KISARAGI

KISARAGI vol.940


カテゴリー: 2017年11月26日
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K I S A R A G I vol.940                              2017/11/26
                                       編集/発行:みやこたまち
                       E-mail:tamachim@yahoo.co.jp
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通信欄:渋澤龍彦 ドラゴニア展 12/15まで。世田谷美術館だって。
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今週のお話

◆ "古典へのいざない" [710]
   伽婢子《おとぎぼうこ》[19] 竜宮の棟上げ [9]
   作者 たまさん


◆ 大学ノート狂詩曲 宇祖田都子の話
   第四回 手藻蔓空也 1     
     作者 宇祖田都子

● KISARAGIについて

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古典へのいざない [710]

  伽婢子《おとぎぼうこ》[19] 竜宮の棟上げ [9]      作者:たまさん

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 舞が終わると竜王は大喜びし、杯《さかずき》を洗い、銚子《ちょうし》
を改めて阿祇奈《あきな》の前に置き、自ら玉の笛を吹き鳴らして「カイ
(※山偏に解)谷吟」を歌った。
「この場にいるものたちは、出て来て客人のために面白い芸をしなさい」
 畏まりながら前に進み出たのは蟹の精で、「郭介子《かくかいし》」と名
乗って歌を歌った。

「わたしは谷のかげや岩間に隠れていますが、桂《かつら》が実る秋になる
と月の清らかさ、風の涼しさにいざなわれ、川を転がり、海を泳ぎます。腹
は黄色で、外側は丸くて非常に固く、二つの眼は空を望み、八つの足でまた
がります。その姿は乙女の笑いを誘い、その味は兵士の顔を喜ばせます。鎧
をまとって戈《ほこ》を取り、泡を吹いて瞳を巡らせ、『無腸公子《むちょ
うこうし》』の異名を世に知らしめ、綱手《つなて》の舞を舞います」

 郭介子は歌いながら前に進み後ろに退き、右に駆け左に走ると、蟹の仲間
たちは拍子を取った。座のものたちは笑壺《えつぼ》に入り、大いに盛り上
がった。
(続く)
                                  ★

 子どもたちの踊りに引き続き、竜王と蟹の精による歌が披露されました。
 ちなみに、文中にある「カイ谷」はかつて中国の西方にあったされる霊山
・崑崙《こんろん》の谷の名前です。
 続きは次回にお届けします。それではまた。

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 趣味で読んでいる古典文学の現代語訳と参考文献を主に掲載しています

「山猫屋本舗」http://yamanekoya.net/
 写真日記を綴っています

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大学ノート狂詩曲 -宇祖田都子のはなし

第四回 手藻蔓空也 1
                          作者:宇祖田都子
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 「カフェギャラリー 鸚鵡」には、いつも傘をもって来る。濡れたコンク
リート打ちっぱなしの壁面には寂寥を感じますが、それは嫌なものではなく、
自身の心中深くに潜っているときに聞こえる、聴こえないはずの鼓動、に似
ている気がします。
 エントランスまでの小路にしきつめられたモザイクタイルの上に、濡れた
葉っぱが貼り付いています。潜水艦の扉みたいなドアを開け、マスターが備
前焼の大きな壷を出しているところでした。
 私は、「こんにちわ」と会釈をし、コサカさんは、「こんちわー」と傘を
上下させました。マスターはかがめた腰をのばして、小さな丸い眼鏡の奥で
やわらかく瞬きをしました。
「いらっしゃいませ。都子さん。タモっちゃん。ひどく降られましたか?」
「全ッ然大丈夫よ、おじさん。これから参謀会議するから、よろしく」
「はい。ごゆっくりどうぞ。都さんも」
「はい」
 私は、コサカさんが、マスターとこれほど気の置けない会話ができるほど
に常連であったことを、知りませんでした。そういえば、コサカさんと二人
で、仕事後に出かけるなんてことも、初めてだったのだということに、私は
今更ながらに気付きました。

