KISARAGI

KISARAGI vol.944


カテゴリー: 2017年12月24日
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K I S A R A G I vol.944                              2017/12/24
                                       編集/発行:みやこたまち
                       E-mail:tamachim@yahoo.co.jp
                                 http://mmkisaragi.blogspot.jp/

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通信欄:年末気分

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今週のお話

◆ "古典へのいざない" [714]
    伽婢子《おとぎぼうこ》[23] 竜宮の棟上げ [13]
    作者 たまさん

◆ 大学ノート狂詩曲 宇祖田都子の話
    第八回 アガタビル 1
    作者 宇祖田都子

● KISARAGIについて

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古典へのいざない [714]
伽婢子《おとぎぼうこ》[23] 竜宮の棟上げ [13]
作者:たまさん

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 すべての宮殿・楼閣を見尽くすことはできなかった。元の宮殿に帰ると竜
王は様々にもてなし、瑠璃の盆に真珠二粒、氷のように透き通った絹二疋
《むら》を餞別《せんべつ》として渡すと、わざわざ階段の下まで見送りに
出て、役人に命じて阿祇奈《あきな》を元の世界へ送らせた。
 目をふさぐと空を駆ける心地がし、勢多《せた》橋の東にある竜王の社の
前に出た。珠と絹を持ち帰って家宝としたが、その後、名を隠して仏道に励
み、どこで死去したかは分かっていない。
(了)
                                  ★

 今回で「竜宮の棟上げ」は終わりです。ここまでのお付き合い、ありがと
うございました。
 ちなみに主人公が竜宮から戻って来た神社は、「瀬田の唐橋」の東側にあ
る「勢田橋龍宮秀郷社」で、その名の通り大神霊龍王と藤原秀郷を祀ってい
ます。
 次回からは新しいエピソードをお届けします。それではまた。

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HP
「かたかご」http://yamanekoya.jp/
 趣味で読んでいる古典文学の現代語訳と参考文献を主に掲載しています

「山猫屋本舗」http://yamanekoya.net/
 写真日記を綴っています

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大学ノート狂詩曲 -宇祖田都子のはなし
第八回 アガタビル 1
作者:宇祖田都子

コココココココココココココココココココココココココココココココココココ

 その後、ほぼ二ヶ月の間、手藻蔓さんからは何の連絡も入りませんでし
た。
それどころか、週に三度は来ていた図書館の方へもぱったりと顔をださなく
なってしまったのです。

「ミヤコちゃん。秘密主義は駄目よぉ」
 とコサカさんに勘ぐられたりするのも、内心では少々きつくなっていまし
た。
「なんか、嫌われるようなことしたかなぁ」
 エレベーターに備え付けの大きな鏡にうつる自分に問いかけてみて、
「何馬鹿なことやってんだろ」とどぎまぎしたまま、二階と地下を往復して
しまうこともありました。
 
 そして、昨日の夕方、事務所にいる私にカウンターからコサカさんが電話
を取り次いでくれたのです。

「ミヤコさん。3番外線です」
「はい。ありがとうございます」
 保留になっている受話器から、コサカさんの声が聴こえました。
「手藻蔓さんだよ」
 ハッと息をつめたところで、電話が外線につながりました。

 「もしもし。宇祖田です」
 「ああ。宇祖田さん。て、ても、手藻蔓です。覚えていらっしゃいます
か?」
 コサカさんから、「手藻蔓さんだ」と聞かされて取り次がれた電話の相手
が、自ら「手藻蔓」と名乗っているのにもかかわらず、私にはこの電話の主
が「手藻蔓空也」さんだとは信じられませんでした。

 「手藻蔓さん。大丈夫なんですか?」
 この声は、閉館間際の図書館には少々大きすぎました。主幹がチラリとこ
ちらをみて、そっと首を振りました。私は、あわてて頭を下げて受話器を持
ち直しました。

 「え? ああ。少々疲れているけれども大丈夫。それより前に言っていた
こと、君はまだ、気になっているだろうか?」

 前に言っていたこと?

 私はあわてて、鸚鵡での会話を思い返し、おそらくそれが並木さんとの関
係のことであろうと思い当たりました。あの夜から、そのことが頭から消え
ることはありませんでした。
 ただのスーツケースの行き違いでしかなかった事件の何処に、私はこだわっ
ているのか、私自身にも検討がつきませんでした。というよりも、検討をつ
ける材料が何もなかったのです。

「はい。並木さんとのことですね?」
「ああ。すこし時間がたちすぎてしまってすまない。明日の夕方、こちらに
こられるだろうか?」
「こちら、というのは、アガタビルのスタジオのことですか?」
「え。うんそうそう。よく覚えていたね。というかこの話ししたっけ?」
「いえ。鸚鵡のマスターに聞きました」
「あ、ああ。そうか。鸚鵡のね。確かに、マスターならここを知っている。
全く当たり前のことだ。問題はなにもない……」

 これが手藻蔓さんの声でしょうか? 話法でしょうか? 性質でしょうか?
 あの夜の鸚鵡での会話が、私にとっての手藻蔓さんの印象の大半です。そ
れから、主幹と話していたときの堂々とした態度と。
 この電話からは、その全てが失われているように思われました。とりわけ
大きく失われていたものは「自信」なのだと思いました。

「明日は休みなので、時間は手藻蔓さんに合わせます。何時にうかがえばい
いですか?」
「そうだな。(とって何かノートを捲る音がしばらく続いて)4時30分ではど
うでしょう?」
「明日の四時三十分ですね。アガタビルの正面でいいですか?」
「正面……? ああ、南西の観音開きの扉の前ってことかな?」
「そうなり、ますか? あ、はいそうです。その扉の前に午後4時半ですね」
「そう。四時三十分に待っています。一人で来てください」
「一人で…… ええ。そのつもりです。明日の四時半にアガタビル南西の扉
に一人でうかがいますから」
「ありがとう。待ってるから。正面の扉で」
「はい、それじゃ明日」
「明日? ああ、明日ね。じゃ」

 コサカさんが、そっと近づいてくるのが見えましたが、受話器を置いた私
の顔をみて慌てたようでした。
「ちょっと、顔色悪いよ。大丈夫? おなか痛いの?」
 主任が気にするようにこちらを見ました。
「え、大丈夫大丈夫。ちょっと疲れちゃったから。あ、明日手藻蔓さんに
あって、並木さんのこと聞けそうだからね」
「そんなのいいよ。無理しないでね、ミヤコちゃん」
 そういって、コサカさんがぎゅうっとハグしてくれました。
「え~ いやだな。大丈夫だよ。大丈夫」
 ですが、私自身「大丈夫」という言葉になんの自信も持てずに居たのでし
た。


 15時をつげるチャイムが空に響き、私はいつしか眠っていたことに気付
きました。
ペリエのグラスは、テーブルから落ちて砕け、その跡は乾きつつありまし
た。私はすっかり汗ばんでいてシャワーを浴びていこうと思いました。
 グラスの破片をつまんで、右手の人差し指に血が滲みました。むずがゆい
ような感覚と血の匂いがしました。

「なんだか、行きたくないな」

 なんだか投げやりな気分で、屋上を出ます。扉に鍵を差込んで回すと、鍵
は小気味良い音をたてました。それで私は少しほっとした気がしました。

(20171224)

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星空文庫 過去作品上げていきます https://slib.net/a/20077/

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