紳也特急

紳也特急 vol,151


カテゴリー: 2012年03月02日
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 全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を 
        精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース!  
  
性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を 
                                         専門家の立場から鋭く解説。 
                    Shinya Express (毎月1日発行) 

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~今月のテーマ『「罪に罰」では予防はできない』~ 

●『まもなく1年』 
○『裁く側の責任』 
●『少年院収容者の5割が児童虐待を受けた』 
○『被災地の出来事も他人事に』

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●『まもなく1年』 
 ちょうど1年前、2011年3月の紳也特急で「こころを病むプロセス」というこ
とを書いていました。その直後の3月11日に東日本大震災が起こり、気が付けば
私は毎月のように岩手県陸前高田市や宮城県女川町にお邪魔し、被災地でのこ
ころのケア、自殺予防を考える立場になっていました。これまでもいろんなこ
とに首を突っ込んできましたが、結局のところ、すべてのことがつながってい
て、これまでやって来た一つ一つのことが、自分自身の経験が、被災地に、被
災された方々に関わる上で役に立つんだと実感させていただいた1年でした。と
同時に正直なところだいぶ疲れてしまいました。紳也特急も一日遅れですみま
せん(フー)。
 被災地に入った公衆衛生関係者は様々な活動をしましたが、その中でも被災
地の方々のこころのケア、自殺予防に向けた取り組みが効を奏したというデー
タが発表されました。平成22年と平成23年の都道府県別自殺死亡率を比べると、
全国 24.7→23.9、岩手県 35.1→30.1、宮城県 26.4→20.6、福島県 26.6→25.9
でした。岩手県と宮城県では前年比でかなり自殺が減ったのですが、福島県で
はあまり差はありませんでした。その理由を軽々に論じることはできませんが、
考えられる要因の一つが被災地に差しのべられた保健師さんをはじめとした様々
な人的支援でした。岩手県や宮城県では避難所や仮設住宅のみならず、直接的な
被災を受けていない人への訪問等を通したこころのケアが行われましたが、福島
県は原発事故の影響からそのような人的支援が十分ではありませんでした。もう
一つの要因は岩手県と宮城県では被災者の方々は地元にとどまり、昔からの関係
性やつながりを大事にしながら避難生活を続けられ、報道等の影響もあり、県民
全体で「被災地も頑張っているんだから自分たちも頑張らなければ」という雰囲
気が盛り上がったと思われます。一方で福島県の被災者の方々は地元を離れ、バ
ラバラに避難せざるを得ず、住民同士がお互いを支え合う環境が崩れてしまいま
した。さらに原発事故の影響が県民全体に重くのしかかり続けています。様々な
予防活動が結果として岩手県と宮城県の自殺を減らし、それが足らなかった福島
県では全国同様の結果だったのではないでしょうか。岩手県と宮城県での結果は
近年にない「予防対策の成功例」です。もちろんこれからも丁寧に被災地のここ
ろのケア対策を講じていかなければ3.11という時期のフラッシュバックなど、い
つ自殺が増えても不思議ではないほど被災地には様々なストレスが蔓延していま
す。
 そんなことを考えていたら、1999年(平成11年)4月14日に山口県光市で発生し
た母子殺人事件で犯行当時に18歳だった犯人に対して最高裁は死刑という判決を
下しました。マスコミは犯行当時18歳だった被告を死刑にすることの是非につい
ていろいろ報道していました。しかし、どの報道機関もこのような事件の再発を
予防するにはどうすればいいのかという視点で報道していません。おそらく多く
のマスコミ関係者は「あんな事件を起こすのは特殊な奴だ」。「親の顔が見たい」。
「うちの子は大丈夫」と他人事(ひとごと)のように考えていたのではないでしょ
うか。しかし、事件の再発予防を真剣に考えないとまた同じような事件が繰り返
されるだけです。そこで今月のテーマを「『罪に罰』では予防はできない」とし
ました。

