紳也特急

紳也特急 vol,193


カテゴリー: 2015年09月01日
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 全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を 
        精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース!  
  
性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を 
                                         専門家の立場から鋭く解説。 
                    Shinya Express (毎月1日発行) 

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~今月のテーマ『生きづらさの背景』~ 

○『感想』
●『青年無罪』 
○『人間は経験に学び、経験していないことは他人ごと』 
●『で、どうする?』 

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○『感想』
 私にとって、セックスをしたいと思うのは、行為そのものに快楽などの魅
力を見出しているためというよりも、「自分が誰かに必要とされている」と
いう自分への需要を確かめ、承認欲求を満たしたいがためのようです。

 私は付き合ってもいない人とセックスをしたことがあります。それも一人や
二人ではありません。快楽を得たいがためと思っていましたが、岩室さんの話
を聞いて、居場所を求めていたのだとはじめてわかりました。女性としての存
在価値がそこにはあるような気がして、必要とされていると感じてしまったり
して、そうなっていました。
 今はそういうことはしていません。勉強やバイトで忙しいからだと思ってい
ましたが、自分の居場所を学校やバイトで見いだせたからなのだと、今日わか
りました。

 私はあるときから自傷行為をはじめ、同時期に何人かと性的関係を持つよう
になりました。からだだけでも自分を求めてくれる人がいると思え、一瞬だけ
でもとても幸せに感じられました。私に「居場所」を与えてくれていると思っ
ていました。
 私がそのような生活から抜け出せたのは一人の男性との出会いがきっかけで
した。彼は周囲に流されることなく、自分の将来を見据え、日々努力している
人でした。彼と比べ、今のままではいけないと気づきました。今では、自分の
将来や夢に向かって頑張るための学校が、毎日明るく話しかけてくれる友達と
の時間が、すべてを話せ、信頼できる彼氏の隣が自分の居場所です。
 岩室先生の話を伺い、自分を振り返り、今の自分に満足できている、自分は
ちゃんと変われたんだと気づくことができました。これからも、自分を大切に
できるよう、関係性を大事にしながら毎日を過ごして行こうと思います。

 メールでも複数の男性とセックスをしてしまうという悩みが数多く送られて
きます。そのような相談を受けたら皆さんはどのように返しますか。今回の感
想にもあったように、結局は自己肯定感を実感したいがためにセックスと言う
手段を使っている時に、「やめた方がいい」ではなく、「そんなもんだよね、
人間って」とある意味認めつつ、変われる自分に気付くしかないと考えていま
す。しかし、そう簡単に変われないからこそ生きづらさを感じるのではないで
しょうか。そこで、今月のテーマは「生きづらさの背景」としました。

『生きづらさの背景』

●『青年無罪』 
 先日、日韓青年フォーラムというイベントに出席し、韓国の若者たちから興
味深い話を聞かせていただきました。いま、日本でも自己肯定感が低い若者た
ちが問題になっていますが、韓国では自分は罪人と感じている若者が多いとの
ことでした。日本人である私の感覚からすると、確かに反社会的なことをした
人は罪人ですが、韓国の青年たちが「罪」と感じるのは、例えば、自分は政治
にすごく関心を持ったことを「罪」と感じるようです。だから、彼らが取り組
んでいるのが「青年無罪」という、若者たちに罪はないという運動だそうです。
 国民性の違いの一言で片づけられないのですが、それなら、誰でも失敗はあ
るのだから「『全員有罪』と言うのはダメですか」と投げかけたら「わたした
ちを罪人にするのですか」という感じで理解が得られませんでした(苦笑)。

