ビジネス知識源:経営の成功原理と実践原則

ビジネス知識源:改行版:トランプ政権の政策とその展開


カテゴリー: 2017年02月10日
友人、知人、同僚、部下、上司、取引先への転送は自由です。
 <あなたとチームの、ビジネス知識と仕事の技法の向上>
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【良質な経営・ビジネス・IT・経済・金融・知識の提供を目標に】
              2017年2月10日:  Vol.368

  <Vol.368:トランプ政権の政策とその展開>

テーマ:90年代から潮流だった自由貿易の否定が何をもたらすか
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
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          Systems Research Ltd. 吉田繁治 41624部
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おはようございます。連日メディアを賑わすのがトランプ氏の「大
統領令」です。閣僚が半分も決まっていないのに、20個以上。

中東の特定国への入国禁止令に対し、ワシントン州の地裁判事が違
憲とし、高裁も控訴審で地裁を支持し(2月9日)、争いは最高裁に
もちこまれました。

大統領令で大きなものは、
(1)環太平洋の自由貿易を目指していたTPPからの完全離脱、
(2)カナダとメキシコの間の自由貿易協定だったNAFTAの再検討
(一説では20%課税)、
(3)そして、入国禁止令です。

中国、日本、EUに対しては「政府の為替操作」の非難をしています。
日本政府は慌てて、異次元緩和は2%のインフレ目標のためであり、
円安は目的ではないと言い訳をしています。日銀が、通貨を増発す
れば、GDPとの関係で相対的な通貨価値は下がり、円安と日経平均
高に向かいやすくなります。

【次に大きな大統領令は、「劇的な減税」】
内政面では、数週後に、「驚くべき減税策」を出すという(トラン
プ氏本人)。

選挙中、35%の所得税を15%に下げて、10年間で$5兆(560兆円)
の減税をすると言っていたので、これでしょう。(注)方針を示す
ツィートをうけ、日米の株価が上昇しています。日経平均は前日比
471円高(+2.5%)の1万9378円(2月10日:後場)です。1日で2.
5%の上昇は大きい。

大統領令は、議会の議決のいらない政府の命令です。議会が作る法
と同じ効力をもちます。根拠は、大統領は、主権をもつ国民が選挙
で選び、その主権を委任していることです。国会の法に対する拒否
権もあり、これが、大統領権限の強さの理由になっています。

(注)主権(sovereignty)は、他の意思によって支配されない権力。
権力は強制力です。民主制では、国民が主権をもちます。中国では
国家主席の意思が、封建領主の王のように主権をもっています。

わが国では内閣の政令があります。しかし議院内閣制(議会が首相
を選ぶ間接民主制)なので、首相が政令を多く出すことはない。議
会の意思に反する政令が多いと、首相の不信任を可決できるからで
す。首相と内閣は、議会に従属しています。

大統領令は、裁判所が「違憲」の判決をしたとき(三審制)、議会
が大統領令に反する法を制定した場合、無効になります。

選挙中から言っていたトランプ政策のコアは7つです。

(1)特定国への入国禁止。
(2)自由貿易を否定し、特定国に15%から20%関税を課す。
(3)大幅な減税(5年で$5兆:560兆円)
(4)政府のインフラ投資(5年で$1兆:112兆円)
(5)リーマン危機以降の、金融規制のドッド・フランク法の廃止
(6)国民皆保険を目指していたオバマケアを停止する。
(7)GDPの実質成長率1.8%を4%に上げる。物価上昇率(2016年は
1.2%)を含む成長率では5%以上という高いものになります。

本稿では、中国、ドイツ、わが国が強く関係し、経済的にはもっと
も大きな自由貿易の否定が、何をもたらすかを論じます。

トランプ氏の経済への認識が、1980年代で止まっていることが、根
底の原因です。間違った認識の上に、無謀な王が武器をもったよう
に、大統領を乱発しています。

6か月から1年後には、議会が、大統領令を無効にする法を作って、
修正されると見ています。上院での共和党は、2議席だけの多数派
です。共和党からの2人の反乱(反トランプを言う共和党院マケイ
ンなど)で逆転するからです。民主党はもちろん反トランプです。

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<Vol.368:トランプ政権の政策とその展開>
     2017年2月10日:無料版

