農業文化マガジン『電子耕』

『電子耕』No.243-2008.09.18号


カテゴリー: 2008年09月18日
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隔週刊「農業文化マガジン『電子耕』」  第243号
−環境・農業・食べ物など情報の交流誌−
2008.09.18(木)発行      山崎農業研究所&編集同人
<キーワード>
環境・農業・健康・食べ物などの情報提供、高齢者と若者、農村と都市の
交流ミニコミ誌。山崎農業研究所&『電子耕』編集同人が編集・発行。
http://www.yamazaki-i.org
*************************************発行部数  1287  部***************
□  目  次    □----------------------------------------------------
<巻頭言> 野口勲著『いのちの種を未来に』に思う 安富六郎
<読者の声> 大山勝夫さん
<83歳からのメッセージ> 小林多喜二著『蟹工船』案内 原田 勉
<編集後記> ‘固定種は文化である’
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<巻頭言> 野口勲著『いのちの種を未来に』に思う
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 第33回山崎記念農業賞(2008年)を受賞された野口勲さんが『いのちの種を
未来に』という本を出版された。これは地域の食文化を大切にするために「日
本の野菜を味の良い固定種に戻したい」という願いで、書かれたそうである。

 この固定種は気候風土の中で育ち、独特の味と香りを持って地域の食文化に
特色を与えてきたという。ところが最近、ほとんどの野菜は大企業規格でつく
られた F1という統一品種であり、味質も見栄えも同一規格品になっている。

 大量生産・大量消費、それに乗れないものは異端視される。現代の市場原理
は野菜市場にまで浸透している。大学・研究機関でも儲けにならないような独
創性はあまり尊重されない。地味な基礎研究は孤立してしまうか、成り立たな
い時勢である。

 世の中にはいろんな意見がある。その意見の多様性が世の中を安定なものに
しているといわれている。生態系はその典型で、種の単一化は自然環境を安定
な持続性と復元性を損ねることになる。一つの意見だけ正しくて、それ以外は
無視され、あるいは誤っているという考え方も、どこかおかしい。その根っこ
は生態系と似ている。

 本を読むうちに身近にさまざまな品種のキュウリのあることを知り、その特
徴の説明の幾つかを勘案して味のよい固定種をスーパー店で探してみた。しか
し、見当りそうにない。

 儲かれば毒物入り食品でも売るという時代に、いまは主流でなくなった固定
種の魅力をこの本から発見できれば、地産地消の食文化の意味と食の安心、安
全性の大切さを感ずるだろう。この本は読者を引き込む力を持っている独創的
な本である。

  野口勲著『いのちの種を未来に』
  186頁 A5判 定価(本体1500円+税)
  ISBN978-4-88340-223-6 C0061
  http://www.soshinsha-pub.com/s-223.html

安富六郎
山崎農研会員 電子耕編集同人
yamazaki@yamazaki-i.org

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<読者の声>
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■大山勝夫さんから:汚染米輸入事件の本質

この数日、三笠フーズの「事故米」不正転売にかかわる問題が波紋をよんでい
る。そもそも、この原因をたどれば1993年のウルグアイ・ラウンド合意で、
国産米を保護する代わりに輸入を義務づけられたミニマムアクセス米(MA
米)だ。

政府は外国から毎年、MA米を買い入れ加工用、業務用として利用されたが、
在庫はだぶつき、保管や処分に金がかかる厄介者だった。MA米のうち輸送中
などに傷んだコメを政府は「事故米」として食用以外に限り、業者に安く売っ
てきた。

本来、輸入した農産物が汚染されていたら輸出元につき返すべきではないか。
それを「事故米」などといって国内で流通させることはいかがなものか。

MA米受け入れを強いられた当時(1993年)とはコメの国際価格の高騰な
ど世界の食糧事情は大きく変化した現在、「事故米」問題を契機として貿易交
渉の枠組みやわが国の農業戦略そのものから考え直す秋ではなかろうか。

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<83歳からのメッセージ> 小林多喜二著『蟹工船』案内
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 この本が初版の時、私はメーデー事件の疑擬者として追われていたので、眼
を通すことができませんでした。

 あとで、映画「蟹工船」(監督・脚本:山村聰)を見た思いがあり、強烈な
感動を覚えました。とくに労働者を帆桁にくくりつけ、さらしものにした画面。
味方と思っていた日本帝国軍艦の水兵が銃剣で、労働者を弾圧した画面は、た
まらなく残念な印象が残っています。

 この度、原作に接し、なお、プロレタリア文学の偉作と思いました。


 あらすじはこうです。
 ソビエト領カムチャッカの領海に侵入してカニを取り、これを加工して缶詰
にするため一群(母船と川崎船数隻の組み合わせ)の蟹工船はどれもボロ船で、
しかも「航船」でないために航海法は適用されない。そこに季節労働者として
北海道で雇いいれられる百姓・坑夫・漁師・土方・学生・貧民街の少年たちは、
すべての人間的権利を剥奪されて、会社の利潤と帝国の「国策」のために言語
に絶して虐使される。
 
 蟹工船博光丸に会社から派遣された監督の浅川は友船のSOSを無視し、他の
船の張った網を引き揚げてその収穫を横取りするなどの破廉恥漢であるが、彼
は自分の成績を上げるために、労働者に過酷な残業を強い、病人を放置し、
「焼きを入れ」、死人に対してさえも最小限の礼をつくそうともしない。

