紳也特急

紳也特急 vol,165


カテゴリー: 2013年05月01日
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 ■■■■■■■■■■■  紳也特急 vol,165 ■■■■■■■■■■ 

 全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を 
        精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース!  
  
性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を 
                                         専門家の立場から鋭く解説。 
                    Shinya Express (毎月1日発行) 

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~今月のテーマ『パトが教えてくれたこと』~ 

●『考えてもいなかったこと』 
○『生きる力』 
●『1994年1月29日』 
○『HIVと過ごした四半世紀の意味』
●『検査は自分のためではない』 
○『ゲイとは』
●『HIVと長く、共に生きることの意味』
○『「死」とは』

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●『考えてもいなかったこと』 
 人は様々な経験をします。でも経験したくないものの一つが別れ、それも
死別です。東日本大震災では予想もしなかった津波によって数多の、突然の
死別がありました。いまでも、というか2年経った今だからこそ多くの人たち
が突然襲った別れに苦しんでおられます。そのような方々と毎月お会いしてい
ても人間は自分の身に別れが起こらないと身近に感じられない、どこか他人事
ですませてしまうところがあります。私がそうでした。
 4月15日、携帯の着信を見ると「パト」からの発信でした。
 パトリック・ボンマリート(47歳:1965年10月12日生まれ。年齢がすぐわか
るのは自分より10歳若いから。誕生日がすぐ言えるのもトークでいつも聞いて
いたから)。スペイン系アメリカ人。HIVポジティヴ。クラブDJ、サウンドプ
ロデューサー、ソムリエ等をこなす万能人間。岩室紳也の友人、仲間、そして
患者。通称「パト」。
 そのパトは最近、「お金がない」とか「膝の調子が悪い」といった状態だっ
たのでそんなことかなと思って出たら、ヤマト君が電話の向こうに。ヤマト君
はパトのパートナーで、パトの外来通院だけではなく、講演会にも一緒に来て
くれていたのでよく知っていました。その彼の開口一番のメッセージに驚愕し
ました。
 「岩室先生、パトが亡くなりました」
 20年来の付き合いのパトが亡くなった。自分の心に浮かんだのが「どうして」
でもない。「パトが死んだ」という事実だけでした。正直なところあまりにも
突然の、予期しない連絡に返す言葉がありませんでした。でもどこかで「HIVっ
てこういうことがあるんだよね」と自分に言い聞かせていました。20年近い付
き合い。HIV/AIDS普及啓発の同志、というか師匠のような存在でした。その彼
がもういない。自分で言うのもおかしいかもしれませんが、その彼と組んだ天
下一品のトークがもうできない。全身から力が抜けていきました。その知らせ
をもらってから2週間余経っても事実は変わりません。むしろ重くのしかかって
くるだけです。今月のテーマはこれしかありません。「パトが教えてくれたこと」

『パトが教えてくれたこと』


○『生きる力』 
 人が死ぬのは当たり前のこと。パトもよく講演会、トークで言っていました。
「講演会」を頼まれても、やっているのは二人の「トーク」。でもこれがどん
な講演会よりも聴衆を巻き込み、心に響くようでした。何とパトが患者として
長年通院していた厚木市立病院には二人のトークを高校生の時に聞いて看護師
になった人が勤めています。
 「この会場にいる人で死なない人はいない。僕もいずれ死ぬ。でも今はHIVで
死ぬより、交通事故とか他のことで死ぬ可能性の方が高い」がパトの口癖。実
際、HIVに感染しても薬がそれなりに効くようになり、免疫力(CD4)もいろん
な合併症が出ない程度までは回復するようになりました。しかし、病気の状態
がたとえ良くても、薬を飲み続け、言葉にできないストレスと向き合い続ける
ことは想像を絶することです。被災地でも2年経った今だからこそ、いろんな感
情の蓄積が一気に噴出しています。HIVは感染していることから来るストレスだ
けではなく、薬の副作用も、そしてHIVが体の中にいるだけでいろんな問題が起
こることもわかってきました。
 理屈では分かっていても、人はいつか死ぬと覚悟はしていても、人間という
存在はやはり勝手なもので、あんたに死なれたら困る。パトのバカ。何で死ん
だのだ。そんな思いです。