【目次】
1.TPPの目的
2.EU(欧州連合:28か国)は、自由貿易圏
3.NAFTAの設立
4.自由貿易のもとになった、リカードの比較生産費
5.比較生産費説の効果
6.TPPからの脱退
7.NAFTAとTPPからの離脱と、懲罰的な関税はどんな結果をもたらす
か
【後記:新刊の案内】

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■1.TPPの目的

TPPは、日本経済の成長のための輸出入の促進策として、異次元緩
和と並ぶ、政府の最重要政策でした。米国が離脱したことで、意味
がなくなっています。(注)残されたのは二国間協定。

新大統領は、北米圏の自由貿易協定であるNAFTA(カナダ、メキシ
コ)の見直し(事実上の廃止)も言っています。「鎖国」ではあり
ませんが、海外からの輸入を減らすために、「20%の高い関税」を
課すという。

【関税の意味は、国家の存立に至る】
黒船(軍事力)で脅威を受けていた明治政府にとって、輸入に自国
の意思で関税を課す「関税自主権(1907年:明治40年~)」は、国
家の主権存立の基盤でした。

明治39年まで輸入税は5%でしたが、価格に関係がない従量税だっ
たため、太政官札(政府紙幣)の増刷のため高かったインフレの明
治初期には、関税は事実上、ゼロ%でした。

18世紀からの産業革命により、工業製品の価値(品質÷価格)で優
れていた米欧は、経済の面で、日本を植民地にしたのです。

海外の製品は無関税で輸入され、日本の金と美術品は、国際標準と
比べて安かったため、略奪的に米欧に流出しています。

【ソ連の崩壊で冷戦が終わった、90年代からの新自由主義】
1990年代からは、経済学的な「新自由主義」の思潮により、グロー
バリズム(国際主義)が推進されていた世界に、新大統領は米国優
先(=雇用の回復)の旗印のもとに、保護主義という「復古の棹
(さお)」をさします。

トランプの経済認識が1980年代までのものだからです。「トランプ
革命」という人もいますが、革命は主権を根底から覆すことですか
ら、それにはあたらない。しかし本人が意識する以上に、世界経済
への影響は大きい。

NFATAの廃止を言うトランプに対し、打撃を受けるメキシコは、
「同じ率の報復関税」を言っています。

2016年の対米貿易収支では、中国が$2507億(30兆円)、日本が約
6兆円の黒字です。

▼事実認識の誤りに基づく発言

トランプ発言は、70%が事実認識の誤りからの扇動であるという指
摘があります(反トランプのNYタイムズのファクト・チェック)。

【日米の関税は、アンフェアではない】
自動車は、日米貿易の不均衡の最大テーマです。日本からの輸出に
は、2.5%の関税が課されています。しかし日本の米国車の輸入に
対しては0%です。日米の関税では、米国のほうがアンフェアです。

【しかし日本車の米国内でのシェアは40%】
米国の、2016年の自動車販売台数(1755万台)では、(1)GM 18%、
(2)フォード15%、(3)トヨタ15%、(4)フィアット・クライ
スラー13%、(5)ホンダ9%、(6)日産9%、(7)現代4%です。

年間2800万台の中国についで、販売数で2位の米国で、日本車の合
計シェアは40%です。(注)日本国内では、中国の1/5.6の497万台
の販売(16年)です。

性能がよく故障が少ないため、中古車の価格が高い。これが2年で
車を変える米国での、人気の理由です。中古車が高いと、差額で新
車が安く買えるからです。日本車は新車が仮に100万円高くても、
トータル費用では安いからです。

【現地生産が多い】
日本メーカーの工場は、米国に13カ所です。現地生産は380万台。
欧州で170万台、アジアで950万台、世界では、米国の総自動車販売
に匹敵する1800万台が、日本メーカーの、2000年代で大きくなった
現地生産です。

日本からの対米輸出は、160万台(2016年)と少ない。
米国の雇用を使う現地生産が、380万台と2.4倍も多いのです。

貿易摩擦と、国内コストを上げた円高を主因に、2000年代には、生
産と輸出の構造が変わっています。(90年代から始まった、世界の
産業のグローバル化)