『「罪に罰」では予防はできない』

○『裁く側の責任』 
 死刑というのは国が、国民が人を裁き、命を奪うことです。その是非について
は敢えて言及しませんが、人を裁き、その命を奪うのであれば、その一方でその
ような事態を少しでも減らす努力をすることもまた国の、そして国民の責務では
ないでしょうか。犯罪予防のために罪に対して罰が制定されている。そう思って
いる方はぜひ罰の効果を、罰があることでどの程度罪を予防できているのかの評
価してください。
 2011年12月16日、長崎県西海市で千葉県在住の23歳の女性の27歳の元交際相手
が女性の母親と祖母の二人を殺害した事件。本当に気の毒な結果ですし、明日は
わが身ということを思い知らされた事件です。しかし、ここでもマスコミは女性
の父親から相談をうけた警察の対応に問題があるということだけを取り上げてい
ます。そもそも警察が連携したとしても、今の法律でこの男の行動を制限し、事
件の発生を本当に予防できたのでしょうか。そのような議論と同時に、どうして
このような男が次々と出てくるのか。どうすればこのような男が出てくるのを予
防できるのかを考える必要があるのではないでしょうか。
 警察対応、厳罰主義で予防できるものもあるでしょう。実際、飲酒運転の厳罰
化後、飲酒運転が少しは減ったようですが決してゼロにはなりません。自分は飲
んでも大丈夫と飲酒運転による事故は「他人事」と思っています。もちろん多く
の健全な飲酒者(?)のために今でもお酒は売られています。厳罰化だけでは飲
酒運転が減らないのでいろんな手段で少しでも飲酒運転を減らす努力が繰り返さ
れています。厳罰の最たるものである「死刑」があっても結果的に死刑囚はなく
なりません。だからこそ死刑になった人たちに学び、次なる犯罪を、死刑囚を減
らす努力が求められます。

●『少年院収容者の5割が児童虐待を受けた』 
 光市の事件の犯人についてマスコミは母親の自殺、父親からの虐待といった成
育歴に原因があるのではないかと報道しています。犯人が今回の犯行に至った要
因は一つではないでしょうが、われわれは本人の成育歴に学び、同じようなリス
クを抱えている人たち自身をどう守り育てるか、支えるか、地域全体で育児をす
ることで虐待の芽をどう摘んでいくかなどを考える必要がありますが、そのよう
な地域づくりは容易ではありません。ただ、岩手県や宮城県の自殺の減少のよう
に、地域でのつながり、関わり、絆づくりは一人ひとりのこころの健全化に役立
つことは間違いありません。法務省は裁く立場でしかないのかもしれませんが、
同じような事件を予防するためにもぜひとも厚生労働省等と連携してもらいたい
ものです。
 2001年8月10日の読売新聞の記事に「少年院収容者5割児童虐待受けた」という
のがありました。光市での事件の後の報道ですが、その頃から私は「本気で児童
虐待対策をしなければ次の被害者はあなたですよ」と言い続けてきましたが、ご
存じのように児童虐待相談件数は増え続けています。児童虐待対策も「罪と罰」
のように「虐待通報後の保護者の指導」や「育児不安に対する相談」と課題が見
えてから対処する後追い対策だけです。このように場当たり的、素人的な対応し
か行われないのは結局のところ対策を指示する人たちにとって児童虐待は「他人
事」だからです。光市の事件も多くの人にとって「他人事」です。「自分事」だっ
たら「(もしかしたら自分が犠牲者になるかもしれない)次なる犯罪の予防」を
切に求めるはずです。でも「あり得ない」と思っていますよね。それとも「予防
方法がわからない」と考えることを放棄しているのでしょうか。
 そう言えばエイズパニックの頃、コンドームを子どもたちに教えることに反対
した人たちも「うちの子に限って」と他人事意識だったことを思い出します。歴
史は繰り返されるのです。

○『被災地の出来事も他人事に』
 被災地では復興計画はできたものの、生活再建は程遠い状況です。被災地には
まだ瓦礫が山積みですが、全国のほとんどの自治体は東北の瓦礫を引き取りませ
ん。たった1年前に悲惨な光景を何度も何度も目にしたにも関わらず、明日はわが
身と思えない他人事意識がもう日本中に蔓延しているようです。私が住んでいる
神奈川県も受け入れを拒否しました。もしこれを民意と考え尊重するのであれば、
黒岩知事さんには「残念ながら神奈川県民は東日本大震災の惨状を他人事のよう
にとらえています。大変悲しいことですが、これが神奈川県民の判断ですので、
今後万が一神奈川県が大規模災害に遭った時には全国からの応援はぜひとも辞退
し、発生した瓦礫はすべて神奈川県内で処分します」と宣言してもらいたいと思
います。
 かなり乱暴な言い方かもしれませんし、「ただの瓦礫と違って放射能の問題も
ある」と反論する人もいます。それなら電力を使っている一人ひとりは原発を福
島県に作らせた責任があります。電力も使わない。今後一切の援助もお断りする。
このように極端なことを言わないと理解されないのでしょうか。もっとも他人事
意識というのはそのような論理では変えられないほど重症な自分中心主義病なの
かもしれません。これをどう予防するか。一人でも多くの人と関わり、一つでも
多くの経験を積むことに尽きるのでしょうね。経験不足が他人事意識、自分中心
主義病を生んでいるようです。あなたは大丈夫ですか。

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