の場合は、リズムの刻みを前面に出して、押す感じに台詞をしゃ
べらないと逍遥の様式になりません。)

例えば序幕・大阪城内奥殿での常盤木に対する淀君の台詞、「・・あはよくば
永利を図る下心の、こちゃとうに見抜いてある、アア読めた、その手筈が狂う
たゆえ、わざと油断し隙を見せ・・・」、或は饗庭局に対する台詞、「黙れ、
大それら不埒浮かくを、まず詫びようとも致さいで・・・仔細らしい諫言ごか
し・・・ああ聞こえた、こりゃ何じゃな、そちゃ子車と同腹じゃな・・」での、
「アア読めた」、「ああ聞こえた」という箇所で、淀君の考えがコロッと変化
します。普通に「歌舞伎らしく」台詞をしゃべるならば、フッと新たな考えが
湧く間を取る感じで一呼吸置いて「アア読めた」と云う、さらに「歌舞伎らし
く」するならば、ちょっと声のトーンを低くテンポを落として「アア読めた」
と云うやり方も考えられます。こうすることで淀君の考えが変化する局面、前
と後ろの差が印象付けられます。これで「歌舞伎らしい」台詞廻しになるでし
ょう。

しかし、玉三郎はそういうことをしないのですねえ。早めの二拍子を守ったま
ま、サラサラと台詞を続けます。そうなると、淀君の考えが変化する前と後の
違いが際立ちません。つまり、淀君の考えが ここでコロッと変化したようだ
けれども、実はそのようなきっかけは大したことではない、淀君の云うことは
虚ろであり重みがない、何にも意味がないということを、玉三郎は台詞のテン
ポを変えないことで表現して見せるのです。この台詞廻しが、吉之助の記憶の
なかに残っている、40年ほど前の玉三郎の狂乱の場でのマクベス夫人の台詞
廻しとまったく同じ軽やかさなのです。

ここで表現されるものは、言葉のどうしようもないほどの軽さ、想念のどうし
ようもないほどの軽さです。淀君が泣こうが喚こうが、彼女を取り囲む状況は、
彼女と敵対したまま、頑として変わることがなく、ただ冷淡に彼女を見詰め返
すだけです。本来ならば、想念が変われば台詞の色が変わりテンポが変化する
のが、自然でしょう。そうならないのは(淀君がそうできないのは)、淀君を
取り巻く状況がそれほどまでに強固で動かし難いということです。淀君の台詞
が変化しないのは、状況に対して彼女の言葉がまったく無力だということを示
しています。逍遥が『ひとりの上にして、その実は人間全体、世界全部の上に
関係するのであるというような ・・』と云うのが、それです。淀君を取り巻く
状況が、そのまま豊臣家の運命、滅びゆく偉大なる時代に重なっていきます。



○平成29年10月歌舞伎座:「沓手鳥孤城落月」・その4

ところで糒蔵での淀君が狂乱状態であることは明らかですが、前場である大阪
城内奥殿での淀君は正気でしょうか、それとも狂気でしょうか。この場の淀君
は猜疑心に苛まれ、周囲の誰も信じることが出来ません。だから奥殿での淀君
は半ば狂気だとして良いと吉之助は思います。玉三郎の淀君を見ていると、
奥殿と糒蔵の二場での淀君に連続したものが感じられます。糒蔵での淀君の方
が、狂気の色合いがもっと濃いという 程度の違いです。

狂気とは何でしょうか。正気と狂気との間に境目などあるのでしょうか。淀君
の立場からだと「この世の中みんな狂っている」と思えてくるわけで、まして
や大坂夏の陣のような状況ならば事実みんな狂っているのです。こういう状況
下で人が正気を保つことは難しいものです。淀君を取り巻く世界が狂っている
から、その状態が淀君のなかに反射していると考えた方が良いのです。周囲の
者が淀君の態を見て「淀君が狂ってしまった」と判断してそのことを嘆くので
はなく、淀君を見て自らも同じ心理状態に陥ってしまいそうな予感に震え慄て
しまうという方がふさわしいと思います。淀君の態を見て泣く秀頼の台詞を見
てみます。