 このような非人間的な搾取に耐えかねた労働者は、自然発生的にサボタージ
ュに入るが、そのうちから何人かの代表があらわれて、ついにストライキにま
で発展する。

 ストライキは団結の力で成功するかにみえたが、蟹工船を護衛していた駆逐
艦から銃剣を擬した水兵が乗り込んで来て、労働者が自分たちの仲間だと信じ
ていたこれら水兵によって代表の九人が駆逐艦に護送されてゆく。

 
 労働者が船に入ったとき、浅川監督が皆に告示したことは、この蟹工船のね
らいも明言していた。

「分かっているものもあろうが、云うまでもなく蟹工船の事業は、ただ単に一
会社の儲け仕事と見るべきではなくて、国際法上の一大問題なのだ。我々が、
我々日本帝国人民が偉いか、一騎打ちの戦いなんだ。それにもしもだ、そんな
事は絶対にあるべき筈がないが、負けるようなことがあったら、睾丸をぶらさ
げた日本男子は腹を切って、カムサッカの海の中にブチ落ちることだ。身体が
小さくたって野呂間な露助に負けてたまるか。」

 「それに我がカムサッカの漁業は、蟹缶詰ばかりでなく、鮭、鱒と共に国際
的に云って、他の国とは比べものにならない優秀な地位を保って居り、また日
本国内の行き詰まった人口問題、食料問題に対して、重大な使命を持っている
のだ。こんなことしゃべったって、お前らには分かりもしないだろうが、とも
かくだ、日本帝国の大きな使命のために、俺たちは命を的に北海の荒波を突っ
切って行くのだということを知って貰わなければならない。だからこそ、あっ
ちへ行っても始終我が帝国軍艦が我々を守っていてくれることになっているの
だ。・・・それを今流行りの露助のまねをして、とんでもないことをケシかけ
るものがあったら、それこそ、取りも直さず日本帝国を売る者だ。こんなこと
は無いはずだが、よく覚えておいて貰うことにする」


 しかし、労働者は、一回の失敗にかかわらず、「もう一回だ」と立ち上がっ
た。

 このあと二度目の、完全なサボタージュはまんまと成功したということ。
「まさか」と思っていて面食らった監督は、夢中になって無電室に駆け込んだ
が、ドアーの前で立ち往生して、どうしてよいかわからなくなった。

 漁期が終わって函館港に帰港したとき、「サボ」をやったりストライキをや
った船は博光丸だけではなかった。二、三の船から「赤化宣伝」のパンフレッ
トが出た。

 それから監督や雑役夫長等が、漁期中にストライキなどのごとき不祥事を惹
起させ、製品高に多大な影響を与えたという理由のもと、会社があの忠実な犬
を「無慈悲」に涙銭一文もくれず首を切ってしまった。面白いことは「あーあ、
口惜しかった俺ァ今まで会社にだまされていた」とあの監督が叫んだというこ
とだ。

 そして「組織」「闘争」・・・この初めて知った偉大な経験を荷って、漁夫、
年若い雑役夫等が、警察の門からいろいろな層へ、それぞれ入り込んで行った
ということ。

 この一扁は「殖民地に於ける資本主義侵入史」の一頁である。
 (一九二九・三・三〇)

 著者は、秋田県の貧しい農家に一九〇三(明治三六)年に生まれ、伯父の世
話で小樽高等商業卒、北海道拓殖銀行に就職し、二九年に解雇されるまで勤務
した。志賀直哉に傾倒してリアリズムを学び、その後、プロレタリア文学に目
覚め、労働運動にもかかわる。雑誌『戦旗』に中篇が紹介され注目を浴び『蟹
工船』で支持を得る。以後、非合法下の共産党に入党し、左翼文学運動に力を
注ぐが、三三年逮捕され築地署で拷問により殺された。三十歳の若さであった。


『蟹工船・当生活者』新潮文庫
著者・小林多喜二 解説・蔵原惟人
http://www.amazon.co.jp/dp/4101084017/

この他マンガ本も出ている。
『蟹工船 -まんがで読破-』イースト・プレス
http://www.eastpress.co.jp/manga/index2.php#kanikousen

『マンガ蟹工船―30分で読める…大学生のための 』
http://www.amazon.co.jp/dp/4894691051/


山崎農業研究所会員・『電子耕』編集同人
原田  勉
tom@nazuna.com
http://nazuna.com/tom/


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<編集後記> ‘固定種は文化である’
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‘固定種は地域の風土と農家、そして種屋によって育まれた文化である’

野口勲さん(第33回山崎記念農業賞受賞)は新刊『いのちの種を未来に』のな
かでこんなふうに言う。食文化というのはしばしば聞く言葉であるが、種の文
化というのはそうそう聞かない。

しかし考えてみれば、種はまさに食の出発点である。種なくして農も食もあり
えない。そういえば、昔の農家は、種とりをしてはじめてひとつの農作業が完
結したと感じていた、という話を聞いたこともある。

食(消費)と農(生産)の分離が問題視されて久しいが、農のなかの分離(種
−栽培)も進んでいる。状況に流されることをよしとしない、大事だと思うも
のを大切に守り育てる。これは文化の基本だろう。とすれば、固定種の保存と
普及に取り組む野口さんは、文化の担い手そのものであるといえないか。

2008年09月18日
山崎農業研究所会員・田口 均
yamazaki@yamazaki-i.org

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