紳也特急

紳也特急 vol,169


カテゴリー: 2013年09月01日
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 全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を 
        精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース!  
  
性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を 
                                         専門家の立場から鋭く解説。 
                    Shinya Express (毎月1日発行) 

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~今月のテーマ『続けていてよかった』~ 

○『別れもあれば出会いも』
●『忘れられない患者さん』 
○『会ってビックリ』 
●『告知』 
○『笑いあり、涙あり』
●『「エイズ」にイメージがわかない』 
○『事実を伝えることに臆病にならない』

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○『別れもあれば出会いも』
 お陰様で先月、AIDS文化フォーラム in 横浜が20回目を迎えることができ
ました。正直なところ、ここ何年かは続ける意味があるのか否か、自分の中
で必ずしもしっくり落ちていませんでした。もちろん多くの方にご協力、ご
支援、さらには励ましの言葉をいただき、感謝の気持ちを持ち続けてきたこ
とも事実です。ただ、AIDS文化フォーラム in 横浜の役割が何かを考えても
答えが見つからないという思いを捨てきれませんでした。
 20年を振り返ると多くの出会いもあれば、別れもあり、その一つひとつが
フォーラムを続ける原動力になっていたことも事実です。第1回からずっと
一緒にセッションをやってきたパトの死。これは紛れもなく自分自身にとっ
ても一つの区切りであり、厳しい現実でした。いつもフォーラムの初日の
16時~18時に402教室にいたパトが今年はいませんでした。その「パトを偲ぶ
会」を同じ時間に、同じ場所でやって人が来るのだろうかと心配しつつ、準
備のために昔のアルバムをめくっていたら第1回のAIDS文化フォーラム in 横
浜でコンドームの装着法のセッションを一緒にやっているパトと私がいまし
た。われわれのセッションの19年間を思い出しながら、「ま、人があまり来
なくてもいいや」と思っていたら、本当に大勢の人が来てくれました。
 「ビールでいい」じゃなく「ビールがいい」
 「自分が決めたことだから、反省はするけど後悔はしない」
 いろんなメッセージを多くの人に残してくれたパトの19年間だったのを改
めて振り返っていました。今では当たり前のように続けられているアミュー
ズのAAA(Act Against AIDS)ですが、AAAを立ち上げた時に、パトがアミュー
ズの本社で多くのミュージシャンの前であのポジティヴなトークを行ったと
のことでした。実はAAAの次世代を担いたいと立ち上がったFLOWのメンバーも
このパトを偲ぶ会に来てくれていました。
 そうやって無事初日を終えた翌日、かながわ県民センターの廊下で「岩室
先生ですよね、〇〇です、覚えていますか?」と突然声をかけられました。
決して珍しい名前ではありませんでしたがすぐに誰かわかりました。私が最
初に看取ったAIDSの患者さんのお子さんでした。そこで今月のテーマを「続
けていてよかった」としました。

『続けていてよかった』

●『忘れられない患者さん』
 こうやって20年にわたってAIDS文化フォーラム in 横浜を続けてきたのも、
そして毎年100回も学校で講演しているのも、これまで関わらせていただいた
当事者の方々私に多くの学びをくださったからでした。
 私の最初のHIVの患者はパトでした。1994年の国際エイズ会議が開催される
前年のイベントで知り合いました。当時はAZTという薬しかなく、病気に関係
する検査もCD4ぐらいしかできず、ウイルス量も測定できませんでした。ただ、
彼はすこぶる元気だったので最初の頃は特に治療をすることなく、あまり患者
さんという感じではありませんでした。
 第1回のAIDS文化フォーラム in 横浜が終わった後、HIV/AIDS診療の先駆者
の先生から、「AIDSで余命3ヶ月の患者さんを診てもらえないか」という相談
を受けました。「AIDS診療の経験がないのですが」とやんわりと断ろうとした
ら「大丈夫、いま治療薬がないから看取るだけでいい」と言われ、上司と相談
して転院していただくことにしました。

○『会ってビックリ』 
 何はともあれ、転院前に患者さんに会い、主治医の先生に少しでも病気のこ
とを教わらなければと思い、会いに行った患者さんは何と日本人の女性でした。
HIV感染は少し前に亡くなっていたご主人から。ご主人はHIV/AIDSが最初に広
がった海外での生活が長かったのでそこで感染していたのではとのことでした。
理屈上ではあり得ることでも実際に異性間、それもご夫婦での感染というのは
自分自身の意識を大きく変えてくれました。
 いまでこそ累積患者数が115人となった厚木市立病院ですが、当初は受け入
れに対して不安がなかったわけではありません。ただ、患者さんが転院して
きた時に看護師さんたちの心をつかんだのはお子さんの存在でした。患者さ
んが思い通りにならない体に鞭を打ちながら一所懸命子育てをしている姿に、
多くの看護師さんたちは自らの子育てを重ねながら看てくれていました。結
果的に一緒にいる時間はそう多くは作れなかったのですが、つい先日も「あ
の時のお子さんはどうしているんだろうね」という話をしていたところでし
た。ご両親を亡くしたその子は、地方の祖父母の所に引き取られていったこ
と以外、その後のことを知る由もありませんでした。

