KISARAGI

KISARAGI vol.939


カテゴリー: 2017年11月19日
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K I S A R A G I vol.939                              2017/11/19
                                             編集/発行:みやこたまち
                         E-mail:tamachim@yahoo.co.jp
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今週のお話

◆ "古典へのいざない" [709]
   伽婢子《おとぎぼうこ》[18] 竜宮の棟上げ [8]
   作者 たまさん


◆ 大学ノート狂詩曲 宇祖田都子の話
   第三回 ゼロハリバートンのスーツケース 3     
     作者 宇祖田都子

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古典へのいざない [709]

  伽婢子《おとぎぼうこ》[18] 竜宮の棟上げ [8]                  作者:たまさん

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 とても喜んだ竜王は、三人の客にも祝辞を見せた。皆、感心して褒め称え、
すぐに棟上《むねあ》げの宴が開かれた。
「阿祇奈《あきな》殿は人間なのでご存じないかもしれませんが、ここにい
る三人はそれぞれ江《え》の神、河の神、淵の神です。あなたの友人となり、
今日の宴で親交を深めてください。さあ、遠慮は無用です」
 竜王は杯を巡らせ、酒を勧めた。
 やがて、二十歳前後の女たちが十数人現れ、風に舞う雪のように袖を翻し
ながら歌い踊り始めた。この世の者とは思えぬ美しさで、麗しくたおやかな
身のこなしである。玉のかんざしに花を飾り、白い薄絹《うすぎぬ》に袖を
付け、歌声を雲まで響かせながら舞った。
 女たちが退くと、今度は角髪《みずら》を結った十余人の童子が登場した。
その愛らしさはまるで雛人形のようで、唐縫《からぬ》いの直垂《ひたたれ》
に錦の袴《はかま》を身に付け、花をかざしながら立ち巡り、袂《たもと》
を翻して踊った。管弦の音に合わせた澄んだ歌声は、梁《はり》の塵を吹き
飛ばし、空まで上るほど素晴らしかった。
(続く)
                                  ★

 主人公が上棟式の祝辞を書き終えると、宴が始まりました。
 続きは次回にお届けします。それではまた。

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 趣味で読んでいる古典文学の現代語訳と参考文献を主に掲載しています

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 写真日記を綴っています

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大学ノート狂詩曲 -宇祖田都子のはなし

第三回 ゼロハリバートンのスーツケース 3
                           作者:宇祖田都子
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 上がるのか、続くのかはっきりとしない小雨の一日は、忙しいのか、閑なのか分らな
いまま、終えようとしていました。私は、返却処理を終えた書籍を分類順にワゴンに並
べて、館内を三周? 朝から閉館まで、それぞれのベンチや出窓の張り出しにじっとし
たまま読書し続ける人達の間を、息をとめて、ゆっくりと、力をこめてワゴンを押して
回りました。ある程度勢いをつけてしまえば、もっと楽に押せるのですが、そうすると、
目的の地点でワゴンを停める際に、案外と力を使わなければならないのです。それに、
それは安全とはいえません。ですから、私は「静中動」という言葉を思い浮かべながら、
「お能」のゆったりとした所作のように、太極拳のように、爪先、踵、踝を円滑に回し
て、ふくらはぎへ。膝をクランクのように使って腿から臀部、そしてインナーマッスル
を意識して、背筋を撓めずに両方の肩に直接踵がついているイメージで、一歩一歩力を
こめて押すのです。
 それがあまりに気持ちが良いので、つい、返却すべき書架を通り過ぎてしまいそうに
なって、結果的にワゴンを急停止させなければならないという事態も幾度か発生するの
ですが、あくまでも静寂の元に、それらは遂行されねばなりません。