日本での米国車の販売シェアは0.4%でありほぼゼロです。トラン
プ氏は、関税でのアンフェアではなく、輸出入の「結果」を言って
います。

原因が何であれ、輸入車の米国販売は、米国の雇用を奪うから
「ノー」ということです。このため輸入に対しては、20%くらいの
懲罰的な関税を課すという。

【日本の製造業の変質】
平均的に言えば、東証一部に上場している大手製造業の売上の約
50%は、海外生産と輸出です。自動車や家電産業では、ほぼ70%で
す。

このため、円安・円高で、大きな影響を受け、「円安→日経平均
高」、「円高→日経平均安」というマネー構造が作られています。
円安になると、海外生産分の大手製造業の売上と利益が、円ベース
では増えて、円のコストは減るからです。円高では逆です。

日本にとって、20年の日米貿易摩擦を経た1990年代からのグローバ
ル化は、海外生産の増加でした。

【3度の貿易摩擦】
・1960年代は、日米繊維戦争と鉄鋼、
・1970年代は、家電と自動車産業、
・1980年代は、半導体での貿易摩擦でした。

日米の貿易摩擦が、1990年代の、内需振興策としての公共事業
(10年で400兆円)を生んだのです。米国が、日米構造協議で年40
兆円の公共事業を、日本政府に要求したからです。政府は、いつも
米国に従います。

この公共投資によって国債残が400兆円増えました。現在の「国債
危機と異次元緩和」の原因は、日米貿易摩擦にさかのぼれることが
わかります。

輸出を非難されたわが国の製造業は、海外に直接投資をし、金融業
は証券投資を海外に対して行い、生産も海外で行ってきたのです。

このため、1990年以降の26年間で、対外資産は948兆円(直接投資
151兆円、証券投資797兆円)と、GDPの1.8倍にもなっています。直
接投資と証券投資は、海外への円の流出でもあるので、日銀がマ
ネーを増発してもデフレになる構造ができあがったのです。

対外資産の増加は、海外(特に米国)の雇用増加でもあるのですが、
トランプ氏はこの事実も無視しています。米国の貿易赤字が一方的
に、米国の雇用を奪うと考えているからです。これは、1990年代か
らの、世界のグローバル経済化の進行を無視した考えです。

【経常収支が黒字続きだと、対外債権が増える】
米国のような経常収支の赤字国に対しては、資本の輸出(円売り/
ドル買い)が必要です。

日本は米国の証券(国債、デリバティブ証券、株)を買い続けてい
ます。経常収支の黒字分は、資本収支では赤字(マネーの国外流
出)になるからです。

その累積が、前記の米国を主とする対外資産903兆円、対外負債
580兆円、対外純資産323兆円です。対外投資は、「ドル買い/円売
り」として、円の海外流出(ドル買い)でもあるので、国内が需要
不足でデフレになった主因でもあります。(日銀資金循環表:16年
9月末) 

米国債や債券の購入というマネーの流れで、米国に行ったジャパン
マネーは、米国の需要になっています。貿易黒字が、対外資産にな
るというのが、これです。

■2.EU(欧州連合:28か国)は、自由貿易圏

【繰り返してきた欧州の戦争】
戦争を繰り返していた欧州が、武器の進歩で破壊的だった第二次世
界対戦のあと結成したのが、EUです。28か国が加盟し、域内では、
関税を課さない自由貿易圏です。これは、欧州の大国フランスと、
問題の根になっていたドイツの和解でした。総人口5億人で、GDPは
$16兆(1840兆円)と日本の3.5倍、米国の0.94倍の大きさです。

戦争は、経済面では貿易の制限や拒否から起こります。政治面では
支配(ガバナンス)です。政治的・経済的に支配するのが、植民地
です。第二次世界大戦は、植民地の争奪戦でした。

自由貿易にし、労働の移動も自由にして移民を許容し、お互いが工
場を作りあい、マネーが行き交う関係を作れば、利害が一致して、
戦争は起こりにくくなる。これが東京と大阪が戦争をしない理由で
す。幕末には、国内で封建領主間の「戦争」がありました。