○『人間は経験に学び、経験していないことは他人ごと』 
 人間って勝手なもので、若いころは還暦、60歳になる自分を想像できないも
のです。よく子どもたちに「先を読みなさい」とか、「想像力を働かせなさい」
と言いながら、「還暦になった自分」はやはり想像できませんでした。一方で、
60歳になってみると意外と淡々とその事実を受け止め、自分なりに楽しんでい
ます。体力が衰えているのは実感しますが、講演を含めた仕事はまだもう少し
これまでと同じように出来るのかなと思っています。
 誰しも生きづらさを感じていると思いますが、若者たちと年配者では生きづ
らさを感じるポイント、視点が異なるようです。歳をとると、とりあえず人生っ
て、人間関係ってこんなもんだという思いや諦めが生きづらさを和らげてくれ
ます。一方で、年配者は経済的に追い込まれると生きづらさを感じます。生活
保護制度というセーフティーネットがあると言われても、逆に周囲との関係性
からそれを申請することを躊躇している人が多いのもまた事実です。
 一方で若い人たちは自己肯定感、居場所、関係性、思考パターン、コミュニ
ケーション、といった、人が生きていく上で獲得しなければならない基本的、
根本的なところに躓いて生きづらさを感じているようです。ある大学で講義し
た後、数百人規模のレポートが届いたので、それら全部に目を通して生きづら
さにつながっているキーワードを拾ってみました。

自己肯定感 
 自分に自信がない
 自分が傷つくことが怖い
 自分は愛されたいが、愛されていないと思う
 人が自分を好きになるはずがないと思う
 失敗を避ける
 不安の塊
 人と比べてしまう
 自分が嫌い
 人見知り、コミュ障と決めつける

 人間なんて完璧なはずがないのに、そのことを実感をもって経験していない
と、変な理想を掲げ、結果的には理想通りに行かないので「自分はだめ」となっ
ているようです。

居場所・関係性
 どう見られているかが気になる
 相手に、周囲に合わせる
 人間関係が面倒
 友達が少ないわけではない
 SNSが居場所
 家に、家族に依存
 家にしか居場所がない
 相談するのが苦手
 無関心

 人は人と人との間でしか生きられないから「人間」と呼ぶようになったと思っ
ていますが、この基本的な関係性づくりが苦手になり、関係性が生んでくれる
居場所感覚が得られずに辛い思いをしている人が多いようです。

思考パターン・コミュニケーション
 必要とされたい
 認められたい
 嫌われたくない
 相手の反応がすべて
 答え、正解を探す
 全か、無かの発想
 聞く耳を持てない
 自分が否定されたと受け取る
 すぐ、全否定と受け止める

 コミュニケーションを通した関係づくり、相手や自分について学び合うこと
が人間関係を構築する上では基本となりますが、自分で勝手に結論を出し続け
ていると、関係性づくりは進みません。

行動の実際
 自分の弱さを見せない、見せられない
 寂しさより楽を取る
 LINEでは盛り上がるが一緒だと話が弾まない
 必要とされていることをセックスで確認
 失恋するぐらいなら2次元で満足
 気づかいばかりのSNS
 目立たないようにする
 考えることを放棄する

 人と人との間で生きて行くためには、生きづらさを感じる生き方ではなく、
少しは肩の荷を下ろした生き方ができなければ長続きしません。しかし、生き
づらさを加速させるような生き方をしている人が少なくないようです。

●『で、どうする?』
 一つひとつのことにどう対応するべきかを考え、対処法を伝えるという方法
もあるでしょうし、思春期学会でもメディアリテラシー、コミュニケーション
の大切さといったスローガンはいろいろ打ち出されているのですが、もう少し
本質的なことを考える必要があるようです。
 「自分に自信がない」、「自分が傷つくことが怖い」、「どう見られている
かが気になる」、「相手に、周囲に合わせる」、「必要とされたい」、「答え、
正解を探す」、「自分の弱さを見せない、見せられない」といった思いは「自
分と同じ」と思われた方も多いでしょうが、一方で同じ感覚なのにどうして若
者たちは生きづらさを考えてしまうのでしょうか。
 歳をとるということは、自分だけではなく、他者の失敗体験を数多く見せて
もらっていることだと最近改めて実感しています。逆に、若さということは経
験不足とも言い換えられます。他者の失敗経験に学び続けられる環境をどう作
れるかが生きづらさを克服する唯一の道なのかもしれません。だからこそ私の
講演ではこれからも自分を含めたいろんな人たちの経験を話し続けたいと思い
ます。


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