紳也特急

紳也特急 vol,163


カテゴリー: 2013年03月01日
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 全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を
        精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース!

性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を
                                         専門家の立場から鋭く解説。
                    Shinya Express (毎月1日発行)

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~今月のテーマ『伝えるためには』~

●『反省』
○『経験を伝えるのが基本と言いつつ』
●『こころをつかむために』
○『命の大切さの伝え方』
●『命の大切さが伝わった』
○『何歳ですか』

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●『反省』
 先日、香川県と香川県看護協会に呼ばれ、HIV/AIDSの講演を午前午後とし
てきました。午前中は私がHIV/AIDSだけではなく、性について何をどう伝え
るかという専門職を対象にした講演をし、午後は私の患者さんで妊娠時にHIV
感染が判明した石田心さんとのトークでした。午前の講演も、午後のトーク
もいろんなところでやっていますので、それなりにそつなくこなし、会場の
方にとっても、そして石田心さんにとっても、もちろん私にとってもいい時
間、いい場となりました。ただ、良く考えてみると今回のように大人や専門
職向けの講演と、若者を含めた対象へのマイク一本でのトークを組み合わせ
た研修会はあまりやってきませんでした。そして、ある人の一言が最近の私
の講演姿勢にとって大いに反省事項となりました。「午前中の講義の中で、
先生がおっしゃっていたことが午後のトークを聞かせてもらってやっとその
意味がわかりました」という感想でした。正直なところ「ありゃりゃ」と同
時に「反省」という言葉が頭の中を駆け巡っていました。
 子どもたちに何かを伝えたいのであれば、あまりPowerPointなどの映像に
とらわれるのではなく、できるだけ耳から入る情報で伝えた方がよりこころ
に残ると思っています。そのため、私は生徒さんに講演するときは基本的に
マイク一本で話すようにしています。以前の大人向けの講演では実際の私の
生徒さん向けの講演を紹介しつつ、その講演に込めた思いを加えて話してい
ました。しかし、そのような私の講演を聞くと「岩室先生のように上手に話
せないから」とかえって消極的になる人が少なくなかったので大人や専門職
向けの講演スタイルを変え、岩室紳也が講演の中で伝えたいと思っているこ
とや、そのような思いの背景となることを話すようにしていました。しかし、
気が付けば大人向けの話が、その聴き手である大人たちがその後自ら語るこ
とを想定していなかった、というか、そこまで丁寧に面倒を見るような構成
になっていなかったと反省させられました。
 そこで今月のテーマは「伝えるためには」としました。

『伝えるためには』

○『経験を伝えるのが基本と言いつつ』
 子どもたちが大人からの話で一番聴きたいのはその人の経験です。ただ、
経験を伝えることが大事ということは言い続けて来たものの、あなたの経験
に基づいて「何を、どう伝えてくださいね」ということを丁寧に説明してい
ませんでした。そのため、結果として私の大人向けの講演を聞いていただい
た方は「総論はわかったけど、で、自分はどうしゃべったらいいの」という
壁にぶつかっていたのではないかと気付かされました。
 そのことを改めで気付かせてくださったのが、ある講演の後、養護教諭仲
間でつくった性教育用の教材をいただき、是非コメントをくださいと言って
くれた養護の先生でした。その先生は私の大人向けの話だけではなく、いろ
んな場面で私の話を聞き、一度自分の学校の生徒さんに話してほしいと学校
に招いてくださいました。生徒向けの講演自体は大変楽しい雰囲気の中で終
わり、その先生にも、校長先生にも満足していただけたようでした。
 いただいた教材のDVDは非常に丁寧に作られていていい教材だと思ったの
ですが、自分が講演した直後に見せてもらったので思わず「岩室紳也の講演
と教材を対比し、どこが共通し、どこが異なるのかを検証してみてください」
とお伝えしました。ちょっと厳しい指摘と思った方がいらっしゃるでしょう
が、私としては、学校で教師が行う性教育と外部講師(岩室紳也)を招いて
の性教育の違いをぜひ分析し、いい意味で役割分担をしたいと思った次第で
す。と同時に、教育現場でつくる「教材」に「経験」に基づく話を入れるこ
とは難しいことをあらためて思い知らされました。それこそ性感染症や望ま
ない妊娠という「経験」を盛り込んだストーリーをつくると、そもそもその
教材自体が否定されてしまいます。そのことを理解し、学校の教員は教科書
を中心としていわゆる理論的なことを伝え、外部講師や教材を使わないアド
リブでは経験を盛り込むという役割分担が必要だと思いました。では、具体
的にどのように「経験」を盛り込めばいいのでしょうか。