ドイツは、スペインに多くの工場を作っています。スペインとは戦
争ができないでしょう。

(注)文面通りに読めば、憲法が交戦を禁じる日本では、戦争は過
去のものと考えられています。世界では、そうではありません。い
つも防衛戦と言い、軍事大国が侵略するのが戦争です。

【EUのビジョンは平和】
戦争を再び起こさないことが、欧州連合(EU)の理念(ビジョン)
でした。そのEUから離脱するのが英国です。米国は、北米の自由貿
易圏のNAFTAから離脱するでしょう。

言語を同じにし、文化にも共通性が高い米英が、相談はせずとも、
一致した行動をとっています。英米の国民の、文化的に共通な意思
が働いているのでしょう。

EUの上に、通貨でも統一を図ったのが、ユーロです(19か国)。ス
イスと英国が、EUとユーロに加盟しない国になります。

▼EUの上のユーロ

ユーロは、ロバート・マンデルの「最適通貨圏の理論(1961年)」
をもとにして作られています。

最適通貨圏が成立する4つの条件は、以下です。

(1)労働移動の自由(つまり移民の自由)
(2)文化的な障壁のなさ。つまり価値観が類似すること。
(3)資本移動の自由。マネーが自由に移動できること。
(4)通貨の価値を下げるインフレ率の低さで、類似性があること。
このため、財政赤字には限界をもうけねばならない。

ユーロでは、財政赤字の上限を、GDPの3%以内と定めています。し
かし、今はフランスが-3.3%、スペインが-4.6%、ギリシアが-7.
7%です。ちなみに日本はGDP比5.6%、中国は3.8%、米国も3.2%
の財政赤字です(2016年)。ドイツ(+1%)とスイス(+0.2%)を
除く世界は、財政赤字が拡大しています。

【ベルギーにあるEUが上位の政府】
ユーロ加盟国では、EUの事務局(連合政府)に対して政府の財政予
算を提出し、「承認」を受ける必要があります。

ギリシアの政府予算も、毎年、EUに提出され、財政赤字を修正され
ています。ギリシア国民は、こうしたEUによるギリシア支配に対し
て反抗し、暴動を起こしたのです。

【マネーと経済でのドイツ帝国】
EUは、政治的な独立はそのままにして(各国が政府をもつ)、経済
面では一国であるかのようなブロック圏を作っています。

マネーと経済では、メルケルを首相とするドイツ帝国とも言えます。
ドイツがもっとも強い経済だからです。(注)ドイツ銀行の危機は、
自己資本が少なく、実際は不良になっている対外債券の所有が多い
ためです。

第二次世界大戦は、ドイツと連合国(主要なものは英、仏、米、ソ
連)で始まっています。戦後のEUは、軍事力ではなく、経済力でド
イツが帝国を作ったものでしょう。

EUとユーロには、「域内平和」の理念があるのです。南欧の財政赤
字の大きさと英国の離脱を契機に、「最適通貨圏」の条件を満たさ
なくなったユーロがどうなるか、これには、別の論が必要です。
(注)本稿では、EUの将来までには踏み込みません。

■3.NAFTAの設立

北米3国(米国、カナダ、メキシコ:域内人口4億6000万人)では、
EUに対抗して、自由貿易圏が作られました(1994年)

(1)関税を課さない自由貿易の協定
(2)環境問題に関する協定
(3)労働の移動に関する協定、の3本柱からなります。

【メキシコ進出】
NFATAとともに、日本の製造業は、比較コストが低いメキシコに進
出しています。米国への輸出に、関税がかからないからです。政治
(=関税)は、このように、経済を変えます。

ユーロ加盟国だった英国に、日本の工場が進出したのと同じです。
日本からユーロに輸出すれば、5%の関税がかかります。英国の日
本工場からのユーロ域内への輸出は関税がゼロだったからです。金
融面では、英国で免許があれば、ユーロ加盟国でも営業ができたか
らです。

トランプ政権は、TPPのみでなく、NAFTAに向かっても離脱の方向を
言っています。

■4.自由貿易のもとになった、リカードの比較生産費

さてここから「知識」です。英国のリカード(リカードウとも表記
されます)が、経済学の古典、『経済学および課税の原理(1819年
初版)』で唱えた、比較生産費の論です。