『ヤイ内膳、ゆるしてくれよ。女々しと思へどとどまらぬ、涙は同じ涙なれど、
最前落せし熱湯は、父太閤の偉業をば、此身ゆえに滅ぼすかと、不肖を悔む慚
愧の涙。今ふりしぼる此涙は、恥も憤怒も悔恨も、人の心にありとある、百八
煩悩一つとなって、五臓六腑を骨もろともにしめぎにかけ、しぼりいだす血の
涙ぢや。ゆるせ、泣かずにはをられぬわい。』

この秀頼の台詞は、何だか歌舞伎役者は七五に割って朗々と歌いたくなるみた
いですねえ。普段は「台詞は余韻を重んじ、言葉少ないのが良い」と言いなが
ら、こんなところに逍遥の芝居好きが出ちゃっている気がします。しかし、こ
の台詞を七五で歌っては駄目なのです。この秀頼の台詞は、母親の狂乱の態を
見た息子が自らの感情に浸って七五で朗々と歌う台詞でしょうか。秀頼は自ら
に迫った滅びの時を覚悟したに違いありません。この状況に耐えられないから、
秀頼は泣くのです。こういう台詞は、畳み掛ける二拍子を基本リズムにするの
が、逍遥劇の様式です。

百八煩悩一つとなって、五臓六腑を骨もろともにしめぎにかけ、しぼりいだす
血の涙ぢや。ゆるせ、泣かずにはをられぬわい。

ヒャク/ハチ/ボン/ノウ/ヒト/ツト/ナッ/テ●/ゴゾウ/ロップヲ/ホネ/モロ/
トモニ/シメギニ/カケ/シボリ/イダス/チノ/ナミダ/ジャ●/ユルセ/ナカズ/
ニハ/オラ/レヌ/ワイ

これまで「沓手鳥」の舞台では、個々の役者が台詞を好き勝手なリズムでしゃ
べって、様式感覚が取れていないことが多かったと思います。しかし、今回
(平成29年10月歌舞伎座)の舞台を見ると、大方の役者が台詞のリズムを
玉三郎のリズムに合せているようです。これは恐らく玉三郎の指導が入ったの
だと思います。お陰で全体的にはだいぶ舞台が引き締まった感がします。(た
だしところどころでリズムを厳格に守り過ぎて、舞台の緊張が削がれている場
面がありますが、そういう時はリズムを破綻させることを恐れては駄目です。)
 ところが、そのなかでどういうわけだか七之助の秀頼だけ台詞を七五で割っ
 てしゃべって、一人浮いた感じに見えます。秀頼は傍観者ではありません。
 この後、秀頼は母親と一緒に死なねばならぬ運命なのですから、その台詞は
 淀君のリズムと同期 (シンクロ)せねばなりません。また秀頼は立役ですか
 ら、ここはもっと二拍子の刻みを強く出して前に押すべきです。ところがそ
 の秀頼を見て淀君が笑います。

『ハハ・・・。お泣きゃる、お泣きゃる。男じゃに、此の人たちは。・・・
オオおかし。・・・オオおかし。ハハ・・・。』

淀君・秀頼親子の悲劇的状況はここに極まれるということになるのです。逍遥
は見事な史劇を書いたと思いますね。ですから逍遥が『ひとりの上にして、そ
の実は人間全体、世界全部の上に関係するのであるというような・・』と書い
たことはとても大事なことであって、恐らく逍遥は、淀君・秀頼親子の悲劇に
対して傍観者たることを、観客にも許していないのだろうと云う気がします。
 

本号に関連するサイトの記事
アジタートなリズム~歌舞伎の台詞のリズムを考える
http://www5b.biglobe.ne.jp/~kabusk/dentoh60.htm


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