KISARAGI

KISARAGI vol.949


カテゴリー: 2018年01月28日
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K I S A R A G I vol.949                              2018/ 1/28
                                       編集/発行:みやこたまち
                       E-mail:tamachim@yahoo.co.jp
                                 http://mmkisaragi.blogspot.jp/

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通信欄:実体のないものが盗まれるこんな世の中じゃ

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今週のお話

◆ "古典へのいざない" [719]
    伽婢子《おとぎぼうこ》[28] 黄金百両 [5]
    作者 たまさん

◆ 大学ノート狂詩曲 宇祖田都子の話
    第十三回 文鳥の掴み方 2
    作者 宇祖田都子

● KISARAGIについて

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古典へのいざない [719]
伽婢子《おとぎぼうこ》[28] 黄金百両 [5]
作者:たまさん

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「明日、必ず恵んでくれるだろう。受け取ってここ最近の苦しさを慰めよう」
 妻子はとても喜び、夜が明けるのを待ちわびた。朝になると子どもを門に
出し、「銭や米を持って来る人がいたら、ここだと教えなさい」と言って待
たせた。
 しばらくすると子どもが家の中に入ってきて、「米を背負った人が来た」
と言った。急いで外に出てみると、その者は家の門を見向きもせず通り過ぎ
てしまった。兵次《へいじ》はひょっとして家を知らないのかと思って尋ね
た。
「その米は文兵次《あやのへいじ》の家がもらい受けるものではないですか」
「いいえ、これは城内から肴代《さかなだい》として遣わされた米です」
 またしばらくすると子どもが走り入ってきて、「今、銭を担いだ人が来た」
と言った。兵次が外に駆け出ると、またもや門口《かどくち》を気に掛けず
に通り過ぎた。これも家を知らないのだろうかと思って引き留めた。
「その銭は由利《ゆり》源内《げんない》殿から文兵次のもとへ遣わされた
ものではありませんか」
「これは弓削《ゆげ》三郎殿から矢作《やはぎ》の代金として送られたもの
である」
 兵次の恥ずかしさは、言葉では言い表せなかった。
(続く)
                                  ★

 借金の一部返済を約束してもらった主人公一家は、翌朝から使者を待ち受
けますが、一向に現れる気配がありません。
 続きは次回にお届けします。それではまた。

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HP
「かたかご」http://yamanekoya.jp/
 趣味で読んでいる古典文学の現代語訳と参考文献を主に掲載しています

「山猫屋本舗」http://yamanekoya.net/
 写真日記を綴っています

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大学ノート狂詩曲 -宇祖田都子のはなし
第十三回 文鳥の掴み方 2
作者:宇祖田都子

コココココココココココココココココココココココココココココココココココ

「それで、他にはどうだい? あの文から、君は他に何を引き出せた?」

 やっぱり、そうなるのか……

 こんな、飽きるほど繰り返された物語に頭の先までどっぷりとはまってし
まって、私はもう、このステレオタイプそのものを楽しめてしまうような、む
しろ、積極的に、この手垢のついたやりとりの行き着くところまでつきあって
しまおうかという、そんな変なテンションになってきていました。
 頭痛も、空腹も、お尻や背中のこわばりも、どこかずっと遠くの沙漠で日干
しになってしまえ!

「手藻蔓さん」
 ん?
「お聞かせするからには、私はもう一杯のコーヒーと、ディナーを、要求しま
す」
 ハハハハハ!
 手藻蔓さんは、今日会って初めて、心の底から愉快そうに、笑いました。そ
の笑顔の中に、私は、私の知っていた手藻蔓さんの面影を発見して、すこし安
堵したことを覚えています。「人に笑いを」そんな言葉がフワフワと漂って、
成層圏の彼方へ消えました。

 ナシゴレンのディナーセットを頼むと、テーブルの上はとてもトロピカルな
ことになりました。私はトロピカルゴハンをモリモリ食べて、トロピカルドリ
ンクをゴクゴクの見ました。手藻蔓さんは、フランスパンに何か脚のあるもの
が挟んであるサンドウィッチのセットを、羊のように食み、黒ウーロン茶で唇
を湿らしていました。
 
 表現された全ては、咀嚼されるのだ。原型と留めぬほどに……

 「『土鈴』は、とてもありふれた出土品ですね。私もそういうところが大好
きなんです。彼もその素朴さ飾らなさ当たり前さを愛し、時に法を犯してまで
収集していた。
 これは「言葉」なんですね。『文』鳥の掴み方、というタイトルに戻ると、
これは「言葉」を巡る話なのだと、私は確信しました。すると、登場人物たち
の、描写がいろいろと腑に落ちてきます。
 なぜ彼女は、伏した床からことあるごとに、軒先に下げている空っぽの
「文鳥」の籠に目をやるのか。なぜ、彼女はひたすらちぎり絵でアニメーショ
ンを創り続けるのか。そして何故、三人の間に、会話が成立しないのか」