サミュエルソンが、教科書『経済学』の中で、経済学での最大の発
見と書いていたので、当方も読みました。とても難しい。抽象化し
た思考が必要だからです。

貿易が起こる原因は、比較生産費が低いからである。生産費の安い
もの(生産性の高い商品)を輸出し、自国では生産費の高いものを
輸入する自由貿易をすれば、両国のGDP成長は高まるとする論です。
自由貿易を推進した経済論がこれです。

お互いが関税を課さず、輸入の制限もしない自由貿易にして、
(1)日本は自動車の、対米輸出を今より増やし、
(2)米国は農産物の、対日輸出を大きく増やせば、
(3)日米両国の、国民の所得(企業の利益+国民の所得)は、今
より増えるというものです。

新自由主義が推進したグローバリスムは、リカードの比較生産費の
立場に立っています。EUの成立とユーロも、域内の比較生産費の立
場にたっています。

経済学が自然科学なら「立場」や「説」、及びイデオロギーは な
くなります。米国派の医療や医薬というものがないのと同じです。
医療や医薬は、自然科学でしょう。経済学は科学ではありません。
国、文化、制度、政治的な統治で異なるからです。国で異なる自然
科学はないのです。

例えば中国の、共産党独裁体制下の経済学と、米国、日本、EUの経
済学は異なります。江戸時代の経済学と、現代日本の経済も違いま
す。以上の意味で、経済学は「時代と政府の意思を反映したイデオ
ロギー」です。経済学は、統治の学でもあったのです。

マルクス主義の医学、物理学、量子論はなくても、マルクス主義の
経済学はあります。他方、科学は政治的には中立です。

▼比較生産費の事例

リカードの原文では難しいので、単純化(モデル化)して述べます。
リカードがあげた事例に基づき、英国の毛織物とボルトガルのワイ
ンです。

英国では毛織物の生産費が低く、ポルトガルではワインの生産費が
低いとします。必要な労働量が多ければ、コストが高く国内の比較
生産費が高い。同じ1単位の商品を生産する労働量が少なければ、
比較生産費が低いことになります。

       ワイン生産の  毛織物生産の
       必要労働量   必要労働量
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ポルトガル   1人       2人     
英国       5人       4人
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(注)1単位の商品を生産するための労働量(コスト)。

・英国では、ワインと毛織物の、2単位の商品生産に9人が必要とし
ます。
・ポルトガルではワインと毛織物の2単位の商品生産に3人が必要と
します。
・両国の貿易前の生産量の合計は、4単位です。

上表の事例では、ポルトガルがワインと毛織物の両方で、
1単位を生産するための生産性が高く、価格は安い。

英国は、両方の生産性が低く、価格が高い。言い換えれば、ポルト
ガルは全体の「絶対生産費が低く」、英国は「高い」。

リカードは、この条件でも、両国が貿易をすれば、両国の利益が高
まり、お互いにGDPは増えると言います。直感では、生産費が高く、
価格が高い英国が損をする感じですが・・・

【国内での比較生産費の視点】
(1)ポルトガルでは、ワイン1単位を生産するのには1人の労働で
済みますが、毛織物1単位の生産では2人分が必要です。つまり、ポ
ルトガル内では、ワインの比較生産費が、毛織物の1/2(50%)と
低い。

(2)英国では、ワイン1単位を生産するのには5人分の労働が必要
ですが、毛織物の1単位では4人分とそれより少ない。英国内では、
ワインの、毛織物と比べた比較生産費が5/4(125%)と高い。つま
り、ワインと比較した、毛織物の国内での比較生産費は、4/5(80
%)と低い。(注)比較生産費は、他国ではなく、国内の産業間を
比べたものであることに留意してください。

ポルトガルは、両方の生産費が低い(絶対生産費が低い)。
英国では、両方の生産費が高い(絶対生産費が高い)。

英国が国内での比較生産費が高い安い毛織物を、ポルトガルに輸出
し、国内のワインの生産をやめて毛織物の生産に特化するとします。
(注)やめなくても、減らせば、弱まった類似の効果が出ます。

