KISARAGI

KISARAGI vol.942


カテゴリー: 2017年12月10日
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K I S A R A G I vol.942                              2017/12/10
                                       編集/発行:みやこたまち
                       E-mail:tamachim@yahoo.co.jp
                                 http://mmkisaragi.blogspot.jp/

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通信欄:街中は、クリスマスというより年末の雰囲気

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今週のお話

◆ "古典へのいざない" [712]
    伽婢子《おとぎぼうこ》[21] 竜宮の棟上げ [11]
    作者 たまさん

◆ 大学ノート狂詩曲 宇祖田都子の話
    第六回 手藻蔓空也 3
    作者 宇祖田都子

● KISARAGIについて

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古典へのいざない [712]
伽婢子《おとぎぼうこ》[21] 竜宮の棟上げ [11]
作者:たまさん

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 やがて酒宴はたけなわとなり、皆酔っていい気分になった。三柱の客たち
が席を立ち、礼を言って帰りの準備を始めると、竜王は階段の下まで送って
いった。
「こんなに楽しいのは初めてです。もしできることなら、竜宮城を隅々まで
見せてくれませんか」
 阿祇奈《あきな》が袖を正して願い出ると、竜王は「それくらい問題あり
ません」と快諾した。
 階段を下り、庭に出て歩いてみたが、雲に覆われて何も見えない。竜王は
すぐに吹雲《すいうん》の役人を呼んだ。頭に七曲がりの兜《かぶと》を被
り、鼻が高く、口が大きい蛤《はまぐり》の精が現れ、口をすぼめて天に向
かって吹くと、霧や雲は数十里に渡って晴れ渡った。
 世界は広く平らで、山も岩もない。庭には砂金が敷き詰められ、宝玉の木
が並び、その梢《こずえ》には五色の花が開いている。池には四色の蓮《は
す》の花が咲き、素晴らしい匂いを漂わせている。金の回廊があり、瑠璃の
敷瓦《しきがわら》が庭に並べられていた。
(続く)
                                  ★

 宴会が終わり、今度は竜宮城の中を見せてもらうことになりました。
 続きは次回にお届けします。それではまた。

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大学ノート狂詩曲 -宇祖田都子のはなし
第六回 手藻蔓空也 3
作者:宇祖田都子

コココココココココココココココココココココココココココココココココココ

 翌日は寝坊をしてしまい、坂を駆け下りて図書館へむかいました。追い風
参考とはいえ、タイムカードの時計が正確であるならば、歴代最高記録をた
たき出したことになります。が、その代償は大きく、髪もぼさぼさになるし、
頬は真っ赤になるし、早くも足首がズキズキしています。
 ロッカールームからエントランスへ向かいます。エレベーターの張り紙が
ずいぶん古びたように見えました。

 「おはようございます」と主幹に挨拶をしました。主幹の何か言いたそう
な顔をにこやかにスルーして、私は返却本をワゴンに移しはじめました。
 今では本を手に取るだけで、図書館のどのあたりに帰るべき本なのかを感
じ取れるようになり、頭の中の館内地図にピンピンと旗を立てていきます。
 あとは、それらを一筆書きする最短の順路を導き出せば、周回のタイムの
予測も立つのです。
 と、これは平面的な目安で、所定の本棚へ行った結果、最上段に戻すべき
本であったりした場合には、タイムロスが計上されます。そういうときに
「私の脳内マップの3D化はまだまだだな」と反省するのです。

 本日最初の周回は、幸い高さに煩わされることもなく、ほぼ予想通りのタ
イムで終えることができました。次に回るのは昼食の後になります。それま
では、傷んだ本の修理とか、閉架の整理などをして過ごすのですが、今日は
カウンターに見過ごせない事態が持ち上がっていました。

 手藻蔓さんが、主幹と、カウンター越しに話していたのです。

 私は返却本を返却棚へ運んだり、カウンターの端末付近に常備している裏
紙の補充(するフリを)しながら、二人の会話に耳をそばだたせました。
 「……分ります。お話しはよく分りますけれども、私共はそのカバンを別
の方のお忘れ物としてお預りしているものですから。その方に確認をいたし
ませんと、他の方にお渡しすることができないのです」
 「それも分るが、もともとあのカバンは私のものだし、別の人というのは、
並木喜寿郎さんのことでしょう? それなら、そのカバンは昨日ここで私が
並木さんから受け取るはずのものだったんですよ。用事ができて来ることは
できなかったが……」
 急展開です。手藻蔓さんが、昨夜あのカバンを持っていたことを、私とコ
サカさんは知っています。ですから、このカバンの本来の持ち主が並木さん
であれ、手藻蔓さんであれ、両者共が使用していたということは明らかです。

 「いかがでしょう? 並木様にご連絡をとってみていただくというのは?
 本日私共から並木様に、ご登録の電話番号へおかけしたのですが、どなた
もお出にならなかったのです。お荷物の受け渡しのお約束がおわりならば、
ご連絡もつくのではないでしょうか?」
 ん? 主幹の言葉に少々不穏なものを感じました。
 普段から丁寧すぎる口調で冷たい感じはするのですが、他人を揶揄するよ
うな含みをもたせような物言いをしているところを、私は、聞いたことはあ
りませんでした。何となく、主幹はこのカバンの一件に不審の念を抱いてい
るように感じます。
 「並木さんは、昨夜から海外なんだ。携帯はもっていかないといっていた
し、いつまで滞在するのか、そもそもどこへ行ったのかも、僕は知らない。
 そういう旅だからこそ、並木さんは、僕にこの荷物を託していくのだと言っ
ていた。
 僕にもあまり時間がないんだ。
 昨日ここで受け取るはずだったカバンが今目の前に補完されている。その
カバンは並木さんが持ち込んだものだが、所有者は僕だ」
 「申し訳ないとは思いますが、そこのところが、私共には判然といたしま
せん。つまり、あの並木さんがお忘れになられたカバンの現在の所有者が手
藻蔓様であるという証明をなさるか、もしくは並木様が手藻蔓さまにこのカ
バンと中身をお託しになったという証明なさるか。
 このように融通が効かないことについてお腹立ちはごもっともと存じます
が、私どもがお預りしたからには、責任をもって応対すべきと考えておりま
すので、なにとぞご勘案をお願いいたします」

