紳也特急

紳也特急 vol,160


カテゴリー: 2012年12月01日
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 全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を
        精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース!

性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を
                                         専門家の立場から鋭く解説。
                    Shinya Express (毎月1日発行)

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~今月のテーマ『治療で予防???』~

●『思考回路が変わった?』
○『セックスでうつすリスクとは』
●『ウイルス量を下げることが最優先か?』
○『薬剤耐性ウイルス』
●『制度も活用できない』
○『なぜ外国では「治療で予防」か』
●『本人の治療のインフォームドコンセント』
○『「治療で予防」のインフォームドコンセント』
●『今年も福山雅治の魂ラジに』

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●『思考回路が変わった?』
 高校生の女の子から「彼氏じゃない人にSEXしよって言われました。私は
いやです。どうやって断ればいいのですか?」という相談が来ました。
 いやなものはいや。これが常識の世代には理解できない質問です。しかしこ
の女の子は真剣でした。「いやです」という言葉を知らないわけではないので
何らかのパワハラ関係なのかと思って確認したら、何とその相手は彼氏の友達
でした。確かに友達の彼女をかわいいと思い、それこそセックスをしたいと思
うことはどんな男にもあるでしょうが、そのことを口に出したりしなかったも
のです。しかし、この常識はいまの若い人たちには通用しないのかと思ってい
たら、「彼氏はそのことを知っていて気まずいです」とのことでした。これま
た不思議ですよね。「俺、お前の彼女にエッチしようと言っているんだ」とで
も話しているのでしょうか。もしそうなら彼も「あいつは俺の彼女だ。お前何
考えているんだ」と言えばいいし、彼女にも「それならなおさら断らないと」
と言ったら「でも、その人にいやっていうと、彼氏に言うぞって脅されてほん
とに怖いです」とのことでした。もうすでに彼氏は知っているんですよね。そ
の上で彼女が断ったとなればかえって彼氏は喜ぶはずですがどうもそのことは
理解できないようで、彼女の思いの終着点は「どうやったら仲良くなれますか
?」でした。
 人の思考回路はなかなか理解できないものです。理屈で考えてもらおうとし
ても、こちらの理屈はあくまでも「こちらの理屈」であって、相手が理解する
のは結構難しいことって多いようです。
 11月24日~26日に横浜で開催された日本エイズ学会で発表された治療指針の
中で、「性的パートナーへのHIV感染のリスクを有する患者」はHIVを抑える治
療を始めるべきだと推奨しています。その理由は治療で予防が可能になるから
です。しかし、そこには様々な問題が潜んでいます。このことを何度となく発
言してきているのですが、私の理屈は理解されません。どうも思考回路が他の
人と異なるようです(笑)。そこで自分の論点を検証する意味で今月のテーマ
を「治療で予防???」としました。

『治療で予防???』

○『セックスでうつすリスクとは』
 HIVを持っている人がコンドームなしでセックスをすれば当然のことながらパ
ートナーに感染させる可能性があります。しかし、実は同じくHIVを持っている
人でも、本人の精液、腟分泌液等の体液中に含まれているHIVの量で感染する確
率が異なることは以前から常識でした。HIVの感染が広がり始めた頃から、HIVを
持っている未治療の男性がコンドームなしの性交渉でパートナーを感染させる確
率は1%、100回に1回と言われてきました。しかし、精液中のHIVの量が多ければ
当然のことながら感染確率は高くなりますが、精液中のHIVの量を検査すること
は日常診療ではありません。しかし、血液中のHIV量と精液中のHIV量は相関する、
すなわち血液中にHIVが多い人は精液中にも多いことがわかっていますので、血
液中のウイルス量が感染リスクを左右することになります。実際に1ml中のウイ
ルス量は高い人だと100万コピー(ウイルスの量は何匹ではなく何コピーと数え
ます)から1000コピーと1000倍近い差がありますし、治療をすると多くの人は20
コピー未満になります。すなわち、100万コピーの人と10コピーの人ではウイル
ス量は10万倍違うことになり、当然のことながら10コピーの人の方が相手に感染
させる確率が低くなります。

●『ウイルス量を下げることが最優先か?』
 血液中のウイルス量を下げることで体液中のウイルス量を下げることができ、
結果的にパートナーに感染させるリスクは大きく下げられることは日常の診療の
中では次のような場合に役に立ちます。男性がHIVに感染しているが女性が感染し
ていないカップルが妊娠を希望される場合、女性への感染予防が課題になります。
そのため、男性の精液中のHIVを完全に除去する方法が開発され、日本では都内と
新潟の病院で実際に臨床応用されています。しかし、このような人工授精ではな
く、自然な形で妊娠を希望される方もいます。その場合、男性がHIVを抑える治療
をすることで、血液中のウイルス量を可能な限り下げておき、体外受精ではない
状態で、かつパートナーに感染させないで妊娠を成立させた人たちもいます。こ
のように治療をすることでパートナーが感染する確率を大きく下げられますが、
抗HIV療法を開始することはいいことばかりではありません。

○『薬剤耐性ウイルス』
 一番の問題は薬剤耐性ウイルスの増加です。HIVを抑える薬は30種類以上開発さ
れていますが、今の段階では一度感染したウイルスを完全に体内から除去するも
のはありません。そのため、今のところHIVを抑え続けるために3種類以上の薬を
ずっと服薬しなければなりません。しかし、薬を飲み忘れると、血液中の薬の濃
度が低くなり、薬が効かない薬剤耐性ウイルスが出現することがあります。一般
的に薬剤耐性ウイルスは20回に1回のみ忘れると出現すると言われていますので、
ちゃんと飲めない人は結果として自分の治療が上手く行かなくなるだけではなく、
薬剤耐性ウイルスをパートナーに感染させる可能性があります。