英国の労働が、輸入するワイン生産から、毛織物生産に移行すれば
どうなるか。生産性の高い毛織物の生産に、5人が加わりますから、
生産量は〔1単位(4人の労働)+1.25単位(5人の労働)=2.25単
位〕に増えます。英国の生産量(GDP)は貿易をしないときの2単位
から2.25単位に増えるのです。

同様に、ポルトガルの労働が、国内の比較生産費が高い毛織物生産
から、ワインの生産に移行すればどうなるか。生産性の高いワイン
の生産に、2人が加わりますから、生産量は〔1単位(1人の労働)
+2単位(2人の労働)=3単位〕に増えます。

貿易をする前の商品生産量は、
・ポルトガルがワイン1単位、毛織物1単位で、合計2単位(労働は
3人分)でした。
・英国でも、ワインと毛織物で、合計2単位(労働は9人分)でした。

ワインと毛織物を貿易して、労働が移動したあとの商品生産量は、
・ポルトガルの生産がワイン3単位(労働は3人分)に増えて、
・英国では毛織物が2.25単位(労働は9人分)に増えます。両国の
労働量は、貿易の開始前と同じです。

両国での合計生産量は、貿易前の4単位から、5.25単位へと31%増
えました。

これは両国の労働量が、貿易以前と同じでも、貿易以後は実質GDP
と所得が31%増えたことです(生産=所得=需要です)。このため、
両国で31%分、実質所得が上がります。

両国では、以下のことが起こります。
・毛織物の消費が2単位から2.25単位に13%増え、
・ワイン消費も、2単位から3単位へと50%増えます。

【リカードの結論】
・英国が、比較生産費が低い毛織物に特化し、
・ポルトガルも、国内の比較生産費が低いワインに生産を特化させ
ると、両国の国民は、貿易をした分、豊かになる。これが、リカー
ドの比較生産費説です。

常識と異なるのは、毛織物の生産費でも優れるポルトガルが、国内
の比較生産費が高いからという理由で毛織物の生産をやめて、英国
から輸入することです。これでも、両国の生産量と所得が増えるの
です。

■5.比較生産費説の効果

得意な商品の貿易により、両国民は、豊かになる。これが世GDPの
増加率より常に、貿易量を大きくしてきた比較生産費の説でした。

2015年の世界の輸入額は、1位米国$2.3兆(265兆円)、2位中国1.
6兆(184兆円)、3位ドイツ$1.1兆(127兆円)、4位日本$6500億
(75兆円)、5位英国$6300億(72兆円)、6位フランス$5700億
(66兆円)です。

貿易収支の黒字では、1位中国$3222億(37兆円)、2位ドイツ$
2285(26兆円)、3位ノルウェー$765億(8.8兆円)、4位オランダ
$623億(7.2兆円)、5位アイルランド$467億(5.4兆円)6位イタ
リア$257億(3.0兆円)です。3位以下は、過去の常識と異なるで
しょう。

貿易赤字では、1位米国$7414億(85兆円)、2位英国$1709(19兆
円)、3位フランス$907億(10兆円)、4位日本$728億(兆8.3兆
円)、5位トルコ$657億(7.5兆円)、6位スペイン$329億(3.8兆
円)です。

1980年代から約30年、貿易黒字を誇っていた日本は、貿易赤字で世
界4位の8.3兆円になっています。

なんと言っても、米国の赤字である85兆円が大きい。世界の貿易黒
字を、ブラックホールのように赤字国として引き受けているのが米
国です。(注)世界貿易では、黒字と赤字が等しい。

【米ドルの世界の通貨に対する実効レートの下落が、止まって、
                                    上がることもある理由】

大きな貿易赤字の継続でも、米ドルが下がらないのは、貿易で使わ
れる国際通貨であるため、世界の貿易が増えるとドル買いが増える
からです。ドルを刷るだけで海外から商品が買える米国がもつ、基
軸通貨の特権です。

ドイツが中心になり、ユーロが作られたもっとも大きな理由は、欧
州がドル経済圏から逃れるためでした。貿易黒字で米ドルを貯めて
も、数年のスパンでは、1年に$1兆から$7000億(115兆円~80兆
円)の貿易赤字のために、過剰に刷られたドルが下がって、ドル貯
蓄の価値が下がってきたからです。

