ほぼ日刊日々是映画

[ほぼ日刊日々是映画] vol.1063 ★ ブラックボード?背負う人


カテゴリー: 2003年11月11日
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                          -vol.1063--
  ほぼ日刊 日々是映画           発行:cinema-today
                  http://www.cinema-today.net/
             http://cinema-today.hp.infoseek.co.jp/
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1063号です。

突然やけに寒いですが、先日とある喫茶店に行ったところ猫が2匹
いたんですが、コーヒーがやってきてしばらくたった頃おもむろに
その猫の1匹が近づいてきて、テーブルの上に乗り、何をするかと
思ったら、コーヒーフレッシュの入った器をなめ始めました。店主
は奥にいてこちらは見ておらず、猫はここぞとばかりにコーヒーフ
レッシュを飲み干して、満足げに去っていきました。私はコーヒー
はブラック派なので、別に飲まれても困りはしないんですが、何ツー
喫茶店だとは思いました。ある意味ほのぼのある意味迷惑かな。

映画は『ブラックボード』です。
昨夜WOWOWでやっていました。私は結局3年前の第1回フィル
メックスで見て以来2回目のような気がします(もう1回くらい見
た気もする)。


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--cinema207-------------------------------------------
ブラック・ボード〜背負う人
Takhte siah            2000年,イラン,84分
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<キャスト&クルー>

監督 サミラ・マフマルバフ
脚本 モフセン・マフマルバフ
   サミラ・マフマルバフ
撮影 エブラヒム・ガフォリ
音楽 モハマド・レザ・ダルヴィシ

キャスト バフマン・ゴバディ
     サイード・モハマディ
     ベフナズ・ジャファリ


<評価>

☆☆☆1/2(満点=5)


<プレヴュー>

 黒板を背負って山道を歩く歩く男たちの一団。彼らは、学校がなくなって職を
失った教師らしい。時はイラン・イラク戦争の真っ最中、彼らは食べるため、各
地の村々を回って子供たちに読み書きや算数を教えて歩いていた。その一団の中
の二人の教師サイードとレブアル、それぞれ生徒をさがし、サイードはイラクと
の国境に向かう老人の一団を見つけ、レブアルは大きな荷物を運ぶ子供たちの一
団を見つけた。
 『りんご』で世界の中目を集めた若干20歳のサミラ・マフマルバフの監督第2
作は『りんご』と同じように、ある種ルポ的な色彩を取り入れつつも映像にこだ
わって映画らしい映画に仕上げた。
 



<レビュー>

 とりあえず、黒板を背負って歩くという発想が面白い。監督いわく、もともと
のアイデアは父親のモフセンの発想から得たらしいが、それをうまい具合に映画
世界にはめ込んだところがうまい。
 この映画はやはりかなり社会的なメッセージ性の強い映画で、最近の出来事で
あるイラン・イラク戦争をいまだに問題として残っているクルド人難民の問題と
関わらせつつ描き、かつ戦争に対する人々の姿勢を生々しく描こうという野心が
感じられる。しかも、子供、老人という二つの世代を対象とし、そこにストーリー
テラーとしてのいわゆる大人が入っている構造から行って、全体像を描こうとい
う構想なのだろう。
 したがって、物語そのものは収斂するのではなくむしろ散逸してゆく方向です
すみ、結末もはっきりとしたメッセージを打ち出すわけではない。漠然とした反
戦のメッセージ。あるいは「生きる」ということに対する漠とした渇望。
 全体には非常に出来のよい映画ですが、ちょっと手持ちカメラの多用が気にな
りましたかね。主観ショットのときに手持ちを使うのはとても効果的でいいので
すが、主観ではないと思われるところでも手持ちのぶれた画像が使われていたの
で、その効果が薄れてしまった感じがするし、あまりに手持ちの映像が多い映画
は酔うのでちょっと厳しいです。山道の移動撮影で、ぶれない画像を撮るのも難
しかろうとは思いますが、それを感じさせないように作るのが映画。映画の世界
の外の状況を考えさせてしまってはだめなのです。そこらあたりが減点。

 今回見てみると、いろいろと味わい深い部分があります。メッセージ性などは
置いておいて、映っている人々の生き生きとした感じというか、非常に厳しく、
本当に生きていくのがやっとという生活(といえるかどうかも怪しい移動の日々)
のなかでもいくばくかの喜びがある。あるいはただ苦しみが和らぐだけであって
もそれを喜びと感じる。それがこの映画の非常によい味わいであると思います。
故郷へと向う一団の中で「黒板さん」と結婚することになる女性。彼女は精神的
に参ってしまっているのだけれど、周囲はそれをどうとも思わない。それは一つ
の不幸ではあるけれど、皆が抱えている不幸と質的に差があるわけではない。そ
してその父親は膀胱炎でおしっこが出ない。しかし出さなければならない。おしっ
こが出た瞬間、彼が感じた幸せはどれほどのものだったか。ズボンへと伝う暖か
いおしっこの感触が幸せであるというちょっと笑ってしまうようなこと。それが
幸せであるということ。レブアルが自分の名前を黒板に書くことができたとき、
彼の表情は真剣でありながら喜びに溢れていた。その文字はたどたどしいもので
あっても彼にとっては無上の喜びを与えてくれるものだった。それを書き上げた
瞬間に待ち受ける運命がどのようなものであっても。
 そのような生きる喜び。クルド人の一団が「黒板さん」に導かれてついに故郷
にたどり着いたことをしる歌が鳴り響いたとき、彼らの喜びはいかほどのものだっ
ただろうか。故郷に帰っても彼らの運命は悲惨で未来など霞のようなものだとい
うことは見ているわれわれにも、旅する彼ら自身にもわかってはいるに違いない
のだが、故郷に着いたということの喜びは他には変えがたいほどのものなのだ。
そのような悲惨な中にある喜びを無常のものとして描きあげたこの映画はどこを
切っても味わい深い。


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