紳也特急

紳也特急 vol,166


カテゴリー: 2013年06月02日
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 全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を 
        精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース!  
  
性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を 
                                         専門家の立場から鋭く解説。 
                    Shinya Express (毎月1日発行) 

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~今月のテーマ『日本人が苦手な一次予防という視点』~ 

●『生徒の感想』 
○『貧乏人の子だくさん』 
●『子どものうつ』 
○『女性手帳は出してほしかった』
●『いま、何が大切ですか』 
○『性教育バッシングの自民党案だからこそ』

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●『生徒の感想』 
 初デートはマック! 彼氏の確かめ方。「で」の一文字で彼氏の本性がわか
るというのはすごいなと思いました。(中3女子)

 特に印象に残ったのが全体のテーマにも関連するマクドナルドの話で、自分
も普段から「・・でいい」と自分の意思、意見をしっかりと持ち、それをきち
んと言うことのできる人間になりたいと思う。(高2男子)

 私は今日の健康教育講演会で、特に印象に残ったのは男女でこんなにも考え
ていることが違うということでした。私は今日の講演を聞いて本当に良かった
と思いマス。大切にしていかないといけないのは自分の気持ちだということも
よくわかってよかったです。(高1女子)

 自分は前の彼氏に別れたあとも「愛してるから・・・」とか言われて「エッチ
がしたい」って言われてた時期があって・・・。さっき岩室さんの話をきいて
あの人はそういう人だったんだなと思ったと同時に、男は汚いなと思った。
自分の欲のためなら平気でうそつけるんだなと思った。(高1女子)

 30才までセックスをしなかったら魔法使いになれるって本当ですか?(高3男子)

 レイプは良くないことだと分かった。(高3男子)

 質問の際にみんなが言っていたことがあまりよくわからなかった。(高1男子)

 これらの感想を読んだだけでもいろんな生徒さんがいることが読み取れますが、
一人ひとりに効果的な支援の手を差し伸べるのは至難の業です。だからこそ、
この子たちが抱えている社会に蔓延する根っこにあるリスクが何かを一人ひと
りが考え、それぞれができることを一つひとつ丁寧にやって行くしかありませ
ん。そして結果として、いろんな人の英知が重層的に作用した結果、課題が
一つひとつ解決していくことを期待したいものです。

 しかし、最近、日本社会が目先の課題を解決することにしか目が行かず、根本
的なところを見ようとしない、見ることができない結果、様々な課題の根っこ
にあるリスクを克服することができていないのではないかと危機感を感じてい
ます。
 目先のことしか見ていないものの代表格が事業仕訳でした。「事業」は所詮
手段でしかないのですが、短期的な「成果」しか見ることができない人たちが
仕分けをすると、「目的」を忘れた事業仕訳になってしまいます。もちろん仕
訳人たちはそれなりに勉強をした、その道のそれなりの人なのでしょうが、一
つの「目的」を達成する手段として一つの事業だけで十分な成果が上げられる
はずもありません。そのことを承知の上で判断してもらいたいと思うのですが、
そう簡単には行かないようです。
 最近世間やマスコミが行った事業仕訳の一つが配布中止に追い込まれた「女
性手帳」でした。そもそも今の日本で一番大事なことは何でしょうか。私は人
と人がつながれなくなり、性に関する様々な情報やコミュニケーションを通し
て人が成長できる機会がなくなっていることだと感じています。女性手帳は単
に少子化に歯止めをかけるための、「産めよ増やせよ」という二次予防策だっ
たのでしょうか。後述しますが、もっと根本にある課題を解決する、少子化の
一次予防となる可能性がありましたがあっという間に葬られてしまいました。
そこで今月のテーマを「日本人が苦手な一次予防という視点」としました。

『日本人が苦手な一次予防という視点』

○『貧乏人の子だくさん』
 こんなやり取りをどう思いますか?

相談者:昨今は“貧乏の子だくさん”という言葉は死語に近くなっています
が、未だに私が勤めている地域ではそんな母親が少なくありません。夫が避妊
に対して非協力的な上、日々食べることにも困っているために卵管結紮、リン
グどころかピルを処方してもらうお金もない様な方がいます。そんな彼女たち
が妊娠せずに済む名案はないものでしょうか?

岩室:彼女たちは本当に不幸せなのでしょうか。少なくとも旦那とのセックス
もあり、子どもも産め、生活は苦しくても頑張って生きている。そのような彼
女たちの頑張りをもっと世の中に知らしめるべきだと思っています。そうすれ
ば自己肯定感が違う形で育まれ、気が付けば「自分で決める」という選択肢も
彼女たちの前に現れるように思います。答になっていないと思いますが、
HIV/AIDSをはじめとしていろんな課題を背負っている人たちがそれほど不幸だ
と思わないような支援をこれからも心掛けたいと思っています。

相談者:自己肯定感が低い彼女たちに対してアプローチをしていくことは、と
ても困難で時間を要するかと思います。家族計画と経済的な問題という視点に
だけとらわれず、違った方面からも一緒に考えていってあげられるようにして
いこうと思います。
 