 主幹は頭を下げました。手藻蔓さんは、右手の爪を少し噛んで、右足のつ
ま先をトントンと床に打ち付けていました。

 「あの……」
 私はそっと、この二人の間の張り詰めた糸に触れないように、本当に抜き
足差し足で近づいていきました。
 「宇祖田さん。今はこちらのお客様とお話しをしていますから、少し待っ
ていてくださいますか?」
 主幹のこんなに冷たい声は初めて聞きました。上気していた頬が冷風に震
え、せっかく足してきたチークが役に立たないほど真っ青になってしまった
ような気がしました。
 それでも、知っているだけのことは言っておかないといけないと、勇気を
振り絞って言いました。

「あ、あの(ウッウウンと咳払い)失礼しました。あの、このカバンについ
ては、一昨日のよる、手藻蔓様がお持ちになっていた証拠が、下の「鸚鵡」
のFBに残っています。顔は隠してありますが、このカバンをお持ちになっ
ているのが手藻蔓さんだということは分ります」
 咽からからです。主幹は腕組みをしてわたしを見下ろしています。
「なるほど。つづけて下さい」
「それから、そのカバンはとても、その、高級なものだと思いますので、
保証書とスペアキーをもしお持ちであれば、少なくとも、カバンの所有者は
手藻蔓様だという証明になるのではないかと思うんですけれども、あの、ど
ういったものでしょう……」

 手藻蔓さんも主幹に劣らず背が高く、そんな二人に冷徹な沈黙に晒されて
いてわたしはもう骨の髄からガクガクブルブルでした。
 が、やがて、手藻蔓さんが大きくうなずき、主幹の肩からほっと力が抜け
るのを感じました。

「保証書ね。スペアキーは今持っている。保証書はカバンに入っている。そ
れに中身はノートだ。おそらく僕あての通信文も入っているはずだ。あなた
にスペアキーを預けるから、中身を確認して、僕が今言ったとおりであれば
渡してもらう。というのではいかがかな?」
「いえ。カバンをここに持ってまいりましょう。カバンはあなたが開けてく
ださい。私共はそのように中身が確認できれば通常のお忘れ物のお引き渡し
の対応をいたしましょう」

 主幹はそういって、地下に降りていきました。 手藻蔓さんが、大きく息
を吐き、私にむかってウインクしました。
「ありがとう。たすかったよ。昨日鸚鵡いったんだね、都子さん」
「え、ええ。ちょっとあの、偶然にいったら、写真があるよってマスターに
言われて」
 これまでカウンター越しに少し会話をする程度だったはずなのに、今の一
件でぐっと距離を縮めてきた感じに、私はおもわずのけぞり気味の対応になっ
てしまいます。
「そういえば、あまり話したことはありませんでしたね。失礼。いきなり馴
れ馴れしかった。
 宇祖田さん。昨年のカリグラフィーの展示会で、倒れかけたって話は、聞
いてますよ」
「え?! いや。あれはその、作品があまりにも、すご、すごすぎてですね、
あてられたというか、あ、これ褒めてませんね。あの、でもなんでそんなこ
とまで……」
「丸尾に聞いたんだ。あの、例の烏口マニアの」
「ああ。丸尾さんとおっしゃるんですか。あの、超絶技巧の」
(宇祖田都子のはなし「円に酔った話」参照)
「そう。僕の個人誌にも時々挿絵を頼んでいるんだ。あれ、凄いよな」
「本当に」

 なんとなく、自然に話せる感じになってきたところで、主幹がカバンを引
いてやってきました。

「こちらで、間違いないでしょうか?」
「そうです。では、あけますよ」

 手藻蔓さんは、今日はタンニン染めの帆布生地でできたカバンからキーホ
ルダーも何もついていない小さな鍵を即座に取り出しました。
 主幹がカバンをカウンターに横たえます。

「では、あけますよ」
「どうぞ」
「……」

 ボッシュ~という重厚な音とともに、カバンの蓋が持ち上がりました。と
ても気密性の高いカバンようで、開けたとき返事をしたら吸い込まれてしま
いそうなほどの吸引力です。

 カバンは、茶色の包装用紙にきっちりと包まれた真四角なカタマリでほぼ
一杯でした。そして上に一枚の付箋がついていました。そこには、鉛筆で
「手藻蔓君 あとはよろしく 並木」
と走り書きがされていました。

「これで、いかが?」
「はい。結構です。お手間をとらせまして大変にもうしわけありませんでし
た」
「いいさ。信頼の置ける図書館だということがよく分ったし」
「それでは、こちらの受取証にサインをお願いいたします」
 二人の間にはまだ、何かが張り詰めているように感じましたが、先ほどま
での剣呑さはなくなったような気がします。

 カバンを受け取った手藻蔓さんは、私にむかって
「サンキュー。近いうち何かおごるよ」といって、図書館を出て行きました。
 主幹は私にむかって
「ありがとう。たすかりました」とだけいって、仕事に戻られました。その
言い方は普段と全く変わらないものでした。

 そんなこんなで、昼休憩です。私はこの単純なようで入り組んだ顛末を、
どうやってコサカさんに伝えようかと考えながら、ランチに出かけました。

(20171210)

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