「彼が最後に、駅前のスクランブル交差点の真ん中で、鳴り響くとうりゃんせ
を、唇だけで口ずさみながら、握り締めていた土鈴を、足元に叩きつけるシー
ンは、『太陽を盗んだ男』を呼び込んでいるのだなと感じました。不発弾。そ
う、文鳥の掴み方。やさしく扱わなければ、文鳥は潰れてしまいます。それは、
不発弾も、文章も、言葉も、同じことなんです」

「『文鳥の掴み方』は、「自らに挫折した男の絶望譚」であり、土鈴を叩き割
ることで、「絶望」の外にある「自分」を発見するといった風に読めるのかも
しれません。
 ですが、そのように「何の力もない土鈴」が、爆発するかもしれない「不発
弾」であったなら…… いや、それは「不発」なのではなく、今爆発するため
に保管されていたものなのだとしたら。「不発」でなく「時限爆弾」だったの
だとしたら……」

「私は、そういったシンボライズはあまり好みではありませんでした。そして
残念だなと思ったのですが、それもまた、仕掛けだったのではないかと思って
います。つまり、私は手藻蔓さんに、期待をしているんです」

 手藻蔓さんは、無言で煙草をくゆらしています。

 これは遊びでした。

 隠されたものがあるとしたら、それは何か。そして、そのように隠す理由と
は何か。意図的に隠されたのだとしたら、それは暴いてもらいたいものなのか、
それとも暴いてもらいたくないものなのか。または、隠す意図のなかったこと
が、隠蔽という形で、逆に顕われてしまっているのか。

「いづれにせよ、表現の全ては解読されます。それが誤解や曲解や、稚拙すぎ
たり、深読みにすぎたとしても。意味とは常に誤配される宿命にあります。多
分、伝達手段に問題があるのですね。言葉とか……」

「手藻蔓さんは、写真を生業としていらっしゃいます、いわば視覚の人です。
でも、一方では、書籍の取扱もなさっています。そして、飾らない、朴訥とし
た言葉を、丁寧にお選びになって、こうしたZINEも発行なさっています。
 手藻蔓さん。目は耳ほどにモノを聞けるとお思いになりますか?」

 手藻蔓さんは、口をヘの字に曲げました。唇のヘリで煙草が垂直になってブ
ラブラと揺れています。この空間を襞襞にしている布地は、みな、防炎認定品
なのかなということがふと気にかかりました。

「キャプションで生きる写真もあるさ。写真で一言だって、大切りとしてはお
もしろいじゃないか。アイドルグラビアに定番のポエムだって、あればそれな
りに楽しいものさ」

 手藻蔓さんの、本心とも思えない言葉を、ハハハと私は笑って誤魔化します。
実は、そういう仕事も、やったことがあったので。
 あの、ローカルアイドルTinkul/Tankulのページでに、とっても乙女なフレー
ズをいくつか……

 手藻蔓さんが煙草を消しました。灰皿から灰が溢れ、幾重にも折れ曲がった
吸殻が墜落した飛行機のようでした。

「ある意味、いや、ある意味という言い方は僕は好きじゃない。だが、それで
もある意味、と言い始めるしかない宣言というものはあるものだ」

 私は、コーヒーの香りが鼻に抜けていく感触に酔いしれながら、その言葉を
聞き流していました。

「というわけである意味、今日君をここに招くことは、七十年前から定まって
いたのだという気がする。それがなぜ七十年なのか、六十九年でも七十一年で
もなく、きっかり七十年なのかといいわれると、実はそうではない。しかし、
ここは七十年というきりのいい数字で話したほうが、余分なひっかかりがなく
ていいのだという気がしたので、七十年という概算を口にしたわけだが、それ
が概算であることをこのように言い訳しなければならなくなったことは、誤算
だった」
「どうでもいいですよ」

 心の底から言いましたよ。長い食事のあとは、洗面所にいきたいものです。

「うん。では、並木さんから託されたモノについての、レクチャーを始めたい
と思う」
「あの、そのまえに、お手洗いへいきたいのですが」
「うん。レクチャーは、スタジオで行うから、その途中にある好きなトイレに
入るといい。僕は別に君を軟禁しているわけではないね?」
「そうですね。今のところは」

 私は、そういって、立ち上がりました。一瞬眩暈がして、テーブルに手をつ
いてしまいました。そういう弱い部分を今の手藻蔓さんに見せたくはありませ
んでしたが、私はあまりにも深く、ここの空気に触れてしまっていたようでし
た。

「では、いきましょう」

 手藻蔓さんも、イスを立って同じようによろめき、不機嫌に唸りました。

「準備はしてあります」
「準備?」

 特に会計のために店員が出てくることもなく、襞に踏み迷うこともないまま
扉を出ると、西側の飾りガラスからの反映が、廊下を極彩色に彩っていました。

「色が強すぎる」

 手藻蔓さんがボソリといって、階段へ向かいます。私はエレベーターの前の
「故障中」の張り紙を見て、なんだか可笑しくなっていました。(20180128)

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星空文庫 過去作品上げていきます https://slib.net/a/20077/

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