 一番大きなテーブルの中央には、相変わらず様々なzineが積んであります。
私は、喫茶店の奥のボックス席へ向うコサカさんを呼び止め、テーブルに、
入り口を背にして並んですわりました。ぶら下がっているシャンデリアに灯
が点りました。
「ブレンド。ホットで。都子さんは?」
「私は、マンデリンを」
 マスターはゆったりと頷いて、支度を初めます。他のお客様の姿はありま
せん。コサカさんは、頬杖をついて目の前のzineを手に取り、パラパラとめ
くりながら私に尋ねました。
「なんで、このテーブルにしたの?」
 私はコサカさんの質問にうなずき、それからzineの山に目を走らせました。
「コサカさん。手藻蔓さんのこと、知ってる?」
「え? あんまり知らない。並木さんとだって、本を探すとき意外で口を聞
いたのも初めてだったし。たぶん、私がシフト入っているときに、手藻蔓っ
て人は来たことないと思うな。本の貸し出しでもしてたら、手藻蔓なんて珍
しい名字の人、覚えてないわけないしね」
 コサカさんが話している間に、私はコサカさんに見せたかったものを発見
し、とりあえず、3冊のzineをコサカさんの前に並べました。

『文具マニアクス vol.41 温故知新 ―ツバメノートを検証する』
『Adana21J 使い倒しNote』
『芸術家の手帳 vol.3 パウル・クレイ編』

 コサカさんは、不思議そうな顔で私をみてから、改めてこれらのzineを見
ました。
「アッ!」
 私は、コサカさんが気付いたことに、内心「ガッツポーズ」を決め(表向
きは、やさしく微笑むにとどめたつもりです)、マスターに声をかけました。
「手藻蔓さん。何か新しい本。置いていかれましたか?」
 マスターは、何本ものサイホンの向こう側で、ゆったりと動きながら、
「ええ。今日また、一つ置いていったようですよ」と応えました。
 
 入り口が開きました。
 私とコサカさんは、なぜか「ハッ!」として、勢いよく振り向きました。
知らない男女が怪訝そうに私達を一瞥し、窓際の席に着きました。私達はな
んとなく顔を見合わせて、声をださずに軽口を言い合ってから、手藻蔓空也
さんが、今日置いていったというzineを探しました。

『文鳥の掴み方』

 まだ誰にも読まれた痕跡がなく、それでいて表紙に描かれた文鳥のイラス
トのタッチが、なんとなく他のzineの線に似ているところから、私はおそら
くこの冊子なのだろうと目星をつけました。コサカさんは、片っ端からzine
の山を崩しています。やがて、
「あったぁ!」
 と大きな声をあげたコサカさんは、先ほど入ってきた二人に睨まれて、
「ごめんなさいね」という口の形とともに、頭の上で右手をとさかのように
して頭を下げて見せると、男性のほうが、ちょっと笑ってしまって、連れの
女性が一瞬だけ鬼の形相になるという寸劇を、私は無責任に楽しんでいまし
た。
 あ、コサカさんは、背が小さなサラサラボブヘアの、芸術系学校卒業の、
とてもかわいい女の子なので、彼女がそんなしぐさをすれば、たいていの男
性は、悪い気はしないはずです。

「お待たせしました」
 マスターがブレンドと、マンデリンを届けてくれました。二人ともブラッ
クなのことは、マスターは承知しています。
「ああ。それです。『文鳥の掴み方』イラストがかわいいですよ。彼はとて
も器用ですね」
「これは?」とコサカさんが大きな版型の冊子をマスターに見せました。
マスターは、にっこりと笑って
「とても斬新でしたよ。あなたのzineは。なぜ、第二段がないのかと、時折、
聞かれて困ります。もう、作らないのですか?」
「私も、これでなかなか、忙しいのよ。ま、そのうちにね。ヘヘヘ」
「え。コサカさんの? 見たい見たい」
「え~。本格的な展覧会を開催してる都ちゃんに見せるのは恥ずかしいな。
でも、これ結構自信作だったんだ。学校の仲間で作ってさ」
 コサカさんは、興奮してくると私のことをミヤチャンと呼びます。そう呼
ばれるのはとてもうれしかったりします。

 それから、30分くらい、私達はコサカさんの学生時代の活躍について話
をし、追加オーダーでパスタとデザートを注文しました。その間にお客様は
数組あって、そのうちの何組かは、ギャラリーの方を回っているようでした。

 お手洗いにたったとき、ギャラリー入り口の横にあるイーゼルを見てみる
と、古代布に書道で源氏物語を描いた作品の展示をしていると書いてありま
した。会期は次の日曜日までになっています。コレは是非、見に来なければ。

(20171126) 
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星空文庫 過去作品上げていきます https://slib.net/a/20077/
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