自由貿易のEUが結成された理由は、前述のように、比較生産費の原
理から、
・域内貿易の自由化により、
・EU28か国のGDPが増えて、
・国民所得(企業所得+世帯所得)が増えるとされたからです。

自由貿易のEUの結成は、リカードの学説の功績でしょう。

■6.TPPからの脱退

TPP(環太平洋経済連携協定)には、太平洋を取り巻く日本を含み、
中国除く13か国が参加を表明しています。

太平洋圏のNAFTAとして、貿易の自由化による参加国の経済成長を
目的に、結成されようとしていたものです。米国の、永久不参加の
表明で、TPPは消えました。

【比較生産費説の問題】
リカードの比較生産費の問題は、労働移動の期間です。輸入産業の
労働者が、輸出産業の労働に移動しなければならない。

生産性の低い農業や一次産業から、生産性の高い工業への移動は、
個人の所得が増えるので、スムーズに進むでしょう。

わが国では、昭和22年(戦後2年目)の農業従事人口は、3353万人
でした。労働者のうちほぼ10人に4人は、農業従事者でした。2000
年には、これが389万人に減っています。2011年では261万人しかい
ません。

農村人口が、大挙して製造業に就職していた1960年代が、2008年ま
での中国のような、GDPと所得の二桁成長の経済だったのです。中
国では、2008年まででした。

工業から工業への移動は、進みにくい。生じる移動は、自動車や家
電産業から、生産性が低く、所得が低いことが多いサービス業です。

日本人は、生涯に3回職、業を変わります(平均勤務年数は11年)。
米国は、11回です(平均勤務年数3年)。米国の労働移動では、同
じ職種が多い。このため、輸入の増加による失業率は、5%から8%
と高くなっています。2016年6月は4.9%です。

以上から、1980年代以降の先進国では、現場労働では、労働移動に
よる所得の増加はない。米国の収入5分位での、実質所得は、1983
年を100としたとき、17年後の2010年では、以下になっています。
(注)物価上昇を引いた実質所得

【米国の世帯年収】             年率増加
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(1)年収上位層(20%) 100→200(2010年) 4.2%
(2)年収中位層(40%) 100→150(2010年) 2.4%
(3)年収下位層(40%) 100→120(2010年) 1.0%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(注)これが「格差」と言われることの正体です。

年収で5分位の上位層(労働の20%)は、1983年から2010年に、物
価上昇率を引いた実質年収は2倍になっています。1年に3%くらい
の平均インフレがあったので、年収の名目額で4倍でしょう。

一方で、40%を占める中位層は27年間の実質年収で1.5倍、同じく
40%の下位層は1.2倍に過ぎません。

米国での生産優先の支持は、中東部の、かつての工業地帯(インデ
ィアナ州、ミシガン州、イリノイ州、ニューヨーク州北部、ペンシ
ルバニア州、ウェストバージニア州)の、白人の中低所得層多かっ
た。

かつては民主党だった、ラストベルトでの勝利が、トランプを大統
領にしています。ラストは、鉄の赤サビです。工場がサビついて、
廃墟になった地帯という悲惨な意味です。

(注)日本の、子供あり世帯所得の平均は、1995年が頂点で781万
円でした。2014年は712万円で、9%減っています。
全世帯平均のピークは1994年の664万円でした。2014年は541万円で
19%も減っています。2000年以降に退職者(夫婦で約20万円の年金
が所得の70%)が増えたためです。

■7.NAFTAとTPPからの離脱と、懲罰的な関税はどんな結果をもたら
すか

NAFTAとTPPから米国が離脱し、大統領令で、輸入に対して35%の懲
罰的な関税を課したらどうなるか。35%ではなくても15%や10%で
も同じことが起こります。

第三国での生産を含む米国への輸出が多いのは、(1)中国、(2)
ドイツ、(3)日本です。

(1)中国では、パニック的に対米輸出が減少し、米国の輸入が減
ったリーマン危機と同じ結果になります。

中国のGDP成長は、2007年が14.2%でしたが、リーマン危機の影響
を受けた2009年は、9.2%に下がっています。GDPの実質成長が、輸
出の減少で5ポイント(%)下がっています。

(2)日本はリーマン危機の前のGDPの実質成長が2.19%(2007年)
でしたが、2009年にはマイナス5.5%と、経済循環での不況を超え
た、超不況になっています。