 そうなのです。そもそもこのような状況が大変だとするのであれば、どうすれ
ばこのようなカップルが生まれないようにできるかを社会全体で考える必要が
あるのです。

●『子どものうつ』
 先日NHKで「子どものうつ」を取り上げていましたが、そもそも子どもたちを
うつ状態にしている社会に問題があると思いませんか。出ていた精神科の先生
も早期発見、早期対応とおっしゃっていましたが、そのうつのお子さんが不幸
にして自殺した時には「サインを見落とした親や学校関係者の責任」で終わら
せるのでしょうか。
 子どもたちにとって「認められることが大事」ということも言ってはいるので
すが、どうすることで日々そのような感覚が得られるかというところまで踏み
込んでいませんでした。その後に「女性手帳配布見送り」のニュースが流れて
いました。認められる方法として仕事に就き、社会人として働き、一定のキャ
リアを積むことを社会に教えられた結果、そこに到達することができないといっ
たストレスから「子どものうつ」になり、働いた結果、晩婚化や未婚、高齢出
産という道をたどった挙句、次は産めよ増やせよの「女性手帳」配布となると
確かに戸惑いますよね。

○『女性手帳は出してほしかった』
 そう言いつつも、実は岩室紳也は「女性手帳」賛成でした。もっともそのま
までいいはずもなく、男性へのメッセージや配布対象なども大いに議論すべき
ですが、報道された批判者の方々とは少しスタンスが違います。「若いうちに
産んだ方がいいことぐらい女性は既に知っている」という指摘には唖然として
しまいました。いかにも現場を、若者たちの実態を知らない方のご指摘と言わ
ざるを得ません。また、「女性の生き方の選択に国が干渉すべきではない」と
いった指摘はその通りですが、「干渉」と「教育」の境目はどう考えておられ
るのでしょうか。挙句の果て、女性手帳がお蔵入りするだけではなく、何と
「研究班を立ち上げる」という結果になってしまいました。今さら何を研究し
ていくのでしょうね。ぜひ一次予防のあり方を研究してもらいたいものです。

●『いま、何が大切ですか』 
 そもそも少子化の原因は単一のものではないことは世間もわかっています。
多様な原因を突き詰めて、モグラたたきのような後追い対策、二次予防策は効
果をあげません。いま求められているのは、一人ひとりがいろんな人とつなが
り、様々な情報に触れ、なおかつそれらの情報を正しく受け止め、咀嚼し、自
らの意志と共に、いろんな人とのコミュニケーションの中から生きづらさと向
き合う術を身につけ、その人なりの豊かな、幸せと思える人生を送れるように
なることではないでしょうか。
 性教育の目的は性のトラブルに巻き込まれないことだけではなく、性を通して
ストレスに強い人づくりをすることです。そのためには単に「正しい知識」を
伝えるだけではなく、「性が突きつける選択の難しさ」を通して、自分で選択
し、その結果を自らの責任で受け止められる人づくりです。歳を重ねてからだ
と妊娠がしづらくなることや、お子さんに障害が出る可能性が高くなることを
知った上で、仕事を選択するか、妊娠出産を選択するかはすごく重いテーマで
す。女性手帳の配布はこのようなことを考えるきっかけになったのではないで
しょうか。

○『性教育バッシングの自民党案だからこそ』
 性教育バッシングで教育をする側が受けた嫌な、理不尽な批判については今
さら取り上げるまでもないことです。実際に教育が受けられなかった障害者の
方々でその後性被害を含めて嫌な思いやトラウマを経験している人たちはバッ
シングをした人たちを許せない気持ちでいっぱいだと思います。バッシングを
した人たちはぜひ貫地谷しほり主演の映画「くちづけ」を見てもらいたいです。
 ただ、今回の女性手帳がこれまでにない視点を打ち出してきたことに注目すれ
ば、むしろ性教育の広がりにつながったと考えられないでしょうか。学校の教
科書には「受精」と「出産」についての記述はありますが、妊娠の経過や妊娠
する年齢に関する記述はほとんどありません。このことは学校でできる性教育
の範囲を狭めることにつながっていました。一方で、もし女性手帳の内容を男
性向けのものも入れてもらって完成したら、学校の性教育で次のようなディベ
ートができたはずです。

 【妊娠時期の事実関係】
 女性手帳には若い時の妊娠が望ましいと書かれています。
 日本の女性は16歳から結婚できますが、なぜか選挙権は20歳からです。
 若年妊娠はシングルマザーやその後の離婚だけではなく、若年HPV感染、若年
 子宮頸がんのリスクが高くなります。

 【みんなで考えよう】
いつ、どのような妊娠、出産を選ぶべきか。
そのためにどのようなことを一人ひとりが学び、考えなければならないか。

  そうなのです。せっかく性教育がこのように自ら考え、選択する内容へと
変貌できたのに・・・。やっぱり日本は根本的なところを、一次予防を考える
のが苦手な国なのですね。悲しいし、若者たちに申し訳ない思いでいっぱいで
す。


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