●『告知』 
 ところが、突然、AIDS文化フォーラム in 横浜の会場で声をかけられた時に、
一瞬にして19年前にタイムスリップしていました。しかし、フォーラムで忙し
くしていたため、ゆっくり話す時間をとることも出来ず、名刺を渡して連絡を
取り合うことにして、後日ゆっくり会って話をすることが出来ました。
 二人だけで会うまでの間、会ってどのようなことを聞きたいのだろうか。ど
うしてこの時期なのだろうか。どのような話をすればいいのか。いろんなこと
を考えていましたが、会ってみると亡くなったお母さんという共通の話題があ
り、和やかな雰囲気で、お店の閉店時間まで話し込んでいました。
 おじいちゃん、おばあちゃんからの告知は中学3年生頃だったようです。た
だ、本人にすればそもそもHIV/AIDSということがよくわからず、両親がAIDSで
亡くなったと聞かされてもあまりピンとこなかったとのこと。その後、成人し、
パートナーもでき、自分も結婚するかもと思うようになった時に自分の親のこ
とを思い出し、その頃の話を聞きたいと思うようになって岩室紳也、そして
AIDS文化フォーラム in 横浜にたどりついたようです。
 今の20歳過ぎの若者たちに「『HIV』や『AIDS・エイズ』と聞いて思うこと
は何?」と聞いてみてください。おそらく「病気の名前」ぐらいにしか思って
いないでしょう。最近学校で講演した後、「エイズという病気は命に関わる病
気なので気をつけたいと思います」という感想をよくもらうのですが、いまや
「HIV/AIDS」は聞いたことがあればまだましな病気のひとつになっています。
だからこそネットでいろんなことを調べるものの、なかなかこれといった情報
に行きつくことができません。

○『笑いあり、涙あり』
 食事をしながらの再会、といっても親のことも覚えていないのに私のことを
覚えている筈もないのですが、おじいちゃん、おばあちゃんから「岩室先生」
という名前は聞いていたとのことで、それなりに身近な存在だったようです。
私にとっても20年近くも前の小さな子どもが成人して私の前に座っているので
覚えている筈もないと思うでしょうが、不思議とお母さんの面影があり、とて
も初対面(先の一瞬の出会いを除けば)とは思えない感じでした。何とも不思
議な関係でしたが、実は私には話すこと、話したいこと、話さなければならな
いことがいっぱいありました。
 ご両親が感染した頃は外国でもまだHIV/AIDSはセンセーショナルな、自分に
は無関係な、身近ではない病気でした。無念にもそのような病気になり、幼子
を残して先立つことを余儀なくされた一人の女性が目の前に大きく、立派に育っ
た若者のお母さんだったのです。そのお母さんが残された時間を必死に生き、
子育てをし続けていた姿は、私だけではなく、多くの職員のこころに深く刻み
込まれました。その話をしていた頃には、当時、みんなで患者さんのことを呼
んでいた愛称でお母さんのことを話していました。

●『「エイズ」にイメージがわかない』 
 HIV/AIDSがまん延し始める初期の頃から関わってきた私の世代は、HIV/AIDS
に対する誤解や偏見をどう払しょくするかを考え続けてきました。われわれ世
代にとって、イマドキの若者たちの無関心はある意味ほっとするような、もう
少し自分の問題と考えてもらいたいと思うような複雑な心境になりがちです。
 しかし、今回、本当に自分の身近な問題としてHIV/AIDSのことを直視しよう
としている若者と話をしていて、実は「本当に知りたい情報」がどこにもなかっ
たのだという事実を改めて教わる結果となりました。HIVというウイルスが、
CD4という免疫力をつかさどる細胞に・・・・といったことは実は一人の人が
HIV/AIDSと共に生きてきた姿を伝える上ではどうでもいいこと、というか、あ
まり意味がない情報です。目の前の若者が求めていたのは、母親がどのような
思いでHIV/AIDSと共に生きてきたか。どうして両親がその病気で命を落とさな
ければならなかったのか。さらにその事実を背負いながら成人してみると、自
分自身を含めて、実は周りがほとんどHIV/AIDSについて知らない、身近に感じ
ていないという事実をどう受け止めればいいのか、ということでした。

○『事実を伝えることに臆病にならない』
 こう書きながらちょうど原爆や戦争のことを考えていました。「はだしのゲ
ン」が伝えようとした原爆や戦争の悲惨さを知らない世代が確実に増加してい
ます。と同時に、今でもなお原爆や戦争のことでつらい思いをされている方も
少なくありません。もちろん知らない世代に正しい知識を持ってもらう努力を
し続けることも大事ですが、残念ながら過去のことは少しずつ忘れられてしま
います。
 HIV/AIDSが不治の、偏見の目で見られていた時代は既に過去のものになった
ようです。確かにあの時代に生きていたものからするとどうしてあのような偏
見や誤解が蔓延したのかを検証し、同じ間違いが繰り返されないようにする義
務があると感じています。ただ、「事実を伝える」ことに臆病になっている状
態では誤解や偏見、無理解が蔓延することは、HIV/AIDSだけではなく、原爆で
も、戦争でも同じです。
 HIV/AIDSに誤解や偏見があった時代に亡くなっていった一人ひとりの方々も、
その生き方は決して後ろ指を指されるようなものではなく、普通に、一所懸命
に生き、共に笑い、共に泣いた仲間でした。今回、AIDS文化フォーラム in 横
浜がきっかけとなって約20年ぶりの再会を果たすことが出来た中で、一人ひと
りの生き様という事実を伝え続けることに、臆病にならないようにしたいと改
めて思いました。出会いに感謝しつつ、これからも可能な限り伝え続けたいと
思いました。
 

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