●『制度も活用できない』
 今の日本ではHIVに感染していると病状により身体障害の1~4級の障害者認定が
受けられます。当然のことながらより重い障害に認定されているほど使える福祉
制度が多くなります。さらに住所地によって同じ障害者認定であっても受けられ
る補助が異なります。例えば医療費の自己負担額を補助する制度も住む場所によっ
て自己負担がゼロから最高月額2万円と異なるケースが出てきます。
 障害者認定を受けなければ毎月何7万円近くという自己負担になるため、いきな
り治療を始める医者はいないとは思いますが、早期発見が進み「治療で予防」を優
先すると、今後は一番低い4級を取得できる状態になってすぐに治療を開始する人
が増えると考えられます。しかし、福祉予算を削減するため、最近は4級や3級で自
己負担額を増やす自治体が増え、結果として治療を継続しない、継続できない人が
増え、耐性ウイルスが増加するのではないかと懸念しています。

○『なぜ外国では「治療で予防」か』
 ではそもそもなぜ外国でこのような話が出てきたのでしょうか。HIV感染症の予
防は簡単で、ノーセックスかコンドームです。ノーセックスは大変難しいことなの
でコンドームの使用を徹底したいのですが、実際には大変難しいことです。国に
よってはそもそもコンドームが入手できない、あるいは入手困難な人たちが少な
くありません。コンドームが入手できる環境であっても感染しているご本人が
「コンドームを使おう」となればいいのですが、そもそも自分がHIVをパートナー
に感染させることを意識できない人たちが少なくありません。そのために感染拡
大防止のためにはとにかくうつす人の体内のHIV量を抑えようという考え方にな
るのはよく理解できます。しかし、日本ではそのあたりをご本人にどう説明する
のでしょうか。

●『本人の治療のインフォームドコンセント』
 HIVに感染している人にとって、基本的に治療をすることは免疫力が改善され、
様々な合併症を起こさずに済むことがわかっています。免疫力が低下する日和見
感染症は免疫力を改善させることで予防ができることは間違いありません。また
最近わかってきたことが、HIVに感染し続けることで体の中で慢性的に炎症が起
こる結果、様々な問題(がん、脳血管疾患、腎機能障害、骨折等)が起こること
が指摘されています。HIVに感染して治療していない50歳代の人の血管はHIVに感
染していない70歳代の人の血管と同じであると言われ、若い人が心筋梗塞や脳卒
中になりやすいと言われています。そのため、早期発見早期治療というのは本人
にとって決して悪いことばかりではありません。

○『「治療で予防」のインフォームドコンセント』
 しかし、「あなたがパートナーにうつさないためにあなたがHIVを抑える治療
をした方がいいですよ」と言われたら、あなたはどうしますか。薬の副作用も少
なくないので「うつさないためだけだったらコンドームを使います」とならない
でしょうか。
 T as P(Treatment as Prevention)の根拠として、感染している人が治療を
していないカップル群と、感染している人が治療をしているカップル群を比較し
たところ、治療をすることで感染率を96%の人で予防ができたという論文が権威
のあるThe NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINEという雑誌に掲載され、この論文
がScienceという権威がある雑誌のBreakthrough of the Yearに選ばれました。
しかし、この論文はあくまでもheterosexual、すなわち異性間性的接触での話で
す。もともと感染しにくい異性間で治療をすることでさらに感染するリスクを減
らした事実を証明したことはすごいことですが、このことをいきなりMSMが多い
日本に持ち込むのは乱暴というしかありません。

●『今年も福山雅治の魂ラジに』
 このメルマガが配信される12月1日は世界エイズデーです。マスコミもいろん
な視点でHIV/AIDSを取り上げてくれますが、私もいくつかのメディアで話をさせ
ていただきます。一番長くしゃべっているのがFMのJFN系列のTHINK ABOUT AIDS
を井門宗之さんとフォトグラファーの安田菜津紀さんとのトークです。安田さん
は私同様発災後から縁があって陸前高田市に入り続けておられ、今回の話は国内
外のHIV/AIDSから、被災地のことにまで広がりました。放送日は局によって様々
なですがぜひお聞きいただければと思います。また、12月1日にWOWOWが無料放送
の日になり、桑田佳祐さんのAAA(Act Against AIDS)のライブの中でHIV/AIDSの
ことをコメントしています。
 今年もニッポン放送系列で放送される「福山雅治の魂のラジオ」に出演します。
放送日は12月1日23時30分からで、いつものことながら「最近のHIV/AIDSの状況
を教えてください」と質問されると思います。毎年そうなのですが、日本エイズ
学会が11月末に開催されることが多いため、そこでの議論や話題を紹介すること
が多いのですが、今年は私の患者さんにもいらっしゃるHAND(HIV Associated
Neurocognitive Disorder:HIV関連神経認知障害)と言われるHIV感染がもたらす
認知症の話をします。HIV/AIDSは治療で「死」をかなり回避できるようになった
ものの、これからは「障害」と向き合う時代になってきたのかもしれません。学
会では治療でHANDが改善したという報告もありましたが、長い目で見た時に障害
の予防に治療がどれだけ効果的なのかはこれから検証することになります。
 いずれにせよ感染しないのが一番なので、するなら着けようコンドーム!


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最新号 2017/04/01
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