これに近いことが生じる可能性が高い。

(3)輸出がGDPの37%と世界でもっとも大きなドイツでは、2007年
が3.38%のGDP成長でしたが、2009年は日本とほぼ同じマイナス5.
57%の超不況でした。

対米輸出が多い3国には、リーマン危機後の米国の輸入減少とほぼ
同じことが、今度は金融要因からではなく、WTO(世界貿易機構)
違反の、差別的関税ショックとして、起こる可能性が高い。

米国で、商品生産の増加が起こるかと言えば、そうではない。変質
した米国製造業が、コストの高い国内に、工場を新設することは、
ほとんど、考えることができないからです。

長期的に見た場合、米国工場(特に自動車、家電、IT)の採算はと
れない。このためCEOは、大統領が誘っても、工場新設の決定はで
きないでしょう。

▼米国の生産の変化

現在の米国の代表的な製造業は、iPhoneやiPadを作るアップルです
(時価総額$6175億:71兆円:トヨタの20兆円の3.6倍)。アップ
ルは、中国や台湾の委託工場で作る企画生産型です。自社製品を輸
入して、販売しているユニクロのような企業です。

米国企業のアップル等の輸入に対する関税はどうするのか? 輸入
課税をすれば、アップルの商品は高くなって、売れなくなります。
これは、米国内アップルの雇用(流通に従事)を奪うのです。

世界最大の小売業(世界売上51.8兆円:2016年)であり、米国に
5000店をもつウォルマートの商品は、食品以外では90%以上が輸入
です。差別的関税で、ウォルマートの食品以外の価格も上がって、
売上が減ります。

ウォルマート以外でも、例えばファッションのGAPの商品はほぼ
100%が海外輸入です。関税がつけば、その分、価格を上げます。

他の店舗でも、同じです。食品以外は、ほぼ輸入だからです。米国
のメーカーは、製品を作らない企画生産型になっているからです
(ファブレス・メーカーともいう)。

輸入関税を課すことが、輸入型になってしまった米国企業の雇用を
増やすことは、ありません。むしろ、減らします。円安になると、
中国やベトナムからの仕入価格が上がるユニクロのようなSPA型の
生産・販売に変質したからです。

関税は、課税分がドル安になったことと同じように、海外商品の、
米国内での価格を上げます。

米国の自動車も、関税がないNAFTAのメキシコで作られているもの
が多い。米国の労賃より低いからです。廃墟に近くなっている、自
動車の都市デトロイトがそれを象徴しています。

期待されるラストベルトの復活はなく、
・関税では雇用が増えない米国世帯の所得は上がらす、
・一方で、商品物価が数%は上がる。

このため、米国に「関税不況」をもたらします。

世界に広がる「関税不況」は、金融のリーマンショックのように、
FRBのドル増発(QE)により2年で回復したようなものにはならない。
関税が続く限り、継続します。長期の世界不況になるでしょう。

米国も生産地が、アップルのようにグローバル化しているのに、生
産の事実を無視して、大恐慌の1929年~33年、つまり85年前に戻っ
たような、復古的な関税をかけるからです。

数ヶ月後には、米国人も米国の生産構造の、後戻りができない変化
に気がつくかもしれません。

トランプ大統領には、この知識が明らかに不足しています。
補佐官、財務長官、商務長官が、一刻も早くアドバイスして、トラ
ンプ関税と自由貿易圏からの離脱をとどめるよう期待しています。

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3.政府はインフレ税を課すと言わねばならない
4.日本証券業協会が集計している国債の売買額
5.結論

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<866号:基軸通貨とゴールドの隠された関係>
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【目次】
1.1945年の「ブレトンウッズ協定」から始まった
2.インフレで信用を失った米ドル(1970年~1979年)
3.高金利のドルの高騰(1880年から1985年)
4.1985年のプラザ合意によるドル安調整
5.1990年代は、米国FRBの金撲滅キャンペーンだった
6.1994年以降は、米国は、台頭していた生産大国「中国」をドル準
備にとりこんだ
7.2002年からの金価格の高騰
8.中国が十分な金準備をもつ時期に、金準備制度への転換が起こる
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