●『1994年1月29日』 
 パトと出会ったのは19年前の1994年1月29日。きっかけをつくってくれたのが
スマトラの津波で亡くなった当時横浜市職員の樋浦さん。1994年と言えば横浜
で第10回国際エイズ学会が開催されることになったものの、日本中がエイズパ
ニックの状態でした。いろんな人「握手では感染しません」とか、「差別して
はいけません」といったメッセージを訴えていました。しかし、樋浦さんは
ちょっと違う視点で、HIV/AIDSは若者の問題としてみんなが考えられるよう、
SAY NETWORKという学生グループを立ち上げ、今でも親しくさせてもらっている
坪井勇蔵さんたち学生と岩室紳也をコラボさせてくれました。この学生さんた
ちが私を「コンドームの達人」と名付けてくれ、それ以来、私の愛称にさせて
もらっています。
 当時38歳だった岩室紳也はHIV/AIDSのことをどう思っていたか。HIVに感染し
ないためにはノーセックスかコンドーム。ノーコンドームを選択するなら二人
で検査。シンプルな発想でした。だから差別するのは変じゃないの。いいエイ
ズ(薬害被害)と悪いエイズ(性感染)というのも変で、国の責任(薬害被害
者)と自己責任(性感染)と思っていました。もちろん、自己責任は多くの病
気(食べ過ぎの糖尿病、検診を受けない末期がん、など)でもよくあることな
ので、医者として診療をするのもこれまた当たり前のこと。
 そんな思いの岩室は樋浦さんが仕掛けたハマラジ(FM横浜)の深夜番組でパ
トと初対面。パトは自分がHIVに感染した日(1988年10月12日)を覚えている上
に、何とその日は彼の誕生日。パートナーがHIVを持っていることは知っていた。
でも自分のchoice(選択)でコンドームを着けたセックスの結果コンドームが
破れてHIVに感染。反省はするけど、自分の選択なので後悔はしていないとのこ
とだった。すごい。
 彼のFacebookに載っている「好きな言葉」。
 "It Is What it is."
  "When one wants to do something there is a 3 step process to insure 
    that one never regrets one's decision.
  1. Think about it.
  2. Decide on course of action.
  3. Take responsibility for the outcome (good or bad)"
 日本語が得意な彼は、「僕の感染は自業自得。でも後悔はしない。自分が選ん
だことだから」と話してくれたのを聞き「その通り」と思いました。
 もちろんこのやり取りはすごくインパクトがあったのですが、その後の顛末、
岩室紳也のパニックが私のHIV/AIDSとの関わりをより強めてくれました。この
原稿を書くに当たり紳也特急でその顛末を紹介したはずだが、とバックナンバー
をチェックしたら、何と紳也特急の記念すべき第1号で紹介していました。
 http://archive.mag2.com/0000016598/00000000000000000.html
 パトとの出会いが自分の原点だったと改めて思い知らされました。そうそう。
この日にコンドームの達人講座に欠かせない包茎の模型を出したら、パトがす
かさず「Champion!」と叫んだのが「チャンピオン君」命名の由来です。

 
○『HIVと過ごした四半世紀の意味』
 パトはHIVに感染してから24年6ヶ月と3日、HIVと共に生きてきました。岩室
紳也がパトと出会ったのは彼が感染した6年後。まだ薬もAZTしかなく、私自身も
HIV/AIDSの診療をしていませんでした。そのパトが「日本の医者は嫌いだ。こ
の薬を飲めと説明もなく押し付ける。岩室先生が診てよ」と言ってきたので、
「使う薬はAZTしかないし、ま、いいか」というのりで診療をはじめ、気が付け
ばこれまで111人の診療に関わってきました。パトの初診から数えても19年余、
随分長い時間を一緒に過ごしたものです。しかし、19年という時間はいろんな
ことを教えてくれました。