 その日、最後の返却作業からもどると、カウンターの後ろで、主幹と午後に2時間だ
けくるアルバイトのコサカさんとが、話していました。その間には、並木さんのものと
思われるゼロハリバートンのスーツケースが置いてあります。
「あ、それ並木さんのスーツケースですか?」
 私はそういいながらカウンターに戻りました。他愛のない報告的な雑談をニ三言、主
幹とかわしたらタイムカードに打刻して、地階の更衣室へ向かう。全くいつもと変わら
ぬ気持ちで、私は主幹と目をあわせたのです。
「宇祖田さん。このスーツケースのこと、並木さんから何か聞いていませんか?」
 私は、いつもの微笑みを唇の端にひっかけたまま、へっ? と固まりました。そして、
私は並木さんから言付かっていたことがあったということを、すっかり忘れていたこと
を思い出したのでした。

「その、スーツケースは、今日、並木さんが持っていらしたものですか?」
「こんな高級品を持ってる人が、一日に二人も、ここに来るなんてことないと思うな」
 コサカさんは、足元のスーツケースをまじまじと見ながら言いました。私は、並木さ
んから預かったときに感じた重要を、二の腕に思い出していました。
「ちょっと、持ってみてもいいですか?」
「それで何か、分るのですか?」
 主幹は、ちょっと首をかしげ、それから、
「まぁ、それではちょっと、持ってみてください」
 といって、ハンドルを私の方へむけました。コロはキシともいわず、スーツケースは
滑らかに向きを変えました。
「かなり、重たいですよ」
「はい。階段を上がるとき、お手伝いしましたから」
 私はそう答えてスーツケースのハンドルをもつと、床から軽くもちあげようとしました。
それは、辛うじて床から浮かすことができたかどうか、という程度にしか持ち上がらな
かったのです。
「主幹」
「どうでしたか?」
「私がお手伝いしたときよりも、重たくなっています」
「となると、上で何か、詰め直したということですか。それとも、並木さんのカバンでは
ないのか……」

 主幹は顎に手を当てて、少し考えています。他の職員たちが、私達三人を怪訝そうに見
ながら、「お先にしつれいします」といって、地階へ向かいます。
「ああ。お疲れ様」
 主幹はあきらかに上の空でそう応えて、それから、主幹の目の前に突っ立っている二人、
私とコサカさんとに、改めて気がついたというような顔をしました。
「あ、君達も、今日はいいよ。お疲れさま」
 私は何か、釈然とせず、うやむやに会釈を返すことしかできませんでした。
「それじゃ、また明日」
「はい。お疲れ様です」
 私がそういって、カウンターを出るとき、コサカさんと主幹の話し声が聴こえました。
「私、拙かったですか?」
「いや。行きがかり上、こうなるより他なかったのだと思います。ともかくこの件は、遺失
物扱いにして、明日にでも、並木さんに連絡してみましょう」
 私は背中越しの会話がきになって、エレベーターのボタンを押してからずっと、会話に耳
をそばだたせていました。

「宇祖田さん」
 と不意にすぐ後ろから私を呼ぶ声がして、私は、ビクッっと肩を震わせました。
「エレベーター、故障してるよ」
 振り向くと、コサカさんが張り紙を指差していました。そこには、今朝私が書いて貼った
案内文がありました。
「そ、そうだったね。コサカさん。あのバッグ、並木さんから預ったの?」
 私は、動揺していて、つい、聞きたかったことを口にだしてしまいました。コサカさんは、
少し眉を寄せて、コクリと頷きました。

「今日、テモズルって人、おみえになりましたか?」
「あっ!」と私は少しだけ、大きな声をあげてしまいました。口をおさえて、カウンターを盗
み見ると、主幹の端末を叩く指が、一瞬戸惑っているのが見えた気がしました。
「なんっか、あるんでしょ、宇祖田さん。鸚鵡、寄りましょ。参謀会議しないと」
 鸚鵡というのは、この図書館の敷地の隣にある「カフェギャラリー 鸚鵡」のことです。以
前、私と友人とで展覧会をするのでお世話になった、コーヒーとランチが美味しい喫茶室です。

「うん。ちょっと気になるんだ、私も」
 私達は、かさをさしたり、とじたりしながら、夕暮れ時の坂をだらだら下っていきました。

(20171119)
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星空文庫 過去作品上げていきます https://slib.net/a/20077/
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