●『こころをつかむために』
 この時期は卒業前の講演ラッシュです。医者になって間もなく丸32年。性
教育を始めて四半世紀以上。これだけ長くやっているといろんな知り合いが
できます。先日ある中学校に、それこそ20年近く前から知っている養護の先
生に呼ばれてお邪魔した時のことでした。いつもはすごく元気な、素敵な笑
顔のその先生がこれまでとは違う雰囲気で、すれ違った生徒さんに大変厳し
く、ちょっときつく当たるような感じで迎えてくれました。すぐに思い出し
たのですが、その日に講演する学年は入学した時から、というか小学校時代
からいろいろ問題があるということを聞かされていました。入試や卒業直前
になってもいろいろと大変な生徒さんたちだったようで、私の話を前任校で
聞いたことがある学年主任の先生は、「チャンピオン君を使ったコンドーム
の話をすると、かえって茶化して行動をエスカレートするのではないだろう
か」と心配されていたそうです。そのような、ちょっと心配な状態で講演会
場に入りました。
 会場にいる生徒さんをパッと見渡しただけで、「あの子」と「あの子」と
「あの子」に先生たちが手を焼いているんだなとわかります。講演の時にこ
のような子たちと目を合わせただけで「何とかなりそう」と思える子たちと、
「厳しいな」と思ってしまう子たちがいますがその日は「何とかなりそう」
と思いました。と同時に、この講演で私もまた新たな気づきをいただきまし
た。

○『命の大切さの伝え方』
 最近の私の話は自分が経験した「死」から始まることが多くなっています。
しかし、「講演には必ず『死』の話をこのように具体的な、身近な例で入れ
ましょう」と言わない限り人はそうしようとは思わないようです。よくよく
考えてみれば、私の性やHIV/AIDSの講演の中では最低でも5人ぐらい亡くなっ
た人の話が出ますが、これだけの経験をしている人はそうはいないでしょう。
また、プライバシーに配慮しつつ、聴き手の心に響く話のネタというのはそ
う簡単に作れるものではないのかもしれません。
 しかし、事例の話だけをしても「特殊な人」に起こった「特殊な出来事」と
思われる可能性があるので、学校では校長先生を捕まえて、「あってはなら
ないことですが、校長先生が万が一今日の帰り、交通事故で亡くなったとし
たらどのようなお葬式を出されますか」と投げかけるようにしていました。
しかし、その日は校長先生もおられず、講演会場には年配の先生もおられず、
身近にいた、やんちゃな子の見張り番のような先生(おそらく担任か副担任
の先生だったと思いますが)に同じ質問を振りました。すかさず「家族だけ
でこじんまりしたお葬式でいいです」という答えだったので「だめです。少
なくともここにいる全員が出席し、先生が亡くなるとどれだけ多くの人が悲
しみ、涙を流すかを経験できるようにしてください」と切り返したところ、
一番反応していたのがやんちゃな子たちでした。もし校長先生がその場にお
られ、私が他の学校と同じように校長先生に質問を振っていたとしても、や
んちゃな彼らにとって校長先生はかなり遠い存在です。しかし、担任として、
あるいは日々の生活指導で厳しく指導してくれている先生がいなくなるとい
う私の投げかけはそれなりに心に響いたようでした。これからはもっと若い
先生に質問をした方がいいのかなと思った次第です。
 
●『命の大切さが伝わった』
 感想にこんなことを書いてくれた生徒さんがいました。
 「医者とはどういう仕事?何をしているの?」という質問に「人を助ける
仕事」と答えたのに対して岩室紳也さんは「そうだよ。人を助ける仕事だよ。
でもそれだけではなく人間の『生』と『死』という大事な場面に立ちあえる
仕事だよ」というのを聞いて、改めて医者という仕事の素晴らしさを知るこ
とができました。すべてが良いことではないということを改めて感じました。
このことが一番印象に残りました。(高1男子)
 すごくうれしい反応でした。事例を通して学ぶことの大切さを伝え続けて
いますが、岩室紳也医師という事例を通して、医師が遭遇する「生と死」と
いう経験を伝えたいと考え前述のような問いかけをするようにしていますが、
その思いをそのまま受け止めてくれたことに感謝です。

○『何歳ですか』
 前述のやんちゃな子たちへの講演が予想以上にいい雰囲気で進み、終わった
後にそのやんちゃの一人が「何歳ですか?」と聞いてきたので「何歳に見え
る?」と聞き返したら「52歳」と言ってくれました。「57歳」と言うと「若
い!」という周りの声に思わずうれしくなり、その彼にパンフレットをプレ
ゼントしていました。受け取る彼は普通のいい子でした。
 15歳の彼らから見れば42歳も年上はそれこそ「おじいちゃん」世代です。
しかし、3世代同居もせず、学校にもその世代の教師の方に直接接する場面
が少なくなっている中で、見ただけで「老い」や「死」がイメージできる世
代になったわれわれ中高年こそ、歳をとったことを逆手に、一つの経験とし
て若者たちに伝える必要があるのかなと思いました。
 57歳というとそろそろ引退を考えないといけないと思っていましたが、若
者たちに「加齢」や「老い」を伝えられる現役の世代としてこれからも頑張
らないといけません。がんばれ高齢者!!!
 


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