KISARAGI

KISARAGI vol.898


カテゴリー: 2017年02月05日
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K I S A R A G I vol.898                               2017/02/05
                                             編集/発行:みやこたまち
                         E-mail:tamachim@yahoo.co.jp
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今週のお話

◆ "古典へのいざない" [670]
   春雨物語 [182] 樊カイ [35]
   作者 たまさん

◆ 連続愛の小説 E [16]
  作者 みやこたまち

◆ 空想技術集団 [15]
    作者 みやこたまち

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古典へのいざない [670]

 春雨物語 [182]  樊カイ[35]                  作者:たまさん

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 到着すると、水鳥が鳴きながら遊んでいる大きな沢に二つの浮島が漂って
いた。樊カイ《はんかい》はもう一つの島がこちら側の岸から離れようとし
ているのを見つけ、引き留めて村雲に言った。
「さあ、乗れ。浮かんで遊ぼう」
 村雲が飛び乗った直後、樊カイは力任せに島を突き出した。
「おい、何をする」
 それには答えず、笙《しょう》を取り出して喜春楽《きしゅんらく》を高
らかに吹いた。
「どうするつもりだ!」
 そのまま樊カイは笑いながら立ち去った。
 翌朝早く、宿を出立するときに村雲と出会った。
「おのれ、恩知らずめ。命を助け、金百両を与えたときは親と思って頼りに
すると言っていたのを忘れ、俺を水の上に放置するとは勘弁ならぬ。――だ
が、今は思うところがあるから許してやる」
 そう言って連れ立った。
(続く)
                                  ★

 樊カイは再会したばかりの村雲を浮島の上に放置したまま宿に帰りました
が、許してもらったようです。
 この続きは次回にお届けします。それではまた。

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HP
「かたかご」http://yamanekoya.jp/
 趣味で読んでいる古典文学の現代語訳と参考文献を主に掲載しています

「山猫屋本舗」http://yamanekoya.net/
 写真日記を綴っています

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連続愛の小説 E [16]

e-4 生き難い魂 [e4-5]                 作者:みやこたまち

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e4-5

 ただ、そのように生きる彼女の周りには、彼女を傷つけようとする人が現われ
なかったようにみえる。もし、そうした仕打ちを受けていたとしても、彼女から
の電話はいつも穏やかで、何気ない風であり、日々の喜びに溢れていた。
 敵を敵としてみなければ敵ではなくなる。私は人から軽んじられ、利用され、利
用価値の無さにあきれられ、無視されるタイプの人間だが、彼女は誰かに利用され
る、という風ではなく、常に協力体制を求められ、求められる以上のものを平然と
与えることに喜びを見出すタイプの人間だったように思うのだ。
 だから、彼女の最初の結婚の後の電話に、夫と夫が経営しているコンビニの経営
手腕に対する愚痴が増えていったことが、僕にはぞくぞくするほどうれしかった。

 彼女は肉親からの疎外の事実によって、肉親を愛した。彼女と母との間にある親
愛の情は、いわば一筋の川を隔てたあちらとこちらとで、微笑みをかわしあうと
いったものだったのだろう。その川に橋はないのだ。互いに行き来できない隔たり
によって、互いを存分に思いやることができた。
 だが、結婚とはその隔たりが棘と化してイライラと互いの心を刺し貫くものなの
だ。

 尾花友希(結婚後も、私は彼女を旧姓で呼び続けていた。予断だが、みづはの場
合は夫の姓が同じだったため、結婚後も苗字が変わらなかった。それは、私の心に
ある種の気安さを産んでいたと思う。以前には時折ハガキを書いていた。夫のある
人に封書を出すのは気が引けたからだが、手紙であれば夫だって全文を目にするこ
とができるのだし、そこに恋慕の情などがないことは、明らかなのだから、手紙を
書くことに対する心理的障壁は無かった。と、今にして思えば、手紙を書こう、と
いう思いそのものに、一種の親愛の情が含まれていると受け取られることは当然の
ことであり、ましてや以前付き合っていた相手から、十年たっても思わせぶりなハ
ガキがとどくというのは、夫にとっていささかおもしろくない事実であったろう。
それを表に出すような了見の小さな男と思われたくないという男としての矜持、す
なわちやせ我慢を、私は笑っていたようなものだ。
 それは、自分が結婚したのちに、ようやく気付いたことだ。掌を返したように、
年賀状以外での連絡を断った私の身勝手を、みづはは呆れたことだろう。いや、よ
うやく分かってくれたか。と安堵したというところだろうか)の弱り果てた声を、
ベッドの中で聞きながら、今度は私が彼女との間との隔たりに安堵し、彼女の苦悩
をゆっくりと引き出しながら、余すところ無く貪っていたのである。
(20170205)

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空想技術集団 [15]

3 勤怠管理部の氷の女と福利厚生部の水の女 5
                           作者:みやこたまち
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3-5

 普段は「凪」ですら気を緩めることなく、営業二課という表舞台から社史編纂室と
いう窓際へ追いやられた敗残者の苦悩と諦めとを演じ続けていたというのに、なぜ敵
陣のど真ん中でこのようなモノログを始めてしまったのかと考えるにつき、この勤怠
管理部の中枢においては、いかなる取り繕いも、たちどころに暴かれてしまうのだ、
そのような催眠誘導電波が、もちろん非公式に、非合法の洗脳電磁波が、ビンビンと
飛び交っていたのに違いなかったのでした。

―アルビヤアヤノ

 水銀のようにどろどろと重たい光沢を帯びた声が、愛らしくぷっくりと膨らんだ唇
の間から弾けました。燃えるように熱いようで液体窒素のように冷たい吐息とともに。

「はい」

 私は観念しました。私の先ほどの思考はこの会社に対する大逆に値します。自らの
能力を偽って、閑職に追いやられたようにみせ、実はこの社内の特異点でもあった社
史編纂室へ、計画通りに配属されたことも、もはや、どちらがどちらを手玉にとった
のか知れません。
 両膝をつき、太ももをぎゅっとつねって、私は知媚型端末を見上げました。顔のまん
前には、彼女の愛らしい球体関節の膝小僧が微笑んでいて、その隙間からはぼんやりと
青白いものがのぞいていたのを、深く深く記憶にとどめようとしたこの欲望でさへ、
彼女はお見通しなのでしょう。

 氷の女は、サラリーマンの皮を被った性欲など意に介さぬように僕を見下ろしていま
す。その薄茶色の瞳の奥底では、七色のLEDを忙しく点滅させ、僕の査定をおこ
なっているのです。

―認証エラーです。社員証再発行のため、厚生部へ送ります

                                                                 (20170205)

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