●『検査は自分のためではない』 
 よく「エイズ検査を受けましょう」というのを聞きますが、当初から私はこ
の呼びかけに疑問を感じていました。自己責任という観点から言えば、検査を
受けるかうけないかはその人の責任であり、また勝手でもあります。もちろん
知識がない人に呼び掛けることは大事ですが、最後の決断はその人の責任です。
そう思っていた私にパトは、「みんなが検査を受ければ、どれだけHIV感染が
広がっているかがわかり、国も効果的な対策が立てられる」と目からうろこの
発想を教えてくれました。自分のためではなく、みんなのために。これはなか
なか日本人が持てない発想でした。


○『ゲイとは』
 HIV/AIDSの話をする際にセクシュアリティへの理解を進めることが不可欠。
しかし、理屈で説明されても感情的に理解できないと、本当の理解にはなりま
せん。パトとのトークはいつも私に新鮮な驚き、元気、勇気をくれました。聴
いてくれている人も元気にしていたのは、パトの死をjaidsというMLで報告し
てくださった広島の高田昇先生の一言、「『岩室先生と、パトちゃんのトーク
ショー』は、ある意味新鮮で、また勇気を受け取ったように記憶しています」
にも表れていました。パト、やっていてよかったね。
 そのトークの中で印象に残っているのが、彼のお父さんが彼がゲイだと見抜
いた時のやりとりでした。お父さんが「オレはゲイはわからないけど、お前は
俺の愛する息子だ」と言って、陰口をたたく人たちを一蹴してくれたとのこと
でした。「その通り。岩室も男が好きなパトがわからない?」と振ったら、
「ま、先生は趣味じゃないから」と切り返され、何となくすっきりというか
「そうなんだ」と思っていました。


●『HIVと長く、共に生きることの意味』 
 知り合った時に28歳というそれこそ元気バリバリのパトでしたが、47歳のパ
トはやはりそれなりに中年になっていました。歳をとると誰しも体がいろいろ
と痛んできます。私も57歳になって膝が痛くなったり、筋力が衰えたりしてい
るのを実感します。ただ、最近わかってきたことはHIVに感染していることやそ
の治療で、骨粗しょう症といったことが出やすくなるということでした。もち
ろん副作用や合併症が明らかになれば医者はその事象への対処法を考えますが、
ある意味HIVと共に生きる人たちの先頭を走っていたパトは、未知の副作用や合
併症の情報発信者でもありました。


○『「死」とは』
 1994年に知り合い、いろんなところでトークを繰り広げるようになった彼の
口から出続けたのが「2000年を見届けたい」でした。「死は怖くない」が口癖
でしたが、目標を常に持ち続け、頑張り続けていたパト。目立つのが、主役に
なるのが大好きだったパト。最後に一緒に仕事をしたのが2012年12月3日の山梨
大学でのトークでした。山梨県主催で、山梨大学や近隣の学生さんを前に、パ
トは痛い膝を抱えつつ、杖を突きながら電車に揺られて来てくれました。こん
な姿で大丈夫と思うほどでしたが、いざトークが始まると別人のように元気に。
彼ももっと人前で話がしたかったことだと思います。でも彼の体は残念ながら
誰にも、パト自身にも聞こえない悲鳴を上げていたのでしょうね。
 彼が亡くなった今、彼の「死」はもちろん悲しいことですが、それ以上に彼
の「生」に元気をもらっていた自分に気付かされています。何のために生きて
いるのか。生きるためではなく、何かをするために。何かを楽しむために。誰
かの役に立つために。生きることの意味を僕に教えてくれたパト。パトの死は
改めてパトの生を実感させてくれています。
 RIP(Rest in peace)


┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 
┃ パトリックのお別れ会のお知らせ
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 

 
DISCO BABY FINAL
  ~ Tribute to DJ PATRICK Memorial Party ~
 
日時:2013/5/6 17:00?24:00
 場所:東京都渋谷区渋谷3-26-16
    Tel:03-3486-6861
    amate-raxi(アマテラグジイ)
    http://www.amrax.jp/access/
    \1500/1D
 
岩室は17:00~19:00あたりいる予定です。

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☆岩室先生宛の質問も cai@circus.ocn.ne.jp 受け付けています。 
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最新号 2017/04/01
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